皆様は健康診断などで、生活習慣を改め、「運動不足を解消するために、1日20分程度歩くように」という指導を受けることがあるかと思われます。近年では、子供でも歩行量低下による運動機能低下や肥満が増加していますが、適切な歩行により、生活習慣病の他にも認知症に対しても効果があること報告されています。

ここでは、歩行に関しての基本から最近のエビデンス(根拠)までをご紹介します。

目次

歩行の歴史

人が歩行をするようになったのは、約400万年前と推定されております。人間の赤ちゃんは、0歳では何もできないにも関わらず、1歳で2足歩行ができ、言葉を1語話すようになります。我々の先祖がサルからヒトへ進化するまで550万年を必要としたことが、赤ちゃんではわずか1年で可能となるのです。

これまで、人間は歩く・走るという2足歩行により、自分の健康・体調を保ち続けてきました。歩く時間や速度・姿勢など、その方法に対するエビデンスも報告されており、「歩く」ということには深い意義があるといえます。

 「平均寿命」と「健康寿命」の概念

日本人の平均寿命は、2016年の統計では男性では80.9歳、女性87.1歳であり、世界の中でも長寿国です。一方で、健康寿命(心身ともに健康な状態で日常生活を送れる期間)は男性が72.14歳、女性が74.79歳であり、平均寿命と健康寿命の差は7年前と拡大していました。この差が大きいほど、日常生活に制限がある「不健康な期間」が長いということです。

厚生労働省によると、身体活動量が多い者は、生活習慣病(高血圧症・糖尿病・高脂血症・骨粗鬆症)の発病率と、脳卒中・心筋梗塞による死亡率が低いことが報告されております。身体活動の継続がこうした疾病の他にも、メンタルヘルス・生活の質(Quality of Life)の改善に効果をもたらすことも認められています。

こどもの歩行量低下、運動機能の低下

歩く子供たち

その一方で、こどもでは歩行量低下が示唆されています。東京都内の小中高校生の1日平均歩数が小学生では11,382歩、中学生では9,060歩、高校生では8,226歩であり、これまでの1日の平均歩数推定値の13,000歩を大きく下回りました。

この背景として、小児での下記のような生活習慣の変化が示唆されています。

  • 朝食を食べない
  • 習い事などで夕食時間が遅くなり睡眠時間も短くなった
  • 脂肪や塩分の多いスナック菓子などの間食が簡単に手に入る
  • 部屋でのゲーム遊びの時間が増えた

小児肥満の割合も増加しており、その多くは将来的に高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病を合併する可能性が高くなるため、食事指導の他にも、20分以上の有酸素運動を行うことが推奨されています。

歩行による生活習慣病予防

成人においては、1日10,000歩のウォーキングが推奨されています。

10,000歩であれば、時間としても20分以上を必要とします。運動負荷が低い(心拍数として120/分以下)有酸素運動を20分以上行うことで、脂肪が優先的にエネルギー源として使用されます。この結果として、ウォーキングは高脂血症・糖尿病・高血圧症などのいわゆる生活習慣病の進行予防にも効果を持つのです。

認知症予防にも「ウォーキング」

高齢者では、「寝たきりになると認知症になりやすい」とされています。反対に、「よく歩くと認知症になりにくい」ことも判明してきました。日頃よく歩く人(1週間で少なくとも90分)は、週に40分未満の人より認知機能が良いことが示されました。

歩行によって肺が拡張すると、気管支の末端からプロスタグランディンEという物質が分泌されます。この物質が毛細血管を拡張させることで脳の血流が増加することが大きいとされます。

また、脳の機能を保つには「アセチルコリン」という物質が関与しています。認知症患者では、大脳の中でも海馬(記憶などの高次機能を司る部位)での脳血流の低下がみられます。動物実験では、適度な運動によりこの部分の脳血流が増加し、アセチルコリンが分泌されました。年齢にかかわらず、認知機能低下には適度な速度での歩行が重要であることが示唆されています。

まとめ

ウォーキングを行うことで生活習慣病の予防につながり、健康寿命が延びることは良く知られています。このほかにも、近年クローズアップされている認知症に対しても効果が報告されています。その一方で小児では歩行数低下による生活習慣病が懸念されています。

身体的のみならず心理的な健康維持のためにも、ぜひ、1回20分以上のウォーキングをおすすめします。