暑い夏がやってくる中、気温の上昇・脱水などから「熱中症」になる方は毎年後を絶ちません。平成28年の夏季のデータによると、熱中症により救急搬送された方は約5万人達しています。このうち、重症者は981人、さらに死亡者は59人と重症化や命につながる病気でもあり、正しい知識をつけることが必要となります(総務省より)。

こうした重症の熱中症患者さんのうち、多くは高齢の方です。しかし、比較的体力のある若い世代の方でも、服用している薬によって熱中症になりやすい、熱中症が重症化しやすい場合があります。

今回は、利尿剤・降圧剤の服用と熱中症の関係について詳しく見ていきたいと思います。

目次

熱中症とは?

熱中症診療ガイドラインによれば、熱中症とは「暑熱環境における身体適応の 障害によって起こる状態の総称」と定義されています。つまり、暑い環境に体が適応できないことで起こる症状・状態を熱中症と呼んでいます。

人間の体は常に熱を作り(産熱)、体の外に熱を逃がすこと(放熱)で一定の体温である36~37℃を維持しているのですが、この産熱と放熱のバランスが崩れることで熱中症は引き起こされます。この適応障害により起こる症状・状態は、一般的に以下の4つの種類に分けられています。

熱失神

高温下や運動中などは体温が上がるため、人間の体はこの体温を下げるために血管を拡張させて熱を発散させやすくします。その結果、血圧低下を引き起こし、脳に血液が行き届かずに酸欠となり、めまいや立ちくらみ、意識消失などの症状が生じます。

熱疲労

体温上昇した身体は、汗をかき体外に熱を逃がすことによっても体温を下げる効果があります。しかし、汗で失われた水分を補給しない状態が続くと脱水症状となり、全身のだるさ、吐き気、頭痛などの症状につながります。

熱けいれん

汗は血液から作られており、汗が蒸発するということは水分だけではなく血液中のナトリウム、つまり塩分も一緒に失われていくことになります。塩分は筋肉の働きに影響するため、水分だけ補充して塩分を取らないと手足がつったり、痙攣を引き起こしたりします。

熱射病

発汗などによる体温降下の作用では適正な体温を保つことができず、体温が40度以上の状態になってしまうと、脳の温度も上昇します。その結果、中枢の神経機能が異常を起こし、頭痛、吐き気、めまい、ときには意識障害といった症状が見られることがあります。

「降圧剤」服用中の場合

なぜ降圧剤を服用していると熱中症に注意する必要があるのでしょうか?

まず一つに、降圧剤服用者は高血圧患者であるため普段から塩分を控えた食事をしていることが多いためです。暑さにより発汗すると、水分だけではなく塩分もいっしょに失われていきます。そのため、適度な塩分補給も必要になってきます。もちろん摂りすぎると血圧上昇につながるため、そのバランスをとるのが難しいのです。

また、降圧剤服用者は薬により血圧の上昇を抑えているため、めまいや立ちくらみを引き起こしやすくなる可能性があります。

「利尿剤」服用中の場合

利尿剤は高血圧患者さん心臓疾患を持っている方に処方されるお薬です。

利尿剤は余分な水分を外におしっことして排出して血圧を下げたり、心臓の負担を減らしたりといった効果がありますが、その結果水分と塩分が不足し、熱中症にかかりやすかったり重症化してしまうことがあります。

また最近では降圧剤と利尿剤の合剤もよく処方されており、そのような方はより一層注意が必要となります。

熱中症にならない、重症化しない対策

水を飲む子供-写真
では降圧剤・利尿剤服用中の方はどのように注意すればよいのでしょうか?

補給する水分量や塩分量などは持病の関係上人それぞれ変わってきますので、かかりつけの医師に熱中症対策について事前に相談しておくのが一番でしょう。またそれ以外にできることとして以下のようなことに注意しましょう。

クーラーなどを適切に使用する

高血圧患者や心臓病患者などには高齢者の方が多いかと思いますが、高齢者の方は暑さを感じにくくなっているため、気温の上昇に注意が必要です。そのため室内に温度計を設置するなどして、室内を適切な温度に保つ必要があります。

着る衣服に気を付ける

熱がこもるような素材ではなく、木綿や麻やスポーツウェアなどの涼しいものを意識して着用するようにしましょう。

室内の環境を整える

直射日光などが入らないようにすだれをかけたり、部屋の換気を行うために窓を開けたりなど、室内の温度が上がらないような工夫をするようにしましょう。

外出の際は体温が上がらないよう注意する

外出の際はなるべく涼しい日陰や地下を歩く、帽子や日傘を用いて直射日光を浴びないようにする、疲れたら無理せず休憩するなど体温が上がりすぎないよう注意が必要です。

まとめ

毎年夏になると熱中症による死亡のニュースはよく目にしますが、どこか人ごとに考えている方は多いのではないでしょうか。どのような方が熱中症になりやすいか、自分は大丈夫なのかについて今一度確認する必要があるでしょう。特に今回ご紹介した降圧剤・利尿剤を服用中の方は年を重ねるとともに多くなっていると思いますので、今一度熱中症に対する正しい知識、またかかりつけの医師への事前の相談など暑くなる前に確認しておいたほうがよいでしょう。