アルコールは生活を楽しく、豊かにしてくれますが、飲みすぎると体を壊す原因になります。体の中でも肝臓はアルコールの影響が出やすく、アルコール性肝障害の重症化によって日本国内だけでも毎年4万人以上の人が亡くなっていますKOMPAS|アルコール性肝炎より)。お酒好きの人、付き合いで飲む機会の多い人は是非読んでください。

目次

アルコール性肝障害とは

摂取したアルコールの約9割は、肝臓で処理されます(札幌医科大学医学部法医学講座|アルコールの基礎知識より)。しかしアルコールの摂取が大量だったり、長期間続いたりすると、肝臓に負担がかかり機能が低下してしまいます。

アルコールによる肝臓の負担が続くとアルコール性脂肪肝→アルコール性肝炎肝硬変肝臓がん肝不全と移行します。これらの状態をアルコール性肝障害といいます。

なぜアルコールが肝障害を引き起こすのか

アセトアルデヒドの毒性

アルコールは体内に入ると胃を通り抜け、小腸で吸収され、血流にのって肝臓に到達し、肝臓で少しずつ分解され、最終的には二酸化炭素と水になります。

初めの分解の時点で、アルコールは「アセトアルデヒド」という物質になります。この物質は人体にとっては有害で、頭痛、吐気、嘔吐、脈が速くなる、顔が赤くなる、などの原因になります。
アセトアルデヒドがさらに分解されると酢酸になり、酢酸は二酸化炭素と水になります。

アセトアルデヒドは毒性が高いのですが、大量の飲酒、または慢性的な飲酒状態になると、酢酸への分解が追い付かず、アセトアルデヒドが肝臓に蓄積し、肝臓の機能を低下させます。

鉄の毒性

アルコールを摂取すると腸からの鉄の吸収が高まり、肝臓に鉄が蓄積します。

一方で、酸素を吸うと、体内で「活性酸素」という物質が作られます。この物質は病気を引き起こす原因となるのですが、通常の状態であれば、病気にならないように防御システムが働いています。

活性酸素は水と反応して過酸化水素になりますが、その過酸化水素が過剰な鉄と反応してラジカルという体内のタンパク質やDNAを傷つける物質に変化します。
ラジカルによって長期間曝された肝臓のDNAは高確率で変異が発生し、肝臓がんになります。

腸内細菌叢の変化

腸内細菌叢、腸内フローラ、という言葉を耳にしたことがある人もいるかと思いますが、人の腸内には微生物が存在します。

腸内細菌のなかでもグラム陰性桿菌という種類の菌はアルコールによって増えやすく、その菌の細胞膜の成分であるエンドトキシンが肝臓に存在するクッパー細胞(=マクロファージ、体内の異物を食べることで除去する能力がある)を刺激します。

刺激されたクッパー細胞から出るサイトカインというタンパク質は本来、がんなどの異物を抑制するための機能がありますが、酸化ストレスも発生させてしまい、肝細胞障害が起こる可能性が示唆されています。またサイトカインは肝臓の線維化も促進させてしまうという研究があります(国立病院機構 久里浜医療センター|過度な飲酒はなぜ体によくないか?より)。

診断基準

多くの病院ではアルコール医学生物学研究会(JASBRA)が示した「JASBRAアルコール性肝障害診断基準(2011年版)により診断しています。

  1. 長期(通常5年以上)の過剰な飲酒が慢性的に続いている
  2. 一日の平均的な飲酒の量が純エタノール60g以上である。ただし女性やALDH2(アルコール分解酵素)欠損者は40g以上でもアルコール性肝障害の可能性がある。
  3. 禁酒で肝機能を表す血液検査値(AST、ALT、γ-GTP)が回復する
  4. 肝障害を引き起こす原因がアルコールの他には無い

診断は本人の問診でも行いますが、家族、友人などに聞く場合もあります。

症状

人によっては疲れやすい、お腹がはる食欲低下などの症状が出る場合もありますが、ほとんどの人は症状が出ません

病状が進行して肝硬変になると、上記症状の他に、微熱、足のこむら返り、痒み、手のひらの赤み、クモの足のように四方八方に毛細血管の広がっている様が痣のように見える(クモ状血管腫)ことがあります。

予後

アルコールによる肝障害は生命に危険が及びます。またカロリーの過剰摂取による肥満メタボリック症候群になります。

さらには膵炎、心筋症、脳障害、アルコール性筋症、末梢神経障害、突然死、発がんなど様々な疾患のリスクが高くなります。

アルコール性肝硬変の患者が、お酒を止めない場合5年後の死亡率は65%(パーセント)ですが、飲酒をやめることが出来た場合は12%という報告があります(国立国際医療研究センター|肝炎情報センターより)。

また黄疸腹痛、発熱などの症状が出ている重症型アルコール性肝炎の場合、2か月後の死亡率は7o%です(九里浜医療センター|2. 飲酒と健康問題より)。

健診や人間ドックなどで、症状が出ていないうちにアルコール性肝障害が見つかれば、すぐに禁酒を始めましょう。症状が出てからでは対処しても回復困難です。

予防方法

日本酒なら3合、ビールなら350mlの缶3本以上で多量飲酒といえます(日本生活習慣病予防協会|アルコール性肝疾患より)。しかしアルコール限界量は人によって大きく異なり、疲労気味の人や女性は限界量が少なくなります。自分にとっての適度な量を知り、また週に2日は休肝日を設けましょう。

アルコールが好きであるなら、肝臓を労わりましょう。

まとめ

すでにアルコール性肝障害を起こしている人は、禁酒が治療の基本です。

禁酒が出来ない人はアルコール依存症の可能性もあります。自分では適量を飲酒しているつもりでも、周囲が飲み過ぎを指摘しているなら、その指摘を認めましょう。自分で飲み過ぎを自覚しているか否かは、治療において非常に大切です。