脳血管疾患は、毎年少しずつ減少傾向にあり検査や治療などの医療技術の発達がうかがえます。一方で、いまだに日本人の死因第4位を占めており年間10万人以上の方が脳血管疾患によって亡くなっており(厚生労働省 人口動態統計第6表より)、後遺症を抱えている患者さんもいらっしゃいます。
中でも、くも膜下出血は脳血管疾患のうち10%弱を占め、2016年は1.2万人の方がくも膜下出血により亡くなりました(厚生労働省 人口動態統計第7表より)。
今回は、この「くも膜下出血」の治療やそのリハビリテーション(以下、リハビリ)を詳しく紹介したいと思います。
そもそも脳血管疾患とは?
脳血管疾患とは、一般的に脳の血管が詰まったり破れて出血したりすることによって、脳の細胞がダメージを受け結果的にその部分の脳細胞が機能しなくなってしまう病気のことをさします。
中でも代表的なのが、脳梗塞・脳出血・くも膜下出血です。
- 脳梗塞:脳の血管が詰まってしまうこと
- 脳出血:脳内の血管が破れて出血してしまうこと
- くも膜下出血:脳のくも膜下腔という空間(軟膜とくも膜の間にある空間※)で出血が起こること
※脳は髄膜という組織で覆われており、この髄膜は内側から、軟膜・くも膜・硬膜で構成されています。
かつては日本の死因別トップだった時代もありましたが、医療の進歩や早期発見・早期治療により亡くなる確率は減っています。
とはいえ、脳は生命や身体機能を司る重要な中枢神経です。そのため、脳の一部が脳血管疾患などで機能しなくなってしまうと、意識・呼吸・循環状態に急激なダメージを与え生命の危機にさらされることは多くあります。くも膜下出血では、20~30%が来院時死亡ともいわれています(学研 Nursing Selection⑥脳・神経疾患p2より)。
また、ダメージを受けた部位により意識障害、言語障害、麻痺などによる運動障害などの様々な後遺症も多く残る病気とされています。
よって、ここで重要となってくるのは早期の治療とリハビリです。
「くも膜下出血」の治療・リハビリとは具体的にどのようなものなのでしょうか。
くも膜下出血の治療
くも膜下出血の主な原因には、脳動脈瘤の破裂、脳動静脈奇形からの出血などが挙げられます。
脳動脈瘤の破裂
脳動脈瘤は、治療後の再出血による死亡率が極めて高く、再出血を予防することが最も重要といわれています。
治療方法としては開頭手術が一般的であり、金属性のクリップを使用しコブの頸部(根本の部分)を留めるクリッピング術が主流です。クリッピング術のほか、脳動脈瘤の部位や全身状態が不良な場合にはコイルなどをコブ内に留置して血栓化を促す塞栓術などもあります。
また、破裂前の脳動脈瘤を発見した場合は、大きさや部位を十分に調べたうえで手術適応が判断されます。もし手術をすぐに行わない場合でも、定期的な受診が必要となります。
脳動静脈奇形からの出血
出血した場合は外科的な緊急手術が選択されることがあります。
脳動静脈奇形は、脳動脈瘤と同様に大きさや部位を十分に考慮したうえで、外科的治療(開頭摘出術)・血管内治療(塞栓術)・放射線治療などが選択されます。
なお、くも膜下出血の治療では、疾患の病期ごとに、合併症(特に、再出血・脳血管攣縮・正常圧水頭症)を防ぐことが重要になります。
リハビリについて
くも膜下出血の場合、発症直後は、治療との関係や再出血など状態の変化が起こりやすいため、必ずしも発症直後からリハビリを開始するとは限りません。
くも膜下出血の治療にあわせて、以下のリハビリが開始されます。
1.廃用症候群を予防するためのリハビリ
廃用症候群とは、ベッド上に横になった状態で長く安静にしていることで、身体の様々な器官が機能しにくくなり、関節が硬くなったり筋肉が萎縮し衰えていくなどが生じた状態のことです。床ずれ、下肢静脈血栓症なども廃用症候群の症状のひとつです。
廃用症候群を予防するために、ベッド上にいるうちから、関節を動かす、麻痺のある手足を良い位置に保つ、寝返りをするなどを行います。
その後は血圧や全身状態を見ながら、徐々に頭をあげて座る練習をしていきます。
2.日常生活動作の獲得や機能障害に対するリハビリ
病状や全身状態(血圧など)が安定してきたら、症状に応じて様々なリハビリが開始されます。
基本的には、日常生活を行う上で必要な動作が行えるためのリハビリが中心となります。
以下に代表的なリハビリを紹介します。
運動障害
ベッド上で座る練習ができるようになると、次にベッドサイドで立つなどの練習が始まります。そして車いすへの移動、杖や歩行器などを用いた歩行練習も始まります。
また、麻痺がある場合は食事やトイレ、着替え、お風呂などの動作で注意すべき点や自力で行うにはどうすればいいかなどのアドバイスをもらいながら、主に日常生活動作の練習を開始します。
運動障害以外にも、食べ物が飲み込みにくくなる嚥下障害、うまく言葉が話せない・理解できないといった言語障害、視野が狭くなる・見えにくいなどの視覚障害、物事をうまく実行できない・用途が分からないなどの高次脳機能障害があります。
嚥下障害
言語聴覚士などによる機能の評価を行い、その人の機能に応じた食事形態で飲み込みの練習をしていきます。また、発声や舌の運動、首回りや肩の筋肉を動かしたりすることも行います。
言語障害
嚥下障害と同様に言語聴覚士による機能評価を行い、機能に応じ日常でよく使う言葉をカードにしての発声練習・理解の向上、ゆっくり話す練習や舌の運動、口周りのストレッチや状況に応じて文字盤を使用したコミュニケーションの練習などを行います。
視覚障害
視野が狭くなる分、どの範囲が見えづらいのかを認識することが大事であり、実際に見たり触れたりすることで危険防止行動がとれるように日常生活動作を練習します。
高次脳機能障害
その人の障害に応じて、日常生活で危険なく行動できるよう注意すべき点を中心に理解を深めていきます。また、繰り返し同じ行動を練習することで、安全な行動ができるようにします。
もちろん上記のほかにも、多くの障害が存在します。そのため、その人の障害・程度に応じたリハビリを行うことで、日常生活にスムーズに戻れるようにします。また、退院後もリハビリを続けることは重要です。
まとめ
くも膜下出血は、脳梗塞・脳出血と並び脳血管疾患のひとつで、他の脳血管疾患と同様に、発症するとダメージを受けた脳の部位によって、運動障害などの後遺症が残ることがあります。
治療・リハビリでは、合併症に注意しながら患者さんの状態にあわせた対応が重要です。特に、くも膜下出血の原因の80~90%を占める脳動脈瘤(秋田県立脳血管研究センターより)は、治療後の再出血による死亡率が高く、合併症対応がかなめとなります。
安全を確認しつつ、最適なタイミングでリハビリを開始・導入していけるよう、患者さんとご家族・医療スタッフが相互に協力し、コミュニケーションをとりながら、治療・リハビリを行ってくことがのぞまれます。