感染症の中には動物を介して発症する病気もあります。「トキソプラズマ症」は人や動物、鳥類に感染することが知られており、特に妊婦さんは感染しないよう気を付ける必要があります。今回は「トキソプラズマ症」についてご説明します。

目次

トキソプラズマ症とは?

「トキソプラズマ症」は、トキソプラズマ原虫の感染によって起こる動物由来感染症です。感染者は少なくなく、日本の成人の10%前後が感染しているという報告もあります。トキソプラズマは、イノシシなどの野生動物が持っていて、ふんとして排出されて土、川や湖などで生存しています。街中では、ネコなどが遊ぶ公園の砂場や庭などからも見つかっています。ほとんどの動物に感染します。

どのようにして感染する?

トキソプラズマがいる泥や土に触り、汚れた手を洗わずに食事をしたり、川の水をそのまま飲むことによって、寄生虫が口から身体の中に入ります。その他、トキソプラズマにかかった野生動物の肉を生で食べたときも感染します。

特にネコに注意!

ネコ科の動物は、トキソプラズマが増殖する唯一の宿主として知られていて、トキソプラズマ症の主な感染源と考えらえているので、飼い猫がトキソプラズマに感染しないように気を付けましょう。ネコが外に出てネズミや鳥を捕まえるときに、トキソプラズマ原虫を取り込み感染することがあります。ネコは室内で飼うようにして、食事は市販のキャットフードを与えましょう。ネズミを食べてトキソプラズマに感染する可能性もあるからです。加熱不十分の肉を与えてはいけません。

ネコのトイレに妊娠中の人は触らず、健康な人にすぐに片付けてもらうようにします。ネコのふんの中のトキソプラズマはすぐには感染する力を持っていませんが、1~5日で成熟して感染する力を持つようになるので、毎日掃除をしていれば安心です。その後は手をよく洗い流しましょう。

症状は?

トキソプラズマに感染しても、健康な人の多くは症状が出ないか、現れても発熱や倦怠感など軽症だと言われています。しかし、中にはリンパ節が脹れたり、インフルエンザのような症状が出る人もいたり、筋肉痛が2、3日から数週間続くこともあります。潜伏期間は症状がない、もしくは軽い場合が多いことからはっきりしていません。

特に注意が必要な人は?

妊婦-写真

免疫不全の人は心筋炎、脳炎や肺炎などを発症することもあるので注意が必要です。また、女性が初めてトキソプラズマに感染したときに妊娠していると、流産や胎児に障害が出る可能性もあります。先天性のトキソプラズマ症は、妊娠の数か月前や妊娠中に母親が初めてトキソプラズマに感染したときに起こります。妊娠の6か月以上前だと母親が感染しても胎児への影響はないといわれていますが、母親が感染した時期によって先天性トキソプラズマ症の発生率と重症度が異なります。

妊娠初期の場合は、胎児の感染は少ないものの重症で流産となることもあります。妊娠後期の場合は、胎児の感染は多いけれども、軽症の場合が多いとされています。母親を治療することで先天性のトキソプラズマ症の発生を減らすことができるので、早期の正確な診断が重要となります。

予防方法は?

トキソプラズマの予防接種はありませんが、大部分の人はトキソプラズマについてそれほど心配することはありません。しかし免疫の働きが弱まっている人や妊娠しようとしている人、妊娠している人は注意が必要です。

トキソプラズマの血液検査を受け、陰性であれば免疫が弱まっている人も妊娠を検討している人も感染を防ぐためのしっかりとした注意が必要になります。陽性であれば免疫が弱まっている人は体内のトキソプラズマの再活性化を防ぐための薬の必要性を検討する場合もあります。妊娠を検討している人が陽性の場合は、胎児が感染して先天性トキソプラズマ症を起こす心配はありません。

  • 内臓を含む肉はよく火を通す(中心部からピンク色がなくなり肉汁が出なくなるまで)
  • 十分に加熱し終わるまでは味見をしない
  • 野菜や果物は食べる前によく洗い、皮をむく
  • 肉用と他のもののまな板を分ける
  • 生肉や洗っていない野菜を触った手、まな板、調理器具や食器などはよく洗う
  • ガーデニングなどで土を触るときは、使い捨て手袋を使い作業後は温水と石けんでよく手を洗う
  • 妊娠しているときは生肉を扱わないか、ゴム製の清潔な手袋を使う
    など

まとめ

トキソプラズマは、原虫で人に寄生するとトキソプラズマ症という感染症を起こします。通常は免疫の働きで病気を起こさないように抑え込んでいますが、免疫力が弱っている人や妊娠の可能性がある人は感染することもあります。肉はよく加熱する、土を触った後はよく手を洗うなどに気を付けて感染を防ぎましょう。特にネコには注意が必要です。