前回の記事においてはスポーツ貧血に伴う一般的な症状や機序などについて概説しました。今回の記事においては、具体的にどのようなポイントに注意をしながら早期発見ができるか、また予防や治療方法について記載したいと思います。

目次

スポーツ貧血を早期に発見するためには?

スポーツ貧血の症状-図解

1.スポーツ貧血の概念を知る

スポーツ貧血による症状は、疲れやすい、息切れがしやすい、だるいなど、ともすれば健康な人でも感じることがあるほど全く珍しくないものばかりです。かつ、こうした症状は慢性的に進行することから尚更気付きにくいです。

また中高生アスリートにおいては「思春期」という特有の状況も絡んでくるため、貧血による症状を「年齢的なもの」として片付けてしまうことも想像されます。さらに若年層においてはよほどのことがない限り採血をする機会もなく、血液検査で貧血が指摘されることも少ないです。スポーツは健康促進をするものという通念もあることから、スポーツと貧血を関連付けることは難しい場合もあります。

そのため、スポーツによって貧血が起こりうる「スポーツ貧血」という概念を、スポーツに携わるすべての人(本人はもちろん親御さんや指導者も)がしっかりと知識として持つことが早期発見には何よりも大切です。

 2.運動パフォーマンスの変化に注目

その他のポイントとしては、運動のパフォーマンスが落ちたと言う点です。例えば長距離ランナーにおいて以前のようなタイムが出なくなった、バスケット選手が以前ほど走れなくなった等の場合においてスポーツ貧血の可能性も想起するようにしましょう。

 3.貧血の症状を知る

貧血が進行すると脈が速くなることから、普段から安静時の脈拍数を把握しておくことも大切です。またアッカンベーをした時に見えるまぶたの裏は通常は赤いのですが、貧血が進行すると白くなりますので、スポーツをしている時には時々でもいいのでチェックしてみることも早期発見に繋がります。人によっては氷を食べることを好むこともあります(異食症の一種)。

スポーツ貧血を予防するためには?

貧血予防に効く食べ物-図解

前回記事のスポーツ貧血のしくみから判るように、鉄分をしっかり補充することが貧血の予防に有効です。スポーツをしているとただでさえ鉄分は不足しがちになるため、偏った食事形態にならないよう、具体的には以下の点に注意しながらバランスのいい食事をとるよう心掛けましょうNIH|health informationIron, Meat and Health)。

1.肉と野菜をバランスよく

貧血予防には鉄分を十分量摂取することがとても重要ですが、食物中に含まれる鉄分の形態にも注意することが必要です。食物中の鉄分には「ヘム」「非ヘム」の二種類が存在しており、それぞれ肉類及び野菜類に多く含まれます(図)。前者の方が身体への効率よく吸収されるのですが、両者を同時に摂取することで相乗的に鉄の吸収は高まります。そのため、肉類や野菜をどちらに偏ることなくバランスよく摂取することが貧血予防のためにはとても重要です。

食品からは、しっかり意識をしないと十分な量の鉄を摂ることができません。厚生労働省などが公的に推奨する摂取量の目安はありませんが、日本体育協会では、アスリートは一般成人の1.3~1.5倍の鉄の摂取を心掛けるようにと指導しているようです。

2.ビタミンCの同時摂取を

ビタミンCが存在すると鉄の吸収が高まることも知られています。そのため毎日の食事にオレンジジュースやシトラスなど柑橘系のフルーツを取り入れることも効果的です。その反面、コーヒーや紅茶等に含まれるタンニンは逆の作用をもたらしうることも言われていることから、スポーツ貧血の予防観点からは避けるのが無難と考えられます。

症状によっては鉄剤の内服や運動の中止も

スポーツ選手は非常に多くの量の鉄を必要としており、常に鉄が枯渇しうる状態にあります。そのため上記のような対策をしても貧血を呈する方もおり、特に女性においては生理の関係から尚更、予防策のみでは充分でないこともあります。貧血の程度が酷い場合においては、鉄剤の使用を検討することも必要です。

またスポーツ貧血の根本的な治療方法は運動をやめることであり、運動中止後半年から1年の経過と共に貧血も改善することが知られています。健康状態への障害が強く日常生活にも悪影響を及ぼしている場合には、運動から遠ざかることも必要ですBritish Journal of General Practice)。

まとめ

二回の記事に渡りスポーツ貧血についての概説を行ってきました。スポーツ貧血の言葉自体まだまだ浸透しきっていないと感じるところもあります。本連載を通して、運動に携わるより多くの人がスポーツ貧血についての知識を得て、正しい対応ができるようになればと思います。