年をとれば、からだのいろいろな部分に不調が生じてくるものですが、「白内障」もそのひとつです。発症率についてはさまざまなデータがあるものの、臨床に携わる専門医の先生が「生活には支障のない程度の初期の症状を含めれば、50代でもほぼ100%が罹っている」と仰るほどに、私たちにとって身近な病気といえます。
白内障の治療といえば手術による治療が頭に浮かびますが、「手術が好き!」「手術なんてぜんぜん平気だよ」という方は珍しいでしょう。手術には少なからず不安が伴います。
そこで今回の記事では、白内障の手術を検討すべきタイミングや発症の原因、自覚症状などについて、専門医の先生に答えていただきました。
「先生、『白内障』ってどんな病気ですか?」
目はカメラと似た構造になっています。レンズにあたる部分が水晶体(すいしょうたい)、フィルムにあたる部分が網膜(もうまく)です。実際は、一番表面にある角膜(かくまく)もレンズの役目をしているのですが、水晶体はまさにレンズそのものの形をしていますので、「水晶体=レンズ」と考えるとわかりやすいかと思います。
体の中で透明なのは、角膜と水晶体と、その奥の硝子体(しょうしたい)だけです。その水晶体が白く濁って(黄色や茶色の場合もありますが)、視力が低下した状態が白内障です。
ちなみに、焼き魚を食べるとき、目から固いのが出てきたのをつついて「目だ、目だ」と言っている人をけっこう見ますが、あれは目全体ではなくて、水晶体なんですよ。魚の水晶体はとっても丸いことがわかりますね。
あれはこちこちで真っ白になっていますよね。新鮮な魚なら柔らかくて透明ですから、あれこそが究極の「熱傷による外傷性白内障」というわけです。
余談ですが、よく、「コレが美味しいんだよ」と言っておじさんたちが食べている、焼き魚の目付近からプルンと出てくる透明なのが、水晶体と網膜の間にある「硝子体(しょうしたい)」です。味はほとんどないはずです。自分は毎日イヤというほど見ていますから、眼科医になってからはどうしても食べる気にならないのです。普通の神経している眼科医は皆同じでしょう(笑)
「どうして白内障になるのですか?年齢が若くてもなるのでしょうか?」
若い人がなる場合は体質です。良くあるのがアトピー性皮膚炎ですが、そのような病気が何もなくても若くして白内障になる方もけっこういらっしゃいます。そういう人は、「生まれつきそのようにプログラムされている目だったのだ」ということですね。
高齢者がなる場合は、単なる経年変化です。先程言いました通り、魚の水晶体は熱を加えると真っ白になりますよね。おそらく熱を加えなくても、放置しておくだけで濁ってくるだろうことはみなさんご想像いただけるでしょう。人間の水晶体もそれと同じです。強い熱が加わると急激に白内障になりますが(ガラス職人さんなどに多い、といっても、実際の臨床の現場ではほとんど見ない)、熱が加わらなくても、経年変化で濁ってくるというわけです。
美しい若い人をさして、あの人は透明感がある、などとよく言われますが、水晶体はほんとうに若いと透明で、年齢をかさねると濁ってくるというわけですね。
紫外線が白内障に悪いという記事をよく見ますが、実際の臨床の現場では、紫外線をよく浴びる人、例えば漁師さんやサーファーやテニスプレーヤーなどに、翼状片などの目の表面の病気は明らかに多いのですが、そういう人に白内障が特別多いということはありません。なので、全くというと言い過ぎかと思いますが、あまり関係ないと考えてよいかと思います。
「どのぐらいの割合で発症するのでしょうか?」
自分は、白内障は白髪(しらが)みたいなものだと思っています。
白髪というと、もちろん真っ白の人は白髪ですが、1本だけ白いのがあっても白髪は白髪ですよね。
白内障も同じです。ほんのすこし濁っている人から、むこうが見えないぐらい真っ白に濁っている人までいます。
ほんの少し濁り始めているのも白内障とすると、50才の時点で100%と言ってもさしつかえないと思いますよ。50才で白髪が1本もない人が滅多にいないのと同じで。
