「がん」は高齢者の病気、と思っていませんか?実際、がん患者さんの数は男女とも、40~50代以降に顕著に増加します。しかし、それより若い年代でがんにかかる方がいないかというと、もちろんそうではありません。子供も、そして20代や30代の若年者であってもがんに罹患することはあります。

本記事では、思春期・若年成人世代(AYA世代)のがんについて解説します。

目次

AYA世代って、どんな世代?

まず、本記事で扱う「AYA(アヤ)世代」とはどういう年代なのか見てみましょう。

“AYA”はAdolescent and Young Adult、つまり思春期と若年成人のことです。厚生労働省の研究班は15歳以上40歳未満を「AYA世代」と呼んでいますが、明確な定義があるわけではありません。

AYA世代は基本的に、「思春期」「若年成人」に分けて考えます。

思春期

精神的にも社会的にも、自立に向けて発達をしている段階です。意思決定の主体は親になることも少なくありません。また、経済的にも自立していない場合がほとんどです。

若年成人

精神的・経済的に自立し始める時期です。本人が意思決定をすることができます。

読者の皆さんの中にも、この年代に当てはまる方は多いでしょう。そしてAYA世代に特徴的なのは、就学や就職、恋愛・結婚、出産・育児など、人生において重要である様々なイベントが集中しているということです。そのため、AYA世代のがんにおいては、病気そのもののこと以外にも様々な社会的問題が生じてきます。

AYA世代のがんってどんなものが多いの?

AYA世代でみられるがんは、多種多様です。というのも、AYA世代の場合、子供に多くみられるがん成人に多くみられるがんとの両方が発生することがあるのです。

特に若い世代で多いのは、希少がんとよばれる患者数の少ないがんです。骨肉腫、悪性リンパ腫、脳腫瘍など、非常に多くの種類がみられます。これらは、複数の診療科目で治療を行う必要があります。

一方、25歳以上で増えてくるのが一般的な成人に多くみられるがん(女性では子宮頸がん、乳がんなど)です。とはいえ、がん患者さん全体を見たとき、AYA世代が占める割合はわずか2%程度にすぎません(下記で詳しく解説します)。そのためやはり、AYA世代特有の問題は見逃されがちな傾向にあるのです。

患者数の少ない「AYA世代」のがん

上図は、2013年にすべてのがんに罹患した人の数をグラフ化したものです。男女とも、人数がピークを迎えるのは70代以降で、AYA世代のがん罹患者は少ないことが見て取れます。

実際、AYA世代でがんを発症する患者さんは、日本では年間に5,000人程度です。これはがん患者全体の約2とわずかな人数であり、それゆえに対策も進んでいない分野といえます。

また、がんの生存率は小児がんや高齢者のがんでは顕著に改善してきました。一方、AYA世代のがんの生存率はこの10年、それほど変わっていません。例えば、AYA世代の脳腫瘍の相対生存率は、1993年以降ほとんど改善せずに60%台のままだといいます(大阪府立成人病センターより)。患者さんの数が少ないこともあり、臨床試験や研究がなかなか進んでいないのが現状なのです。

「自分には関係ない」と思わないで

上記の通り、AYA世代のがんの数は多くありません。ただし、今は日本人の2人に1人が、一生のうちにがんに罹患する時代です。そのような観点からは、AYA世代がん患者さんはたまたまライフステージの早い段階でがんに罹患しただけです。また、まだがんに罹患していない人であっても、将来的にがんを発症することもあります。

「がん」という言葉に偏見を持たず、AYA世代のがん特有の課題や問題、それらを解決するための取り組みを、多くの人に知っていただければと思います。

“AYA”特有の悩みや課題

AYA世代ならではの課題としては、下記のようなものがあります。がんを経験していない同世代と同じように将来や学校・仕事のこと、人間関係のことなどで悩むのはもちろんのこと、生殖機能のことや合併症のことなど、がん患者さん特有の課題も生じるのです。

ここでは代表的なものをいくつか紹介します。さらに詳しく知りたい方は、「がんの子供を守る会」のサイトから「AYA」の冊子(PDF)をご覧ください。AYA世代の患者さんへの、アンケート調査の結果が記されています。

外見の変化

治療に用いる抗がん剤の副作用は、見た目に大きな影響を及ぼします。例えば髪が抜けたり、肌が黒ずんだりします。男女を問わず、これらの外見の変化をきっかけに、日常生活や対人関係に対して臆病になってしまうケースがあります。

ウィッグや帽子、メイクなどでファッションを楽しむこともでき、近年はアピアランス(外見)ケアの専門外来を設けている病院もあります。

妊孕性の問題

妊孕性(にんようせい)とは、「妊娠する力」を指します。男性・女性とも、がん治療の影響で妊孕性が低下したり失われたりする場合があるのです。

治療を開始する前から対策を行っていきますが、患者さんの状況によっては治療を優先することもあります。担当医ともよく相談した上で進めましょう。

教育・就労の問題

AYA世代でがんに罹患した方の多くは、学校に通っていたり、仕事をしていたりする年代です。そのため、教育と治療・仕事と治療の両立に悩む患者さんは数多くいます。仕事のことは病院のソーシャルワーカーに相談したり、勉強については院内学級訪問教育などを活用したりすることもできます。

経済的な問題

「がんは高齢者の病気」という印象が強いためか、若年層では保険に加入していない方が多いです。AYA世代のがん患者さんの多くは国の医療費助成制度を活用していますが、その支援は十分とはいえません。

最後に

AYA世代のがん患者さんは、数でいうと多くはありません。しかし年齢別の死亡原因で見ていくと、15~24歳では自殺・不慮の事故に次いで第3位、25~39歳では自殺に次いで第2厚生労働省より)と、決して軽視することはできない状況にあります。

ライフイベントの相次ぐこの時期にがんに罹患すると、特有の問題が多数生じます。まだまだ対策が十分に成されているとは言い難い現状ではありますが、患者さん自身が団体を作るなどの活動を行ったり、医療従事者らによる活動も徐々に進んだりしています。

AYA世代のがん特有の課題や問題、それらを解決するための取り組みを、多くの人に知っていただければと思います。