ここをお読みになる前に必ず「子どもの包茎①」と「子どもの包茎②」を読んでください。
最近、おちんちんのことに限らず、いろんな相談を受けている中で、「なぜそうするのか?」という「問い(疑問)」を自問自答するのではなく、「どうすればいいのか?」と誰かに「答え(正解)」だけを求め、結果的にトラブルに巻き込まれる人が増えていると感じます。
既にかかりつけの小児科の先生に「おちんちんはどう扱えばいいのですか?」と質問をし、「放っておけばいいんです。大きくなれば自然にむけるようになります」と言われた経験がある方もいると思います。この先生がおっしゃっていることもその先生なりの「答え」であり「正解」です。一方で、この先生とは違う意見があったとしても、それもまた「答え」であり「正解」なのです。
私は包茎を放っておいた結果として、亀頭包皮炎になったり、不必要な手術を受けて悩んだり、陰茎がんになったり、大人になってから様々なトラブルに巻き込まれたりする人たちを見てきました。彼らとともに「なぜトラブルに巻き込まれたのか?」という「問い(疑問)」と向き合ってきた結果、岩室紳也という泌尿器科専門医が到達した「答え」が「かぶれば包茎、むければOK」でした。
「子どもの包茎①」と「子どもの包茎②」には「なぜむくか?」という「問い(疑問)」を皆さんと共有させていただきました。そこに書かれていることに納得された方は、これから紹介するむきむき体操(包皮翻転指導)にお進みください。
むきむき体操のトラブルの未然防止のために
むきむき体操を行う場合、むきむき体操で想定されるトラブルを防止する方法を最初に理解しておいてください。「トラブルは困ります」という方はむきむき体操をしないでください。でも、交通事故が怖いから家の中で引きこもっているという選択をする人はいませんよね。トラブルは、遭わないように避けて通るのではなく、きちんと理解し、正しい方法で未然に防止し、万が一起きてしまった場合には正しく対処することが、何より大切です。
清潔操作
そもそもおちんちんを含めた外陰部は、いつもうんちに含まれている大腸菌をはじめとした細菌類が多数付着しており、場合によっては尿路感染などの感染症のおそれがあります。そこを「無菌」にすることは不可能ですし、それを目指す必要はありません。ただ、細菌が悪さをしないためには細菌が長時間同じ場所に留まることを阻止する必要があります。すなわちむきむき体操は基本的に、おむつをしているお子さんであればおむつを交換するたびに、それ以外のお子さんであれば一日に2~3回は行うようにしたいものです。
なお、完全にむいて洗えるようになるまでは石鹸を使わないようにしてください。石鹸が包皮と亀頭部の隙間に入って炎症を起こすことがあります。完全にむけるようになれば、石鹸を洗い流せば問題は起こりません。
「嵌頓包茎」への対処方法
むきむき体操で最も多いトラブルが「嵌頓包茎(かんとんほうけい)」です。嵌頓包茎がおこる理由は、おちんちんの構造を理解すればわかります。「包皮口」の広さと比べ、「亀頭部」で最も太いところが大きいと、無理に包皮をむいたときに、包皮口が亀頭部やむいた包皮を締め付ける形になります。その結果、嵌頓包茎の状態になります。
包皮をむくときに、包皮口が亀頭部の太い部分を超えて亀頭部を露出できたということは、逆に、亀頭部を小さくできれば包皮口をもとの位置に戻せるということです。そのために次のステップを覚え、いざというときに行ってください。
- おちんちんの根元を強くつかみ、亀頭部を包皮の中に戻すように亀頭部方向に引っ張る(図1)。
強く引っ張るだけで戻りますが、それで戻らないときは次のステップに行きます。 - 亀頭部を力いっぱい30秒間つぶすようにつかむ(図2)。
亀頭部を触るだけで痛みがあるかもしれませんが、30秒間つぶし続ければ、亀頭部が小さくなります。 - 亀頭部を小さくしてから「1」のようにおちんちんの根元を強くつかみ、亀頭部を包皮の中に戻すように亀頭部方向に引っ張ると、簡単に亀頭部が包皮の中に戻ります。
亀頭部が包皮の中に戻ったら翌日までそのままにし、むくみが取れたらむきむき体操を再開します。

「嵌頓包茎の対処方法」を練習しよう
前段の「2」の亀頭部を思いきりつぶす手順では、前述のように亀頭部に触れるだけで痛みがあるかもしれません。そこで、実際にこのような手順を実施しなければならなくなる前に、一度練習をしましょう。
- 利き手と反対の人差し指の先を、利き手の親指と人差し指で力いっぱいつぶし、30秒を数えます。
指には骨がありますが、亀頭部には血液が入っているだけですので力を入れても大丈夫です。 - 思いっきりつぶすことで血液は体の方に戻り、亀頭部が小さくなります。
むきむき体操の実際
むきむき体操はいつから始めるか?
