冷え症に悩まされる女性は多いかと思います。

なかなか治らない冷えには、体質そのものを改善していく東洋医学の考え方を用いてみてはいかがでしょうか?
今回は東洋医学の考え方を軸に、冷え性の対策についてお話します。

目次

女性の冷えについて

東洋医学の「冷え」の考えを知るために、まずは成書を見てみましょう。

『黄帝内経素問』という中国の基礎医学書に「任脈の病、男子は云々、女子は帯下の病すなわち婦人病、腹中の凝り、すなわち冷えの集まりなどで起こす」とあります。

また『金匱要略』という一般雑病論では「婦人の病気は虚に因って非常に冷えて、其の冷えが身体の中に積もり結気(気が滞ること)して様々の病気が起こる云々」とあります。

筋肉量が少なく小柄である女性は冷えやすい体質であると言えます

そして冷えが婦人特有の病気を引き起こすと昔から考えられているのです。だからこそ「冷えは万病の元」という格言ができたのでしょう。

この記事を読んだら病気に目を向けるだけでなく、“冷え”を改善する手法を手に入れましょう。

さまざまな冷え対策

では、東洋医学での冷え対策にはどのようなものがあるのでしょうか。
漢方のルーツである中国では、生薬・鍼灸・食事・導引(体操)の四法で身体と精神を良くしていきます。

生薬

生薬は、これからご紹介する「乾姜」にお湯や紅茶を注いだ乾姜湯(後述)が挙げられます。

鍼灸(養生)

鍼灸や指圧は知識がなければ行えませんが、これらを“養生”と考えてみましょう。
たとえば腹巻・靴下保温効果の高い素材(ユニクロのヒートテック等)を着用したり、下腹部や腰部、仙骨(尾底骨)部に使い捨てカイロを貼ったりすることがこれにあたります。その他にも20分程度の低温入浴や、岩盤浴を受けることは冷え症を大きく改善できる養生となります。

ストレスの高いハードワーク・オーバーワークは休養不足や不眠を招きます。それらは血液循環を低下させ、だんだんと冷える体質になります。このように働きすぎることは「過ぎたるは猶及ばざるが如し」となります。働きすぎないことが、結局は冷やさない養生となります。

食事

食事の観点で言うと、冷(夏)野菜よりも温(冬)野菜、洋食よりも和食、冷たい食物(ざるそば)よりも温かい食物(温うどん)、精製・漂白された食品(米、砂糖、白いパン)より完全食品(玄米、黒糖、全麦パン)を摂取することも冷やさない養生につながります。

導引

最後に導引とは楽しく運動(リラックス)することです。
たとえば散歩、ハイキング、ヨガ、フラダンス、太極拳などは、ゆっくりと血液循環を促進させます。

冷えに効く生薬…ショウガのすゝめ

生姜

冷えに有効な生薬として、ショウガをご紹介します。

ショウガは身近な薬味や味付けとして、お料理によく使われています。
誰もがよく知っているジンジャーエールや豚肉の生姜焼きなど、一度は口にしたことがあるかと思います。とても美味しいですね。

しかし、ショウガに一体どんな効能があるかを詳しく説明できるでしょうか?
それではショウガの効能と冷え対策についてご説明しましょう。

ショウガの種類

ショウガは、実は漢方薬でも使われている生薬です。
日本では、鮮姜・生姜・乾姜と3つに分けて使用しています

1.鮮姜(せんきょう)

フレッシュなショウガを意味します。薬味や食欲と関係します。例)冷や奴の上に乗せる擦りおろしたショウガなどがそれです。

2.生姜(しょうきょう)

生ショウガの外皮を去って干したもの。一般的な料理(生姜焼きや鍋ものなど)に使われているショウガに近い薬味です。身体と手足の冷えを良くします

3.乾姜(かんきょう)

生のショウガを蒸したもの。これは、一般的な料理にはあまり使われていない生薬系のショウガで特に身体内部(肺や腹)をゆっくり温めます

ショウガの効能

ショウガの効能は種類によって少し異なってきます。

鮮姜と生姜

鮮姜や生姜に多く含まれているジンゲロールという物質は植物が作り出す辛味成分で以下のような効能があります。

  • 殺菌作用や免疫賦活化作用 …元気になる
  • 胆汁分泌作用や制吐作用 …食欲を増す
  • 血液循環作用      …手先足先が温かくなる

例1)ショウガをすりおろした絞り汁に蜂蜜を加えたものは、咽頭痛や咳に有効ですし食欲も増進することでしょう。

例2)ショウガをすりおろした絞り汁を飲むと、殺菌解毒作用により獣肉や魚類・キノコ類へ、車船酔いなどにも効能があります。

例3)ショウガをすりおろした絞り汁とお湯で作る“しょうが風呂”“しょうが和紙”などはジンゲロールが経皮吸収され局所の血行を促進し、霜焼けや肩こり、さらには腫れものにも効果的です。

乾姜

乾姜には、生ショウガのジンゲロールを加熱・乾燥することで生成されるショウガオールと言われている成分が含まれます。
ジンゲロール(生ショウガ)はピリッとした辛さ(だからこそ薬味になります)に対し、ショウガオール(乾ショウガ)は口に残る辛さです。そのショウガオールは、冷え性の改善などに特に効果の高い「温補作用」と呼ばれるものがあります

鍋料理などのジンゲロール(生ショウガ)による温める効果は、食べた身体の熱を血液で手足に分散させます。一方ショウガオール(乾ショウガ)の方は、より細い血管の循環を増加して温めてくれる効果(温補作用)があります。これは即効性より、むしろ時間をかけて“温まる”タイプの効能です

