「中皮腫」という病気の名前をテレビのニュースや新聞などで耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか?

中皮腫は、建築資材などとして使われている「アスベスト(石綿)」が原因となることなどが広く知られています。10年ほど前には、アスベスト製造工場とその周辺で中皮腫が多発したことが大きな話題となりました。

2018年6月にも、東京都大田区の半径約500メートルの住宅密集地で、住民4人が2007~2017年に中皮腫で死亡したことが報道されました。この地域には、1980年ごろまでアスベスト(石綿)を扱っていた工場があったそうです。この4人に石綿を扱う職歴はなく、診察した医師らは工場からの飛散が原因とみられると指摘しました。

アスベストが原因とされる中皮腫の患者数は現在も増え続けています。ここでは、長い年月をかけて私たちの健康に大きな影響を与える恐れがあり、「静かな時限爆弾」とも例えられるアスベストと中皮腫について詳しく説明します。

目次

中皮腫とは? がんとは違うの?

中皮腫は肺に生じるがん(悪性腫瘍)の一種です。

従来は、中皮腫には悪性と良性の2種類があるとされていました。しかし現在、良性の中皮腫は「孤在性線維性腫瘍」と呼ばれるようになったため、「中皮腫」といえば一般的に悪性のもの、つまり「がん」を指します。

通常の肺がんの多くは上皮細胞という肺の大部分を占める細胞から発生しますが、中皮腫は肺を外側から包み込む中皮から生じます。通常の肺がんと比較すると、比較的稀な腫瘍です。

中皮腫になるとどんな症状が出るの?

中皮に腫瘍が生じても、はじめは目立った症状は認められません。ですが、徐々に腫瘍が大きくなると、そこから滲み出した水(胸水)が胸のなかに溜まって肺を圧迫し、胸痛や胸部圧迫感を感じます。それによってや呼吸困難といった症状がみられるようになります。

他にも体重減少や発熱、食欲不振といった症状が現れることもありますが、「この症状があるから中皮腫だ!」という決め手になる様な症状はあまりありません。そのため、一般的に中皮腫は発見が遅くなることが多いとされています。

中皮腫はどうやって見つけるの?

上記の通り、症状から中皮腫を診断することは極めて難しいです。

そこで上記のような症状が認められた際は、レントゲンCTなどで腫瘍の他に、胸膜プラークという胸膜の一部が厚くなって石灰化した病変がみられた場合に中皮腫を疑うケースが一般的です。

また、診断を確定する際には病変とみられる部位の細胞を針などによって採取(生検)し、顕微鏡などで確認(病理検査)します。

中皮腫の治療は?

中皮腫の治療は他のがん(悪性腫瘍)と比較しても難しい部類に入るとされています。

発見されたときにはかなり病変が大きくなっているケースが多く、手術も大掛かりなものになることが多いです。また、手術だけで病変を取り去ることが難しい場合などは、化学療法(抗がん剤)放射線療法などが同時に行われます。

アスベストとの関係:私は大丈夫?

増加中の図

冒頭でも述べましたが、「中皮腫」と聞いて真っ先に思いつくのはアスベストとの関係でしょう。実際、我が国における中皮腫の発症者のほとんどはアスベストとの密接な接触があるようです。

アスベストは耐熱性や保温性、耐久性に優れていたため、かつては「奇跡の鉱物」としてもてはやされ、建築資材として広く使われてきました。ですが、欧米などで有害性が指摘されると徐々に使用が規制されはじめました。

わが国では1975年にアスベストが5%を超えるような施工が禁止され、1995年には1%以上となる施工が禁止されました。しかし、この様な動きは欧米と比較するとかなり後手に回ってしまったといわざるを得ません。

2004年以降は、アスベストは原則として全て使用禁止となりました。また、それ以前の建築物に関しても、増改築の際にはアスベストの飛散防止や除去・封じ込め等が義務とされています。そのため、アスベストに接する危険性は徐々に低くなっています。

しかしながら、かつて対策が不充分な住宅や職場でアスベストを多く吸い込んでしまっている可能性はゼロではありません。中皮腫はアスベストへの暴露後30~40年経過してから発症するため、これまで発症していなくても油断はできないのです。

まとめ

アスベストによる健康被害(中皮腫)は、昨今テレビで大きく取り上げられることは少なくなっています。ですが、近年も発症者は確実に増加しており、これからも社会全体で向き合っていかなければならない問題であるといえるでしょう。

建築物のアスベスト検査は、自治体によっては補助金が出る場合があります国土交通省より)。お住まいの住宅について不安な方は、一度調べてみても良いかもしれません。

中皮腫について、さらに詳しくはがん対策情報センターのサイトをご覧ください。
国立がん研究センターがん対策情報センター|がん情報サービス「中皮腫」