「絶対に、この時期でなければならない」ということはありません。現に、私がふだん診療を行っている厚木市立病院で生まれたお子さんは、生まれたその日からやっています。一方で、私の外来では30歳を過ぎてから始めた人もいます。ただ、皮膚が伸びやすいのは子どものときなので、「思い立ったが吉日」と考えています。
月齢、年齢で異なる対応を
子どもの時期にむきむき体操を始める場合、保護者の協力が必要になります。お子さんは成長にともない外見もこころも変化します。そこで、保護者の方がより適切な協力ができるよう、年齢ごとのお子さんの特徴と、声かけの工夫についてまとめました。
この時期の特徴 | 声かけの工夫 | |
~6か月 | 寝返りも打たないためやりやすい | 本人はよくわからないので、この時期がやりやすい。 |
~1歳 | 少々痛い思いをしてもすぐに慣れる | |
~6歳 | 痛い思いをさせるとやらせなくなる
自立心が芽生えたところを後押し |
かっこいいおちんちんにしようね。
子どもが納得していることを確認する。 徐々にむけていく達成感をフォローする |
小学生 | ||
中学生以上 | 羞恥心のため、保護者も伝えることに抵抗感が生まれる | 温泉等で他人の裸を見せる。 |
おちんちんを「むく」ということ
おちんちんを「むく」というと、リンゴの皮を「むく」ように単に「はがす、切り離す」ことを連想される方がいるようです。しかし、先に説明したように、包皮口が狭いときは包皮口を広げることと、包皮と亀頭部が癒着している場合は包皮と亀頭部の癒着をはがすことという二つの段階があります。もちろん最初から包皮口が広がっている場合もあれば、包皮と亀頭部の癒着がはがれている場合もあります。
最終的に「むける」状態になるということは、亀頭部が冠状溝まで完全に、容易に露出でき、その後包皮の中に元通り亀頭部を収納できるようになることを意味します(図3)。
亀頭部のもっとも太い断面より包皮口が広くなれば、包皮をずらして亀頭部を露出させても、おちんちんの根元に手繰り寄せられた包皮が伸び、むいた包皮が再び亀頭部を覆うようになります。
1.包皮口を広げる
包皮口が狭い場合、包皮口を広げるための工夫が必要です。
おちんちんの包皮を根元方向に手繰り寄せた後、おちんちんの根元のところを4本の指(左右の親指と人差し指)で包皮を根元の方向にずらします(図4)。4歳以上のお子さんなら自分でやらせてみてください。
- 包皮をずらすことで、亀頭部が包皮口から外に向かってに力が加わります。
- 包皮口から出ようとする亀頭部が包皮口を広げてくれます。
- 4本の指を離さないまま、包皮を根元にむかってずらす操作を10回程度繰り返します。
- 1日に数回、おむつをしているお子さんの場合はおむつを替える度に行います。

トピックス①
包皮口が非常に狭いお子さんがいます。そのようなお子さんの場合、ステロイドが入っている軟膏を包皮口に塗ると皮膚が柔らかくなり、包皮口が広がりやすくなります。しかし、薬を使わなくても包皮口は広がるので、私は基本的にステロイドを使う必要はないと考えています。なお、ステロイドは包皮と亀頭部の癒着を剥がす作用はありませんが、そのことを理解していない先生も少なくありません。
2.亀頭部をこすっても平気にさせる
亀頭部が少しでも見えたら、亀頭部を指で触ってみてください。お子さんは初めて亀頭部に触れたとき、「痛い」とか、「ピリピリする」とか、「くすぐったい」といった反応を示します。この感覚は触り続けることで必ず鈍感になり、最後はゴシゴシこすっても平気な状態になります。少しでも嫌がるときは、亀頭部を最初は優しく触りながら、徐々にお尻ふき、さらにはガーゼやタオルでこすっても平気な状態になるまで次のステップに進まないようにします。
亀頭部をこすると白い垢(恥垢)が出ることがあります。ゴシゴシこすって亀頭部を清潔にできるようにします。
トピックス②
私の患者さんで30歳まで一度も自分でむいて亀頭部を露出したことがなく、初めてのセックスのときに亀頭部が膣に触れ、激痛が走ってインポテンツになったという方がいました。お母さまから「そこは触るところではありません」と教えられていたとのことでした。
