あまり一般の方には知られていませんが、日本では近年、梅毒の感染者数が急激に増加しています。2010(平成22)年度は621人だった患者数が、2016(平成28)年度にはなんと4,557人まで膨れ上がっています(厚生労働省・性感染症報告数の年次推移より)。これは他の先進諸国と比較しても異常事態であり、厚生労働省をはじめとした関連機関が対策に乗り出しています。

日本国内では、梅毒が「性感染症」であるということはある程度認知されていますが、梅毒が母子間で感染するリスクがあるということはあまり知られていません。ここでは、母子間の感染によって生じる「先天梅毒」について解説していきます。

目次

そもそも梅毒ってなに?

まず、そもそも梅毒とはどのような病気なのでしょうか。

梅毒とは梅毒トレポネーマ・パリダムという細菌によって引き起こされる感染症です。梅毒トレポネーマ・パリダムは低酸素の環境でしか生きられないため、感染経路は粘膜の接触を伴う性交渉(オーラルセックスなども含む)や血液を介した感染(輸血など、近年はほぼ見られない)に限られます。

症状は進行度によって大きく、感染力の強い第一期と第二期、そして症状が深刻化する晩期の3つの時期に分けられます。

第一期には性器などに硬い出来物(硬性下疳)が生じます。

その後しばらくすると細菌が全身に巡り、発熱やだるさ、皮疹や脱毛といった様々な症状を示すようになります。これが第二期です。

第一期と第二期の特徴としては、特に治療をしなくても症状は次第に消失するという点です。ですが、症状が消失しても細菌は体内で生き続けており、この細菌が数年~数十年後に再活性化し、大動脈などの大型血管、脊髄や脳などの神経に深刻なダメージを与えます。これ晩期で、この段階に至ると命に関わることもあります。

しかし、近年は抗生物質(ペニシリン)による治療法が確立しているため、この晩期まで進行してしまうことは極めて稀です。

どうやって赤ちゃんに感染するの?

上で説明したように、梅毒は基本的に粘膜の接触や血液で感染します。

それでは、母親の梅毒がお腹のなかの赤ちゃんに一体どうやって感染するのでしょうか?それは「胎盤」です。

胎盤では赤ちゃんの成長に必要な物質の輸送が行われており、物質交換の過程で赤ちゃんの血液と母親の血液が接触します。その時に血液中の梅毒トレポネーマが胎児に感染してしまうのです。これが先天梅毒です。

なお、感染が生じるのは母親の梅毒の感染力が強い第一期と第二期であるとされており、症状が認められない潜伏期や症状が深刻化した第三期(妊娠する世代に第三期はあまりみられませんが)にはあまり感染は起こらないとされています。

先天梅毒の症状は?

残念ながら先天梅毒をもって生まれてきてしまった赤ちゃんはどの様な症状を示すのでしょうか?先天梅毒も発症時期によって、早期先天梅毒晩期先天梅毒の2つに分けることができます。

早期先天梅毒

一般的に生後3か月以内に発症したものを指します。発疹や水疱などが全身に生じ、発育不全や、長期的には知的障害が認められるケースもあります。

晩期先天梅毒

2歳以降に発症する先天梅毒です(骨に異常が生じることから、頭や肢の骨格に変形が認められます)。また、視力や聴力に障害が起こることもあります。

治療と予防

親子

治療としては、ペニシリンという抗生物質をガイドラインに従い投与します。

血液検査で赤ちゃんに梅毒の感染が認められなくても、母親の梅毒治療が不十分であったり、梅毒感染が妊娠末期であったりしたケースなどは、リスクを鑑みて治療を始める場合があります。

一番の予防はもちろん梅毒に感染しないようにすることです。性感染症の予防策(不特定多数との性交渉をしない、性交渉の際はコンドームを使うなど)を怠らないことが大切です。

また、結婚時のブライダルチェックなどでも梅毒の感染の有無を確認することが出来ますので、妊娠前に性感染症がないかを確認しておくことも有効でしょう。ちなみに日本では、ほぼ全ての妊婦さんに対して妊娠中に梅毒感染の有無を確認する検査が実施されています。

まとめ

梅毒というと性感染症というイメージが先行するため、母子間での感染はあまり注目を浴びることはありません。ですが、先天梅毒は最悪の場合、生まれてくる子供に重い障害を残すリスクもある深刻な問題です。妊娠中の方やこれからの妊娠を考えている方は是非知っておきましょう。