健康診断で調べる検査の中でAST(GOTALT(GPTの値を説明されても、なかなかピンと来ませんよね。これらの数値は肝機能に異常がないかどうかを知るためのものですが、実際のところどのような場合に高くなるのか簡単に説明します。
※ASTとALTは、以前はGOT・GPTと呼ばれていました。本記事ではAST・ALTという呼称で統一します。

目次

ASTやALTは何を表す数値なの?基準値は?

肝臓は、小腸から吸収した栄養を分解してエネルギーに変えたり、体に必要な物質を作り出したり、有害なものを分解して排出したりといった働きを持っている重要な臓器です。

肝臓では通常、ASTALTなどの酵素が効率よく働いています。

ASTとは

ASTは、肝細胞もしくは心臓や腎臓、骨格筋、赤血球などの細胞の中にも存在する酵素です。肝細胞や筋肉、骨にダメージがあった時に血液中にあふれ出てきます(肝臓以外の臓器に異常がある場合も上昇します)。ASTだけが高値だった場合は、肝臓以外の病気の可能性を疑います。

厚生労働省の発行する「標準的な健診・保健指導プログラム【平成30年版】」では、31 IU/L以上を「保健指導判定値」と定めています(2-52より)。この値を超えた場合は要注意です。また、51 IU/L以上で医療機関の受診を勧められます。

ALTとは

ALTは主に肝細胞の中に存在しています。何らかの異常で肝細胞が壊れたときに、血液中にあふれ出てきます。

厚生労働省によると、ALTは、31 IU/L以上が保健指導判定値とされています。51 IU/L以上で医療機関の受診が必要です。31 IU/L以上では肝細胞が障害を受けている証拠となりますが、障害の程度により数値の上昇度合いにかなりの違いがあります。

ASTやALTが異常値の場合に疑われる病気

ハートを示す医師

肝臓や心臓の細胞に異常が起きると、血中にこれらの酵素が漏れ出て基準値を超えてしまいます。

数値が上昇する病気には以下のようなものがあります。

急性肝炎

肝臓に炎症が起きて細胞を壊してしまう疾患を、総称して肝炎といいます。免疫力が低下している方や、高齢者の方がかかりやすい傾向にあります。主な症状は、黄疸、食欲不振、吐き気・嘔吐、全身の倦怠感、発熱などです。

急性肝炎はそのうち、突然発症する一過性のものです。主にウイルスの感染が原因となりますが、薬物アルコールなどが原因で発症することもあります。

急性肝炎では、早期からASTとALTが高値になります。黄疸が出現する場合はさらに上昇しています。

慢性肝炎

肝臓に起こった炎症が6ヶ月以上続いた状態を慢性肝炎といいます。B型肝炎ウイルスC型肝炎ウイルスなどによって生じます。場合によっては、数年から数十年と長い期間続くこともある病気です。

慢性肝炎では、AST・ALTともに急性肝炎ほどの高値は示しません。さらに症状も軽く、無症状のことも少なくないため、治療を受けずに放置しがちな病気です。しかし、放っておくと肝硬変肝がんに移行してしまう場合があるため、早い段階から適切な治療を受ける必要があります。

劇症肝炎

急性肝炎の発症から8週間以内に肝性脳症血液中の凝固因子の低下がみられた場合、劇症肝炎と診断されます。肝細胞が急激に壊れ、肝臓の機能が大きく低下した状態です。

劇症肝炎になるとASTもALTも著しく上昇します。また、腎臓、肺、心臓、消化菅などの臓器不全出血など、全身にさまざまな異常を来たします。数日以内に死に至るほどの急激な変化を起こす危険性も高い病態です。

劇症肝炎では、肝細胞が広範囲に壊死した結果、ASTもALTも低下して正常値に近くなる経過を辿ります。しかし、これは肝臓の本来の役割を果たせない病態ですので、経過不良を意味します。

脂肪肝

肝臓内に中性脂肪が溜まった状態です。全肝細胞のうち30%以上が脂肪化した状態をさします。お酒の飲み過ぎによるものと、肥満や糖尿病・薬などが原因になるものとがあります。

脂肪肝では、ALT・ASTの値は50~100前後に上昇することが多いです。また、アルコールが原因の場合はASTの方が高く、過食や糖尿病が原因の場合はALTの方が高くなることが多いのが特徴です。

脂肪肝では、特に自覚症状は表れません。しかし脂肪性肝炎や肝硬変、肝がんへと進行することもある状態なので、早目の対処が必要です。

閉塞性黄疸

胆管が詰まることで肝臓で作られる胆汁の流れが障害され、腸内へ排出されずに血液中に逆流し、ビリルビンという黄色い胆汁色素によって皮膚や粘膜が黄色くなることをいいます。

閉塞性黄疸は、結石腫瘍によって胆管が狭くなったり詰まったりすること(狭窄・閉塞)が原因で生じます。ASTとALTも高値を示しますが、γ-GTPやアルカリホスファターゼなどの胆管系酵素やビリルビン値はより高い値になります。

急性心筋梗塞

急性心筋梗塞とは、心臓に栄養と酸素を送っている主要な血管が詰まってしまう病気です。心臓の筋肉が壊死し、最悪の場合は死に至ります。

心筋にダメージを受けますので、AST(GOT)が上昇します。ただし、心筋梗塞の診断はASTの上昇だけではなく、心電図や他の検査データを元に行われます

 ASTとALTを基準値にするために気をつけたいこと

ASTとALTを基準値に近づけるためには、以下のことに注意しましょう。

運動不足

運動不足になると、消費エネルギーが減少します。すると摂取したカロリーが消費されずに中性脂肪として体内に蓄積し、結果として脂肪肝を招きます。

食べ過ぎ

食べ過ぎによる過度な栄養は、脂肪に変化し肝臓に貯蓄されます。甘いジュースや炭水化物の摂り過ぎは脂肪肝につながるので要注意です。

アルコールの飲み過ぎ

アルコールの過剰摂取は、脂肪肝をはじめ様々な肝臓病を招くことが分かっています。アルコール性肝障害は死に至ることもある病気なので、アルコールは控えるか、禁酒が必要です。少なくとも休肝日を設けて、肝臓を休ませるようにしましょう。

まとめ

肝臓は「沈黙の臓器」といわれ、痛みやかゆみといった自覚症状はほとんど出ません。ですから、健康診断などで、「肝機能が低下していますよ」とか「ASTやALTが高いですね」といわれたら、軽視せず生活習慣を見直しましょう。

肝臓は、とても大事な臓器です。軽い肝機能障害であれば、食習慣や生活習慣を見直すだけで、回復が見込めます。そして、もし「精密検査をしましょう」といわれたら、取り返しがつかなくなる前に迷わず医療機関に行きましょう。