BBT(基礎体温:朝方起床前に計測する身体の基礎代謝による熱量=体温のこと)が35度台前後と低い方々にはショウガオール(乾ショウガ)を継続して摂取していただければ、体温が上って辛かった冷えの体質を良くする可能性があります。そして月経関連症状や妊娠、お肌の質へもいい影響を与えることでしょう。

鮮姜とくに生姜は当然ながら食事中後しばらくの間、手足に温熱効果を示すという制限があります

そんな中、乾姜を使うとより細い血管の血液循環を増加させることで、肺や腹といった場所の循環を促進するため、冷え性を根本から治す可能性があるのです。
とくに副鼻腔や気管・肺などの呼吸器疾患、冷えによる腹部症状、皮脂分泌低下(乾燥皮膚)、頑固な手先足先の冷えなど普段なかなか温められない組織を温めてくれるショウガは乾姜と言って良いでしょう。

乾姜の摂取方法

乾姜を取り入れる方法には、まず漢方薬があります。
たとえば、乾姜と甘草という2つの生薬ペアは虚弱者の喘息などに応用されている基本処方です。

東洋医学では、身体の強いタイプ(実証)と弱いタイプ(虚証)とに分けて投薬を考えます。喘息発作では、実証に麻黄や石膏という生薬が第一選択として用いられ、一方虚証には乾姜や甘草が処方されています。

冷え症は虚証であることが多いため、この乾姜甘草を使います。ただし、これは煎じ薬(薬の元となる生薬を水で煮だしたもの)のお話です。

またエキス剤(薬の元となる生薬を煎じて、顆粒・粉末などに加工したもの)での漢方薬は、人参湯(人参・朮・乾姜・甘草)、小青竜湯(桂枝、麻黄、乾姜、甘草、半夏、芍薬、五味子、細辛)、苓甘姜味辛夏仁湯(茯苓・乾姜・甘草・五味子・細辛・半夏・杏仁)などの製剤に乾姜甘草が入っています。これらの漢方薬は乾姜甘草の代表的なエキス剤と言って良いでしょう。

しかし、煎じきざみ生薬→顆粒状の薬剤への精製過程でショウガの成分(ジンゲロールやショウガオール)が少なくなってしまうのです。…これでは実際、乾姜効果を期待できなくなりますね。

このような理由から自分で乾姜を作ってしまうことをオススメします
作り方は至って簡単。まず、私の以前備忘録として書いたブログで画像を確認して頂けたら幸いです。

作り方は以下の通りです。

  1. ショウガをスライスする
  2. 50分ほど熱する(低温オーブンよりも蒸したほうが良い)
  3. 午前中に半日ほど天日干しする

乾燥させて干す(だから乾姜という)工程が重要です。これでジンゲロールをショウガオールに変えることができます。

ショウガの効能は冷え対策だけではありません

種々の研究結果を検証した“Annals of the New York Academy of Sciences”はメタボリック症候群の各症状を緩和するというショウガの効能を発表しました。

それによるとショウガの成分には肥満だけでなく、メタボリックシンドロームである高脂血症や高血糖酸化ストレスや炎症にも改善効果があるといいます。

このように冷え症だけではない、多彩な効果も望めることがショウガの素晴らしいところです。これはショウガが生薬として使われている長所と言えます。

冷え性を軽く考えない…「未病」について

東洋医学に未病という考えがあります。未だ病に成らずという意味でしょう。冷えや肩こり等はこれに当たりますね。そして東洋医学は、この未病を重視しています。

江戸時代の名医である和田東郭先生は「劇病ヲ劇視スルコト勿レ、必ズヤ劇中ノ易ヲ察ス。軽病ヲ軽視スルコト莫レ、必ズヤ軽中の危ヲ察ス」という文句を書物に記してあります。つまり「劇的な病気は深刻にならないこと。必ず突破口があるものでそれを察すること。また軽い病気は甘くみてないで危機感を持つこと。」と現代でも通じる名言を残しているのです。

ガンや心臓病などは劇病と感じるでしょう。しかし、そのなかで希望を見つける、病気になったからこそ大事なことに気づくことができます。

一方風邪を放っておくと肺炎やインフルエンザになり、冷えを放っておくと婦人病(月経不順、月経困難症、不妊症など)になりかねません。

冒頭に記した「冷えは万病のもと」という言葉がありますが、「万病」の究極の原因は冷えであると言っても過言ではありません。冷える(中枢体温37℃以下)ことで、各々の細胞がその至適体温で働けないため免疫低下をまねき、やがて感染症や腫瘍性疾患の可能性を高くします。

また冷えは循環低下でもあります。その症状は頭痛、腰痛、抑うつ、月経痛月経不順、なかなか寝付けない等などが挙げられます。言いかえれば、冷え→循環低下→機能不全となり、低血圧症、食欲不振、慢性下痢症、月経困難症、不妊症、不眠症を罹ってしまうのです。

では、どうしたらよいのでしょうか?

先ずは、腹巻・靴下の着用と乾姜湯を始めてみてください。それと同時に冷えを軽視しない生活を始めましょう。

冷えをよく知ることは「想像して観ること、自分の目で確かめること」という観見二つの目を持つことです。それは見えないものを解かろうという、察する習慣を身につけることに他なりません。

このコラムを読んだ方々が、症状や疾病とは無縁の生活を送れるよう『冷やさないための知恵と実践』を手に入れてくださることを願っております。