なかなか寝付けない、夜中に目が覚めて眠れなくなるなどの経験がある方は多いでしょう。このような症状が続き、日中の生活に支障をきたすことになる状態を「不眠症」といい、実は日本人の成人の20%以上エーザイより)がこの不眠の症状を訴えているといわれています。

病院でもらえる睡眠薬は市販されておらず、また精神科や心療内科にかかるハードルも高いため、毎日眠れずに苦しい思いをしている方も多いと思います。

そこで今回は市販でも比較的手に入りやすい漢方の中から、不眠に効くものをご紹介します。

目次

西洋の睡眠薬と漢方

漢方のお薬は西洋の睡眠薬とは違い直接睡眠を促すものではなく、不眠の原因を解消することで眠れるようにする効果を狙っています。

西洋の睡眠薬では脳の全体を抑制することで眠りを促すために、お薬が効きすぎて翌朝まで眠かったり、だるかったり、ふらついたりといった副作用があります。また、適切な種類や量を服用しないと、依存してしまう危険もあります。

一方漢方では直接脳に働きかける効果はありませんが、血や気のめぐりを良くしたり、ホルモンバランスを整えたりすることで不眠の原因を解消することで、間接的に不眠を改善しようするため、西洋薬で生じるような副作用・依存などはほとんど見られません。

そのため睡眠薬に対して抵抗を持っている方、また睡眠薬の副作用に耐えられない方などには漢方がむいているといえるでしょう。

不眠の原因

それでは不眠にはどのような原因があるのか、またその原因に対応する漢方について詳しく見ていきましょう。

まず不眠の原因についてですが

  • 疲れからくる不眠
  • イライラからくる不眠
  • 神経がたかぶる、興奮しやすいことからくる不眠

などに分けることができます。

疲れからくる不眠

寝ても疲れが取れず、血色が悪い、夢にうなされて起きてしまう方、ぐっすり眠れない方などはこのタイプです。

漢方では夜寝るときに「(人を支える原動力のようなもの、エネルギー)」が生じる熱を鎮めることで眠りにつくとされていますが、このときに「(全身の組織などに栄養を与えるもの)」が足りないと、この熱を鎮めることができないために深い眠りにつきにくく、浅い眠りが多くなってしまいます。そのためぐっすりと眠れた感覚がなくすっきりしません。

その際に用いるのが「加味帰脾湯(かみきひとう)」です。

加味帰脾湯(かみきひとう)

体力中等度以下の方で、心身が疲れ、血色が悪い方の不眠症に用いられます。

足りていない「血(けつ)」を補うことで深い眠りを誘い、気持ちを落ち着かせます。

食欲不振や吐き気などがある方は悪化する恐れがあるので注意が必要です。

また甘草がはいっているので副作用として血圧上昇、低カリウム血症が起こる恐れがあり、高血圧腎臓病などの疾患をお持ちの方は医師に相談してください。

イライラからくる不眠

職場や人付き合いなどでイライラしやすい、気持ちが落ち着かずドキドキする、なかなか眠ることができない方はこのタイプです。

眠りには「気のめぐり」がスムーズに行われることが必要とされていますが、このタイプではストレスなどが原因でこの「気のめぐり」を悪くし止めてしまいます。その結果熱がこもり、この熱が頭に上ることで脳を疲れさせ眠りにつきにくくさせてしまうのです。

その際に用いるのが「柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」や「抑肝散加芍薬黄連(よくかんさんかしゃくやくおうれん)」です。

柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

体力中等度以上の方で、精神不安があって動悸や不安・不眠、便秘などがある方に用いられます。「気のめぐり」をよくすることでこもった熱を冷まし、心を落ち着かせます。その結果不眠を改善させます。

重大な副作用として間質性肺炎(肺胞が炎症を起こし息苦しくなる)、肝障害などがあるため、息苦しさや黄疸などが生じたら病院に行って下さい。

抑肝散加芍薬黄連(よくかんさんかしゃくやくおうれん)

体力中等度以上の方で、柴胡加竜骨牡蛎湯よりもやや弱めの体質で、緊張しやすかったり神経が高ぶりやすくイライラしやすい方不眠症、神経症に用いられます。睡眠相後退症候群(眠る時間が遅く、朝起きられない状態)に効果を示す薬剤の一つです。

「気のめぐり」をよくしてイライラなどを抑え、不眠症を改善します。

甘草が入っているため、血圧、カリウム値に注意が必要です。重大な副作用として偽アルドステロン症(血圧上昇やむくみなどの症状を引き起こす)やミオパチー(筋肉の障害)があるため、手足のだるさ、しびれ、こむら返り、脱力感などが生じたら病院に行ってください。

神経がたかぶったり興奮しやすいことからくる不眠

夜景

些細なことが気になって興奮しやすく落ち着かなくなる方や、動悸が起きやすい方などはこのタイプです。

「気」と「血」のバランスが悪いと神経過敏な状態になり、ちょっとしたことで興奮したり落ち着かなくなったりしてしまいます。また「血」が足りない状態になると、些細なことでも感情が抑えられず周りに当たったりしてしまいます。

その際に用いられるのが「桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)」又は「抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)」です。

桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)

体力中等度以下の方で神経過敏で、動悸がしたり興奮しやすい方の不眠症に用いられます。

「気」と「血」のバランスを整えることで心を落ち着かせ不眠を改善させます。

甘草が含まれているため、加味帰脾湯や抑肝散加芍薬黄連と同じような副作用が生じる恐れがあります。

抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)

体力中等度の方で、すぐにイライラしたり怒りやすい方の不眠症に用いられます。抑肝散加芍薬黄連と同じく睡眠相後退症候群に使用される薬剤の一つです。抑肝散加芍薬黄連よりも抑うつ傾向の方に用いられます。

足りない「血」を補うことで「気」と「血」のバランスを整えめぐりをよくし、自律神経を整えることで不眠症を改善させます。また胃腸を整える効果もあるため、胃腸が弱い方でも使うことができます。

甘草が含まれているため、加味帰脾湯や抑肝散加芍薬黄連と同じような副作用が生じる恐れがあります。

まとめ

睡眠に関してトラブルを持っている方は意外と多いのですが、睡眠薬はハードルが高くてもらいに行けないといった方も多いと思います。また睡眠薬は眠りを改善はしてくれるものの、不眠の原因となるものまでは改善してくれません。また副作用が心配といった方も多いでしょう。

そこでお勧めしたいのが今回ご紹介した漢方です。不眠に悩んでいる方は、まず自分の不眠原因にあった漢方を試しに飲んでみるのもよいでしょう。

また、ここに紹介した以外にも様々なタイプの不眠症に対する漢方薬があります。困った場合は精神科・心療内科よりハードルが低い漢方医に相談されてみても良いかもしれません