「見え方の変化など、自覚症状はありますか?」

みづらい、かすむ、というのが一番多いパターンですが、意外と多いのに「まぶしい」という症状があります。通常、水晶体を通ってまっすぐ網膜中心部に達するはずの光が、乱反射して網膜中心部にちゃんと到達しないので、脳に行く信号が少なくなって、瞳が期待通りに閉じてくれないのが原因と考えます。
「…やはり手術すべきですか?放置はだめですよね?手術のタイミングも知りたいです」
自分の外来では、毎日以下のような会話がかわされています。
「白内障は患者さんが不便をお感じになると手術で治療、ということになりますよ」
「先生、不便を感じたときって、いつですか?」
「その質問をされる時点で、不便を感じていないということだと思いますよ(笑)」
「では、手術を受けたほうが良い目安とかあるのですか?」
「矯正視力、すなわちめがねで一番見えるようにした時の視力が0.5を切るようになってきますと、手術を検討してください」
こんな感じです。
現代の手術では水晶体の中身をくだいて吸い取ってきれいにしますので、あまりに進行すると、中身が硬くなって手術がやりにくくなります。手術がやりにくいということは成功率が落ちるということなので、患者さんにとってデメリットになるわけです。なので、矯正視力が0.5を切るぐらいになったら、例え不便を感じていなくても、手術を検討してください、となるわけです。
しかし、世の中には矯正視力が0.1になるまで眼科にも行かずにほっとくようなお気楽な人もけっこういます(私の母親(汗))…
矯正視力が0.1を切るぐらいまで進行すると、徐々に水晶体が膨らんできます。どんどん膨らむと、水晶体が眼内の水(房水)の出口を圧迫するので、房水がたまって眼圧が上がって緑内障になって、ほんとうに失明してしまいます。なので、
- 矯正視力が0.5までは希望なら手術
- 矯正視力が0.5を切ったら手術を推奨
- 矯正視力が0.1を切ったら手術が必要
と考えておくのが良いと思います。
「手術によって何が改善しますか?懸念すべきことはありますか?」
改善点に関しては、あたりまえですが、よく見えるようになることが極めて高率に期待できる、ということですね。手術が成功した症例のうち、通常99%ぐらいは満足されるのではないでしょうか。ですが、残念ながら100%の方が満足、ということにはなりません。
懸念すべき点は
- 眼内レンズのふちに反射した丸い光が、特に夜間、瞳が開いたときに見えてしまうことが多々ある。
- どういうわけか、手術が完璧なのにあまり視力が上がらない人がいる。体質的に合わないのだろうか。
- 非常に希だが、術後に感染を起こす人がいる。感染が起こったら、矯正視力が一生でないことが多い。
こんなところでしょうか。
レンズのふちが見える、に関しては、結構多くの方が自覚されます。通常それでも問題ないと感じられるのですが、ものすごく怒ってしまう方もいらっしゃいます。自分の病院では事前にちゃんと説明していますから大丈夫ですが。
下の二つに関しては、運が悪かったと諦めてください。人生、ある程度の諦めを用意しておくことが大事です。
「手術に向けて、準備すべきことはありますか?」
これは基本、なんにも考えなくて良いです。事前に病院から配布される注意書きみたいなものにその病院の流儀が書いてありますから、それに従うだけです。一般論では、しばらくは顔や頭をざぶざぶ洗えないですから、前日にはちゃんとお風呂に入っておくことと、キャンセルにならないように、健康管理をしっかりしてほしい、というところですね。
まとめ
早めに気付いて専門医に相談し治療することで、高い確率で日常生活には不便のない程度に目の機能を保てることがわかりました。患者さんができることとして、白内障の発症が増える年齢以降は特に、日頃から見え方・見えづらさに注意し、適切なタイミングで治療が行えるようにしたいですね。
一方で、手術には少なからず副作用やリスクが伴うのも事実です。主治医と目標をしっかりと共有しながら治療を受けることも、良い治療を受けるうえで大切です。