胸に水が溜まる病気のひとつに胸膜炎というものがあります。他の呼吸器疾患(肺や気管支の病気)同様、息苦しさや胸の痛みを伴う病気ですが、この胸膜炎とはどのような病気なのでしょうか。
胸膜炎の症状や原因について詳しく解説します。

目次

胸膜は肺を包む膜

肺は、口や鼻からの呼吸によって取り込んだ酸素を、全身に供給する働きを持つ臓器です。
胸膜肺を包む薄い膜で、肺表面を覆う肺胸膜と、その外側の壁側胸膜の2でできています。その2枚の胸膜の間を胸膜腔(胸腔)といい、通常ここには僅かな胸水(きょうすい)があり、肺を守る潤滑材の働きをしています。

胸膜炎とは

胸膜炎とは、この胸膜に炎症が生じている状態を指します。胸膜に炎症を起こす原因には感染腫瘍膠原病などがあります。

感染による胸膜炎

肺炎と関連した胸膜炎

ウイルスや細菌感染によって肺の中に炎症が起こる代表的な病気として、肺炎があります。

胸膜炎は肺炎同様に、ウイルスや細菌感染によって引き起こされ、その炎症が胸膜まで及んだ状態です。よって肺炎と同時または肺炎に引き続いて認められることが多く、両者の症状は非常に似ています。

結核性胸膜炎

細菌感染の中でも結核菌によって起こる胸膜炎を結核性胸膜炎といい、肺外結核のひとつです。

肺外結核とは?

結核菌の感染によって引き起こされる結核は、多くの場合は肺に病巣(病原菌に侵されている場所)を作りますが、肺以外のあらゆる部分にも病巣を作ります。

結核性胸膜炎は肺結核に合併して起こることが多くありますが、肺に炎症を起こした時期からかなり遅れて(長いものは年単位の差で)発症することもあります。

がん性胸膜炎

胸膜炎の原因となる腫瘍の中で、最も多いものは肺がんです。
がん性胸膜炎は肺などの臓器にできた癌細胞が胸膜に達して(胸膜浸潤)、または血液を介して(血行性転移)、広がることで炎症が生じます。また、肺がん以外にも胃がんや乳がんによっても起こります。

さらに、他からの転移ではなく、胸膜そのものに腫瘍ができる悪性胸膜中皮腫(あくせいきょうまくちゅうひしゅ)による胸膜炎もあります。

膠原病による胸膜炎

膠原病とは、本来自分の身体を守るための機能である免疫機構に異常を生じ、自分の身体の組織に対する抗体を作ってしまい、身体のあらゆる部分を攻撃してしまう自己免疫疾患の総称です。

膠原病では肺にも炎症を起こすことが多く、代表的な疾患である関節リウマチ全身性エリテマトーデス(SLE)では、胸膜炎を合併するケースが多くあります。

胸膜炎の症状

水面に滴る水滴

胸膜に貯まる胸水が増えると、肺が圧迫されて正常な呼吸がしづらくなり、このために息切れ・息苦しさ、発熱などの症状が現れます。

また、炎症を起こした箇所の痛みもあり、深呼吸やによって痛みが出たり増強したりすることがあります。

しかし結核性胸膜炎のように、長い時間をかけて徐々に炎症が進行する場合には、自覚症状に乏しい場合もあります。

また、もととなった病気(肺炎や肺がんなど)の症状も混在するため、自覚症状だけでは胸膜炎と診断することはできず、診断には実際に胸水を抜いて成分を調べる検査(胸腔穿刺:きょうくうせんし)が必要です。

胸に水が溜まるとは?胸膜炎と他の病気の鑑別について

胸膜炎は胸に水が溜まる病気のひとつですが、ほかの病気によっても水が溜まることがあり、原因や機序が異なります。

胸水には胸膜炎のような炎症を原因として起こる滲出性(しんしゅつせい)胸水のほか、心不全肝不全など非炎症性の漏出性(ろうしゅつせい)胸水があります。

滲出性胸水の原因では肺炎が多く、40%程度は細菌性肺炎であり、そのうち、肺炎球菌によるものの割合は60%に及びます。

炎症を原因とする胸水の場合は、多くは炎症を起こしている片側に貯留する特徴があり、非炎症性の場合は両側に貯留します。また、胸水の成分も異なり、胸水の所見などから胸に水が貯まる原因が明らかになります。

また、一般的に胸に水が溜まる状態とは胸水の貯留を指しますが、水が貯まる場所が胸膜ではなく、肺の中に貯まる状態は肺水腫と言い、胸水と区別されています。

ともに肺や心臓の病気に合併し、呼吸困難が見られるものですが、これらはレントゲン検査やCT検査によって鑑別されます。

まとめ

胸膜炎は胸膜に炎症が起こり、貯留した胸水によって肺が圧迫され、呼吸がし辛くなる病気です。

結核を代表とする細菌感染のほか、がんや膠原病などに合併して起こることが多く、診断には胸水を抜いて調べる胸腔穿刺やレントゲンなどの画像診断が不可欠です。