性感染症で眼に症状が出現するものがあることをご存知でしょうか?性感染症と眼の症状の関連がなかなかイメージしにくいですが、知識を頭の片隅に置いておくと役立つかもしれません。ここでは眼症状をきたす性感染症について解説していきます。

目次

性感染症がなぜ眼症状をきたすのか?

性行為で人から人に感染する病気を総称して、性感染症(STIといいます。原因となる病原体にはウイルス細菌原虫などがあり、性器、泌尿器、肛門、口腔などに接触することで感染します。

主な性感染症には下記のようなものがあります。

性感染症の症状は陰部やその周辺のかゆみや皮膚症状、性器からの分泌物、あるいは排尿時の痛みなどが多いですが、実はそれ以外の部位にも症状が出現することがあり、眼に症状をきたす性感染症もあるのです。

眼症状と性感染症は関連がイメージしにくいですが、眼症状をきたす原因には下記のようなものが考えられます。

  1. 手指を介して、またタオルの共用などで、眼の粘膜に感染する
  2. 新生児が性感染症に感染した母親の産道で感染する
  3. 血流によって全身に病原体が広がることによって眼にも症状が出現する
  4. 性感染症によって免疫力が低下し、眼の粘膜が感染にさらされやすくなる

眼の症状が起こる性感染症の特徴と治療法は?

目が痛い女性-写真

眼症状をきたす代表的な性感染症には下記のようなものがあります。

1.クラミジア

どんな性感染症か?

クラミジアトラコマティスという病原体がひきおこす感染症で、細胞に寄生して封入体(ふうにゅうたい:細菌などの感染により細胞に形成される特徴的な状態)を形成し、増殖します。粘膜との直接的な接触で感染し、潜伏期間は1~3週間です。

一般的な症状は、男性では排尿時の痛みや尿道のかゆみがみられます。女性では症状が軽く無症状のケースもありますが、そのままにしていると不妊の原因になる場合もあります。

眼症状

クラミジアによる眼症状は、成人型封入体結膜炎新生児封入体結膜炎があります。

成人型封入体結膜炎は性器クラミジア感染症から手指などを介して感染します。症状としては充血、めやに、まぶたのはれ、耳前リンパ節腫脹などが出現します。

新生児封入体結膜炎は、母親がクラミジアに感染しているケースで、分娩で産道を通ってくる際に感染(産道感染)します。生後1週間頃から強い充血、目やに、まぶたのはれをきたします。

テトラサイクリン系、マクロライド系、ニューキノロン系の抗生物質点眼または眼軟膏による治療を行いますが、性器や尿道にも感染をきたしている場合では抗生物質の内服が有効です。

2.淋病

どんな性感染症か?

淋菌という細菌による感染症で、粘膜との直接接触で感染します。潜伏期間は2~7と短いことが特徴です。一般的な症状は、男性では排尿時の痛みと尿のにごり、女性ではおりものや不正出血ですが、症状が軽く気づかないケースもあります。

眼症状

成人淋菌性結膜炎新生児膿漏眼(のうろうがん)があります。成人は淋菌による尿道炎や咽頭炎から手指を介して感染、新生児は産道感染によるものです。新生児は生後2~4日後、成人は感染1~ 2日後に著しい結膜の充血、クリーム状の目やに、まぶたのはれをきたします。

新生児、成人ともに適切に治療を行わなければ、角膜に穴があき失明する恐れがあります。早期発見、早期治療が重要で、抗生物質の点眼ならびに全身投与を行います。

3.梅毒

どんな性感染症か?

梅毒トレポネーマという病原体がひきおこす感染症で、皮膚や粘膜の病変との直接接触で感染します。潜伏期間は3週間です。一般的な症状は、まず性器、口などに赤くかたいしこりやただれができ、近くのリンパ節がはれることもあります。

その後3~12週間くらい、発熱やだるさ、発疹が出現します。放置しておくとこれらの症状はなくなりますが、10~30年の間に心臓や血管、脳をおかします。

眼症状

発熱や発疹といった症状が出る時期に、梅毒性ぶどう膜炎を併発することがあります。病原体が血流を介してひろがるために発生します。虹彩、脈絡膜、網膜、視神経などさまざまな眼の組織に病変が出現する可能性があります。視力低下、かすみ眼をきっかけに受診する患者さんが多いです。

梅毒に対するペニシリン投与に加え、炎症の強い例ではステロイド薬による治療も必要になります。

4.HIV感染症/エイズ

どんな性感染症か?

HIVウイルスによる感染症で、血液や体液との直接接触で感染します。潜伏期は長く数年~10数年に及びます。感染後、2~3週間後に発熱、頭痛などかぜのような症状が数日~数週間続きます。

治療せず放置していると免疫力が低下し、健康であれば感染しないような様々な感染症(日和見感染症)や悪性腫瘍などを発症します。

眼症状

様々な眼症状を伴いますが、大別すると下記の3つになります。

  1. HIV網膜症
  2. 日和見感染症
  3. 悪性腫瘍

1のHIV網膜症は、HIV感染者に最も多くみられる眼合併症です。網膜に出血や白斑といわれる病変を認めます。

2の日和見感染についてですが、免疫力の低下に伴い通常では感染の原因とはならないトキソプラズマ、ニューモシスチスクリプトコッカス、結核、カンジダ、アスペルギルスなどに感染したり重症化したりします。頻度が最も高いものはサイトメガロウイルス網膜炎ですが、この場合は抗サイトメガロウイルス薬であるガンシクロビルの点滴やバルガンシクロビルの内服を行います。

3の悪性腫瘍については、悪性リンパ腫が眼内へ浸潤したり、眼瞼や結膜にカポジ肉腫という腫瘍ができたりします。

眼症状が性感染症によるものとわかったら…

眼症状が性感染症であることがわかった場合、医師の指示に従って治療を受けますが、それだけで良いのでしょうか?クラミジアや淋病による結膜炎では、タオルの共用などで感染が拡大する可能性があり、家族やパートナーへの感染拡大を予防しなければなりません。

それだけではなく、性行為によってパートナーもすでに性感染症にかかっているリスクもあります。無症状だからと放置しておくことは、生まれてくる子供への感染をひきおこし、性感染症そのもので重篤な症状をきたすリスクさえあるのです。

パートナーにも性感染症の検査をすすめ、早期治療を開始してリスクを回避することがとても重要ですね。

まとめ

眼症状をきたす性感染症は意外とあります。適切に治療しなければ重篤になるケースもあります。性感染症は自分だけではなく、パートナーや妊娠中の場合は児にも感染が及んでいる可能性があります。思い当たることがあれば、速やかに受診すること、パートナーにも検査を促すことが大切です。