近年、アレルギーの原因となる食べ物をあえて食べる経口免疫療法への注目が高まっています。

アレルギーの克服は、患者さんにとってメリットとなる部分は大きいですが、その治療過程には様々な注意点があります。

目次

食物アレルギーとは?

そもそも、食物アレルギーとはいったいどのような現象なのでしょうか。

私たちの体には、細菌やウイルスなどの病原体を異物(アレルゲン)として認識し、抗体を作って攻撃するシステムがあります。このような身を守る反応は、免疫と呼ばれています。

食物アレルギーでは、食べ物に含まれる物質がアレルゲンとして認識され、免疫が働き、蕁麻疹、湿疹、下痢、咳、喘息症状などの症状がおこります。

主な食物アレルギーの原因食物には、鶏卵、牛乳、小麦、甲殻類などがあります。

経口免疫療法とは?

経口免疫療法では、症状を引き起こすアレルゲンの量(閾値:いきち)を事前に調べ、その量を基準として、専門医師の指導のもとで徐々に食べる量を増やしていきます。最終的には、アレルゲンとなっていた食べ物に対する耐性を獲得し、食べられるようになることを目指す治療法です。

経口免疫療法はどのように行われるの?

経口免疫療法の方法は標準化されておらず、治療期間、アレルゲンの増量方法などは病院によって異なる場合があります。また、ガイドラインでは研究レベルであり、一般化はされていません。

ここでは一般的な治療の流れを紹介していきます。

初期導入

食物経口負荷試験を行います。

この試験では、アレルギーが疑われる食品に対して症状が誘発されるかどうか、さらに、症状が誘発される際のアレルゲンの閾値を確認します。

増量期

少量のアレルゲンを摂取し始め、摂取目標量(維持量)を目指してアレルゲンの量を徐々に増やしていきます。

維持期

多くの場合、摂取目標量の食物を一日一回摂取します。

万が一症状が誘発された際は、いったん摂取量を減らし、もう一度増量して維持量に戻します

維持期は、食物によって数ヶ月で済むものから数年かかるものがあります。

治療効果の判定

維持期の間、無症状で過ごすことができた場合は治療効果の判定を行います。

ただ、治療を一度終了した後にアレルギーの原因となる食べ物を摂取させるとアレルギー症状がおこることがあるため、治療を数週間から数か月間中断した後に、食物経口負荷試験によって効果を判定します。

経口免疫療法の対象者は?

スプーンを持った子供

ガイドラインでは次の条件を満たす場合に、経口免疫療法を適用するとしています。

食物経口負荷試験で即時型食物アレルギーと診断された場合

即時型アレルギーでは、原因となる食べ物を摂取して数十分以内に蕁麻疹やアナフィラキシーショックなどを起こします。

自然に成長していく過程で、早期にアレルゲンへの耐性獲得が期待できない場合

乳幼児期に発症した食物アレルギーのうち、卵・小麦の場合は成長の過程で耐性を獲得することができますが、このような耐性獲得を期待できない症例があります。牛乳では、近年ではアナフィラキシーを起こしたいきさつがあります。

経口免疫療法の禁忌

ガイドラインでは、次に当てはまる人々には、経口免疫療法が身体に悪影響を及ぼす可能性があるとして実施すべきではないと定めています。

  • アドレナリン投与が禁忌である
  • 妊娠している
  • 不安定な重症喘息を合併している
  • 全身性の重篤な疾患を持っている
    (悪性腫瘍、自己免疫疾患、免疫不全症、重症心疾患、慢性感染症など)
  • 全身性ステロイド薬の連用、抗がん剤の使用

メリット

食物アレルギーの治療では、アレルゲンとなる食べ物を徹底的に除去する食物除去法が基本となっています。食物除去法を行う場合、除去した食べ物に含まれる栄養素を補うために、代替食品を準備しなければなりません。

一方、経口免疫療法では、こうした除去法の負担を減らすことができます

さらに、重症度の高いアレルギー患者がアレルギーを克服したというデータもあります。

経口免疫療法について覚えていてほしい注意点

経口免疫療法については、メリットが強調され、副作用などのデメリットへの認識が薄くなっていることが非常に問題となっています。ここでは、経口免疫療法の注意点を2つ紹介します。

経口免疫療法は研究段階の治療方法です

この治療方法は、安全性のエビデンスが少なく、また治療中のリスクを排除できておらず、未だ研究段階にあります。

日本小児アレルギー学会が発行している「食物アレルギー診療ガイドライン2016」では、経口免疫療法を食物アレルギーの一般診療として推奨していません

治療の過程で何らかの誘発症状が起こります

治療中に多くの症例で、誘発症状が認められています。誘発症状の例として、皮膚の症状(蕁麻疹、皮膚の赤み、かゆみ)、粘膜の症状(口の中やまぶたが腫れる)や消化器の症状(腹痛、嘔吐や下痢)などがあります。

その症状の程度は様々で、アナフィラキシーショックなどの重篤な症状を引き起こすことがあります。自宅での治療が行われることがあるため、こうした症状が病院外で発生することがあります。そのため治療を受ける側もアレルギーに関する知識とこれらの症状への対処法を身に着ける必要があります

さらにこうした症状は、低酸素脳症や挿管を必要とする呼吸管理、ICU(集中治療室)管理を必要とする事例に発展する可能性があることも否定できない現状です。

まとめ

経口免疫療法は、アレルギーの原因となる食べ物を少しずつ食べながら耐性を付けていくことができます。一方で、非常に重大な問題点が残されている治療法でもあります。治療法を検討する際は、食物アレルギー専門の医師に相談をしましょう