スポーツニュースで流れる情報の中で、「膝の靱帯損傷」という言葉を耳にしたことはないでしょうか。プロの世界だけでなく、膝靱帯損傷は膝で起こる怪我ではよくみられる外傷です。膝の靱帯を傷めると現れる症状や治療法などについて、靱帯の役割などを交えて説明します。

目次

膝に4つある靱帯

膝の靱帯図版

膝は曲げたり伸ばしたり、回したりするような複雑な動きができます。しかし、それらが過度に動きすぎて不安定にならないよう、靱帯によって安定化されています(前後方向の動き、内側や外側へ反る動き、捻じる動き)。靱帯は関節の中にある関節内靱帯と、関節の外にある関節外靱帯に分かれています。

関節内靱帯:前十字靱帯(ACL)、後十字靱帯(PCL

関節外靱帯:内側側副靱帯(MCL)、外側側副靱帯(LCL

靱帯が損傷する原因

膝が過剰に捻(ひね)られたり、押されたりすると、損傷することがあります。

サッカーやバスケットボール、スキーなど様々なスポーツを行っている最中に高い頻度で発生します。特にジャンプの着地やダッシュして急に方向転換するとき、急なストップ、相手とぶつかったときなどです。また、強い衝撃が加わる交通事故や、普通に転倒するだけでも、靱帯を損傷することがあります。

膝靱帯損傷の症状

あまりの膝の痛みに膝頭を押さえるランナー女子

損傷したときは「ブツ」「パチン」などの音を聞く人がいたり、膝が外れたりずれたりしたように感じたりする人もいます。膝は痛み、膝の腫れが徐々にでてきます。

前十字靱帯損傷に特有な症状

損傷して3週間くらいは急性期として痛みが続きますが、ほとんど痛みがないこともあります。だんだん痛み、腫れは軽快して日常生活が送れるほどになりますが、膝の不安定感(下り坂を歩いたり、スポーツをしているときに膝が外れたりするような感覚)から膝崩れ・膝折れを生じるようになり、スポーツする上で思い切ったプレーはできなくなります。

また、半月板など別の箇所を損傷する可能性が出てきます。

4つの靱帯の単体の損傷だけでなく、複数の靱帯を同時に損傷する「複合靱帯損傷」が起こることもあります。

病院で受ける検査

整形外科で、膝が不安定になっていないかを診察します。必要に応じて、膝関節内に溜まった血を、注射針で抜くことがあります。

次に画像検査を行います。

Xでは靱帯損傷時に骨を傷めていないか確認できます。また、靱帯損傷によって関節がどれだけ不安定になっているか評価することができ、手術が必要かどうかを判断する材料になります。

MRIは靱帯をはっきり映し、損傷部位を特定できます。また、骨・半月板・軟骨など、靱帯以外の損傷がないかも確認できます。

治療方法

関節内靱帯を損傷した場合

関節内靱帯は損傷すると自然治癒を望みにくい環境にあります。

さらに前十字靱帯は損傷してしまうと日常生活に支障が出るだけでなく、放置することで将来的に半月板損傷を生じ、変形性膝関節症に至ることがあります。治すには手術が必要になります。

後十字靱帯は頑強な組織で、多少の不安定性は保存療法で改善したり、多少膝の不安定性が残っても日常生活やスポーツが行えたりする場合も多いです。手術を要するかどうか、医師とよく相談しましょう。

関節外靱帯を損傷した場合

関節外靱帯は回復能力が高いとされています。関節外靱帯だけ損傷した場合は、装具を装着して膝を固定したり安静にしたりして(保存療法)、治る過程でできる組織(瘢痕組織)によって損傷箇所が収まっていきます。

重症の場合や、保存療法を行った後に膝の不安定性が残ってしまった場合、手術を検討します。

保存療法

更なる損傷を防ぎ、靱帯が治る環境を作るため、膝の靱帯に負担がかからないよう固定するサポーターや装具を装着します。また、痛みの出ない範囲で膝の曲げ伸ばしや筋力トレーニングを行います。

内側側副靱帯、外側側副靱帯損傷の場合、また軽症の後十字靱帯損傷も、保存療法でスポーツできるレベルまで回復を見込めることが多いです。

手術

前十字靱帯損傷

前十字靱帯が損傷していると診断された場合は、再建手術が必要です。日常生活に影響を及ぼすため、スポーツを続けたい人以外も検討します。

再建手術とは、自分の膝屈筋腱(ハムストリング)や膝蓋腱を採取し、損傷した部分に移植(自家腱移植)する方法です。患部に小さな穴を開けてカメラや器具を中に入れ、モニターを見ながら行う手術(内視鏡手術)は小さな傷口で手術が可能です。ただ、移植腱を採取する部分は、ある程度皮膚を切開する必要があります。

手術後6ヶ月~1年程度リハビリを行いながら、スポーツ復帰を目指していきます。

後十字靱帯損傷

再建を行う場合、前十字靱帯と同様です。

内側側副靱帯損傷・外側側副靱帯損傷

受傷早期に手術を行う場合は、移植腱を用いずに損傷した靱帯を縫合します。その固定や補強のため、金属(スクリュー・アンカー・ステープルと呼ばれます)を用いることもあります。

受傷から時間が経過して手術を行う場合は、自分の膝屈筋腱(ハムストリング)を用いた再建手術が一般的です。

まとめ

スポーツ中などに膝をひねったとき関節が痛む・腫れる・力が入らないなどの症状がある場合は、整形外科を受診しましょう。膝の怪我は生活を送る上で非常に厄介なものです。早期に診察を受け、靱帯が損傷していた場合は将来のスポーツ活動や日常生活をイメージして治療方針を選ぶようにしましょう。