ちなみに、この方はここで書かれているように、「亀頭部を触り続ける、こすり続ける」だけで、正常な性生活を営むことが可能となりました。
3.包皮口をゆるゆるにする
包皮をずらし亀頭部が露出できたときに、横からおちんちんの状態を観察します。おちんちんがくびれているときは包皮を戻しながらくびれているところが包皮口だということを確認してください(図5)。
この状態のときは、まずはくびれている部分、すなわち包皮口を広げることに専念します。
「むいて戻す」、「むいて戻す」をできるだけ多く行います(図6)。
おむつを付けているお子さんの場合は、おむつ替えの度に30回ずつ、「むいて戻す」を繰り返すことで、包皮口が広がります。小学生には朝夕100回ずつという宿題を出します。
上手く戻せないときは、嵌頓包茎になる可能性がありますが、最初に紹介したように、戻し方をきちんと覚えておくと慌てなくてすみます。
4.包皮と亀頭部の癒着をはがす
包皮と亀頭部が癒着しているのをはがす前に、しつこいようですが、次の2点を必ず確認します。
- 亀頭部をこすっても子どもが嫌がらない
- 包皮をずらしてもおちんちんがくびれない
上記2点が大丈夫なときは次の包皮と亀頭部の癒着をはがすステップに進みます。
ガーゼのように少し皮膚が引っかかる感じのものを用意します。包皮と亀頭部が癒着している境界のところを、ガーゼで少し強くこすると癒着が剥がれます(図7)。一度にはがすのは1~2㎜程度にします。力が入ってしまい、もっとはがしてしまっても特に問題はありません。少し血がにじんだり、はがしたところが赤くなりますが、はがしたところまで毎日むき続けていると自然と赤みもなくなり、正常な状態になります。
小学生ぐらいだと「自分でむきました」という子もいます。それができたお子さんには「すごいね」とか「えらいね」と褒めてあげてください。
どこまでむくか
包皮口を広げ、包皮と亀頭部の癒着を全部はがせたら完成です(図8)。
ただ、完全にむけるおちんちんが(〇)で、むけない、あるいは少ししかむけないおちんちんは(×)と思わないでください。また、むけるまでに数年かかるお子さんもいます。大事なことは、あせらず、少しずつ工夫をしながら、いつかは完全にむけるようにすることです。
むけるようになってから
新生児期からむきむき体操をしていると、数か月でむけてしまうお子さんが少なくありません。しかし、むけるようになったからと言ってその後何もしないでいると、また包皮と亀頭部が再び癒着したり、亀頭部が成長した結果、包皮口が相対的に狭くなり、再びむけなくなることがあります。
「いつまでにむくか」ではなく、一生「むいて、洗って、また戻す」状態を続けられることが目標です。
(もっとも、陰茎海綿体が伸び、結果的に包茎状態でいられなくなる30%の日本人は、むきたくてもむく包皮がないので「むいて、洗って、また戻す」をあきらめてください)
また次の2つは、おちんちんがちゃんとむけるようになってからすることです。
- おしっこをするときはちゃんとむいてする。
- お風呂のときは、体の他のところと同じように洗う。
ちなみに、岩室紳也はスポンジに石鹸をつけてゴシゴシ洗っています。
これで想定される問題はすべて克服できるでしょう。
「子どもの包茎」シリーズをふりかえって…(編集部より)
「●●はしたほうがいい」「●●はしなければならない」あるいは「●●はやってはいけない」…ネット上に限らず、私たちの周囲にはさまざまな情報があふれています。
しかし、ある行動・ある選択をするうえで、本当に大事なのは答えそのものではなく、「なぜそれをするのか?」「なぜそれを選ぶのか?」という理由です。「なぜ?」を考えるとその選択や行動は、ある人にとっては正解に、ある人にとっては間違いになるかもしれません。
読者のみなさまが3つの記事(「子どもの包茎①」、「子どもの包茎②」、そして本記事)を通じ、子どもの包茎とは何かを考えると同時に、「なぜ?」という問いに向き合っていただけたらと思います。そして自分の中に「なぜ?」という問いが浮かんだら、ぜひ家族や友人など周囲の人といっしょに疑問を共有し、話し合っていただけたらと思います。