「入院中の患者さんが攻撃的になり、自分で点滴を抜くなどの困った行動をする」「認知症の親族が昼間は調子がいいのに、夜になるとそわそわしたり奇声をあげる」…こんなことを見たり聞いたりしたことはありませんか?これらは、医学用語で「せん妄」(せんもう)と呼ばれている症状です(漢字で書くと「譫妄」。「譫」の字は「うわごと」の意味)。お年寄りに多くみられる症状ですが、年齢を問わず誰しもが陥る可能性のあるものです。身近に入院している人や介護が必要な人がいる場合は、ぜひ知っておきたい症状です。

目次

せん妄とはどういう状態?薬は?

せん妄とは、軽い意識の障害です。日時が分からなくなる、注意力などの認知機能が低下する、幻覚や妄想を生じる、錯乱・興奮状態になる、無表情になる、無気力になる・寝てばかりいるなどの多彩な症状が現れます。せん妄のタイプについては、後ほど詳しく説明します。

せん妄を薬で治療する場合、多くは精神病に使われる薬が用いられます。ただし、「せん妄の薬」というものがあるわけではありません。統合失調症など他の病気の薬が、医師の判断によってせん妄に用いられます。当然、薬には副作用などのデメリットも多くあります(たとえば、お年寄りに精神病の薬を用いると誤嚥肺炎のリスクが高まる可能性があるといわれています)ので、薬を飲むことによって得られるメリットとリスクとのバランスを取りながら、薬が必要かどうかを慎重に判断します。

せん妄の原因は、環境の変化、ストレス、アルコール、中枢神経に作用する薬、脳血管障害、感染症など、脳に何らかの影響をもたらすものが挙げられます。特に、高齢者は入院をきっかけに生活のリズムが狂い、せん妄を起こすことが多く認められます。

せん妄は高齢者に起こることが多いのですが、若い人でも同様に、大きな病気や入院などがきっかけとなって起こることがあります。高齢者の場合は、せん妄の症状が長期間に渡って続いてしまう傾向があるので、早めの治療が必要です。

せん妄の3つのタイプとは

若い女性の後姿

それでは、せん妄の3つのタイプを詳しく見ていきましょう。

1.過活動型

せん妄のなかでも典型的なのがこの過活動型です。興奮して支離滅裂なことをする、叫ぶ、暴れるといった行動が見られます。幻覚(特に幻視)妄想が強く感じられ、入院中の場合は点滴を引き抜くなど、命に関わる行動がみられる場合があります。

2.活動低下型

過活動型とは反対に、無表情・無気力となるのが活動低下型です。

目がうつろになり、眠っているのか起きているのか分からないような状態が続きます。一見、穏やかで問題なさそうですが、うつ病や不眠症と間違われやすく本当の症状に気がつきにくいという危険があります。

3.混合型

上記2つのタイプが混在するものもあります。それが、混合型です。過活動型と活動低下型の特徴が入り交じります。呼びかけても反応がないかと思いきや、急に攻撃的になるなどの状態です。

認知症との違いはどこ?

お年寄り

せん妄と認知症は、原因も症状も異なる病気ですが、認知症の患者さんがせん妄状態となると、医療の専門家でもその区別が難しいケースが多くなります。2つを区別する際のポイントは、せん妄は多くの場合原因が明らかであり、比較的急速な発症である、症状に変動がある、幻覚(特に幻視)を認めることがあるなどの点から区別します。脳波やCTなどの画像検査も診断の参考になります。

また、その原因も大きく異なります。せん妄は基本的に一時的な症状であり、治療によって改善します。一方、認知症は加齢などが原因の脳の変化によって起きるため、完全に元に戻ることはありません。

せん妄と認知症の違い

せん妄 認知症
症状の出始め 突然。はっきりとしたスタート ゆっくり。スタート時点は曖昧
症状の持続時間 数日~数週間 ずっと続く
原因 感染、脱水、薬物の使用、環境の変化など アルツハイマー病、レビー小体認知症などの脳の病気

出典:THE MERC MANUALS ONLINE MEDICAL LIBRARYを元にいしゃまち編集部作成

 

まとめ

せん妄は、急な病気や中毒など、きっかけがあればどんな人にも起こる可能性があるものです。せん妄になると急に様子が変わってしまい驚いてしまいますが、いざという時にあわてないように、あらかじめ原因や結果を知っておくことは大切です。家族がせん妄かもしれないと思ったら、普段の様子とともに、何かいつもと違うことがあれば医師に伝えるようにすると診断の助けになります。