2018年3月に、台湾からの旅行者が沖縄県で麻疹(はしか)を発症してから、沖縄県内のみならず本州においても2次感染・3次感染が判明しており、麻疹の感染力の強さとその対策を再認識する必要があります。
ここではワクチンの重要性と、年齢別での麻疹への対策方法を解説します。
日本での麻疹の感染状況
日本では、麻疹は2015年に根絶が宣言されました。しかしその翌年以降、海外旅行での感染により麻疹ウイルスの流行がみられることがありました。
2016年では、19歳の麻疹感染者が千葉県でのコンサートに参加し、関西の空港で2次感染を発症させたとの報道がありました。本年(2018年)も、台湾の旅行者が麻疹を発症して、沖縄県のみならず本州でも2次感染・3次感染が報告されております。
このように麻疹は、感染力が非常に強いことが特徴です。
麻疹の感染力・症状の強さ~本当の恐ろしさとは
麻疹ウイルスの感染力は非常に強く、「ひとりの感染者がどれだけの人数を感染させるか」という目安である「R0(基本産生係数)」が非常に高いです。
代表的な伝染性疾患の基本産生係数は下記の通りです。
- 麻疹:16~21
- 百日咳:16~21
- ムンプス(おたふく風邪の原因):11~14
- 風疹:7~9
- 水痘(みずぼうそうの原因):8~10
- インフルエンザ:2~3
このR0(基本産生係数)のデータから見るように、麻疹の感染力は冬季に流行するインフルエンザの約10倍と非常に高いです。
また、インフルエンザは飛沫感染なので、咳やくしゃみの飛沫がとどく「2メートル以内」に広がります。しかし、はしかは同じ電車に乗っただけでも感染する空気感染であり、マスクの効果も限定的であります。
こうした例から、空港などでの感染者が増える理由として、例えば感染者がある航空機やエレベーターに乗って降りたとして、そのあと別の人が同じ空間を利用すると、それだけでうつってしまいます。空気感染は、体液が付着しなくても感染してしまうのです。
麻疹を発症すると、発熱は5~7日程度持続し、咳・鼻水の症状が強くなります。気管支炎・肺炎、脳炎などになるリスクもあり、死亡したり、後遺症を残したりすることもあります。
麻疹感染が懸念される年代とは~これまでの予防の歴史から
昭和の時代では、麻疹に関しては「予防接種よりかかった方が、確実に抵抗力がつく」「かかった方が安く済む」と、その対策は欧米と比べると軽んじられておりました。このために日本では、麻疹による死亡や後遺症の例が多かったです。
麻しん予防接種は1978年に定期接種にとなりましたが、この時点ではまだ1回接種でした。1988年には、麻疹のワクチンとしてMMRワクチン(麻疹・風疹・おたふくかぜ混合ワクチン)が認可されましたが、おたふくかぜワクチン株による髄膜炎を示唆されるケースが多くなり接種率が低下し、1993年にはMMRワクチンは中止となりました。
これに代わってMRワクチン(麻疹・風疹混合ワクチン)が登場し、2006年から、1歳児と小学校入学前1年間の幼児の2回接種が始まりました。2007年から2008年にかけて麻疹が流行しましたが、この時の流行は、当時2回の予防接種を受けていなかった10代から20代の若い世代に多くなりました。
この事から、2008年から2013年まで中学1年生・高校3年生でのMRワクチンの接種(キャッチアップ・キャンペーン)が実施されました。こうして日本でもMRワクチンが2回接種となったため、感染数は明らかに減少しました。
こうした状況から、1977年より前に出生した方は麻疹ワクチンが任意接種であり、接種率は低かったために、麻疹に感染していた可能性があります。1978年から1990年生まれの方はワクチンの接種が1回である方が多いために、麻疹に感染するリスクが高いです。
1990年生まれ以降の方は、前述の臨時接種(中学1年生・高校3年生)ワクチンを2回接種しているケースが多くなっています。
麻疹の予防としてワクチンに勝るものはなし
麻疹の治療には、インフルエンザのようなウイルスに対しての特効薬はありません。空気感染であること、かかると重症化することから、2回のワクチンに勝る手段はないのが現状です。
麻疹の抗体検査(麻疹に対しての免疫があるかを調べる検査)を実施されておらず、ワクチン接種を2回実施したか明らかでない場合には、自費になりますが、ワクチン接種をされることをおすすめします(MRワクチンになります)。
また、0歳から1歳までの乳児の感染予防ですが、沖縄県などでは生後6か月から1歳未満までの乳児を対象に、公費助成によりMRワクチンを勧奨しています。予防としては、周りの大人が感染しないようにすること、人混みを避けることも重要です。
ただ、乳児(生後6か月から1歳)のMRワクチンの予防効果などはまだはっきりしたことは判明していないのが現状ではあります。
まとめ
麻疹は2回のワクチン接種により予防可能となりました。しかし2018年現在で20代から40代前半の方は、ワクチン接種が2回行われていないため、感染するリスクはあります。
どの年代でも、麻疹感染予防にはワクチン接種に勝る手段はありません。2回のワクチン接種を受けたことが明らかでない場合には、麻疹の感染予防が必要であります。