2017年11月4日、聖路加国際大学(東京都)の日野原ホールにて、AYA Cancer Summit 2017(アヤキャンサーサミット)が開催されました。

“AYA”は、”Adolescent and Young Adult“、つまり思春期と若年成人世代を指します。今回のイベントは、がんの種類を問わず、15歳から39歳の間にがんを体験したサバイバーが繋がり、「がんを考える」1日として、若年性乳がん患者サポート団体Pink Ringが設けたものです。

本記事では、AYA Cancer Summit 2017の様子をレポートします。パワフルな若年がん体験者の方々の様子を、ぜひ知っていただければと思います。

目次

がんを「勲章」にするために

aya can rosette

イベントのロゴであるAYA CAN Rosette

オープニングトークとして、まずはPink Ringのチーフメディカルアドバイサーである北野敦子先生(聖路加国際大学/乳腺外科専門医)から「AYA世代がんを知ろう」と題した講演がありました。

北野先生によると、AYA世代のがんは、罹患率でいえば10万人に2,630人程度(約3%)と、決して多いものではありません。それゆえに、対策が遅れているのが現状だといいます。実際に、がん患者の生存率は医療の進歩によりどんどん上がってきていますが、AYA世代のがんは他の世代に比べて生存率の改善が乏しいという現状があります。

このオープニングトークで筆者の印象に残ったのが、今回のイベント、ロゴであるAYA Can Rosetteの話題です。 AYA世代のがんには、妊孕性(妊娠するための力)、就労、恋愛・結婚、教育など、様々な特有の問題がつきまといます。AYA Can Rosetteは、そんなAYA世代のがん体験者の方々が「がんであることを隠さず、誇りにする」ために考案されたもので、勲章の形にこだわっているそうです。さらに北野先生は、「Survive With」というテーマにも触れ、「様々ながん種の患者さんが繋がっていくことで、思春期・若年世代として声を挙げていくことが大切」と話しました。

“AYA”が抱える課題と対策

続いて「AYA世代のがん対策」について、名古屋医療センター臨床研究センター長・小児科医長の堀部敬三先生による講演が行われました。

堀部先生によると、AYA世代のがんの治癒率の改善が芳しくない理由として、大人のがんとの特性の違い(分子標的治療薬が効きづらい)、治療法の違い、有害事象(合併症など)が多いことが挙げられるといいます。そうしたがんそのものの特性に加え、若い世代は多少の症状があっても「がん」とはまず思わずに受診が遅れること、そして医師側もがんを疑わないケースが多いことなども問題として挙げられていました。

講演に続けて行われたパネル・ディスカッションでは、聖路加国際病院小児科医長の小澤美和先生、そしてAYA世代がんの経験者2人を迎え、患者ならではの悩みを取り上げました。そこでは若年性ならではの悩みとして、コミュニティが不足していたことや、家族や周囲の人に自身の病気のことをどう話せばいいか分からなかったことなどの話題が挙がりました。

AYA世代のがん患者として

Pink Ringフラチームによるフラダンス feat.Ayami
Pink Ringフラチームによるフラダンス feat.Ayami

東京都立小児総合医療センター 松井基浩先生による16歳でがんを経験した小児腫瘍科医として」と題した講演に続けて、NPO法人 がんノートが主催するがん経験者インタビューWEB番組・がんノートの公開生放送とフラダンスショー(上記写真:後述)が行われました。

高校生でがんを発症したという松井先生は、発病後しばらくは風邪を疑っており、実際に病院を受診したのはかなり経ってからだったそうです。診断後に「死にたくない」と恐怖を覚えたり、復学にあたり勉強や友人関係への悩みを抱いたりしたときに支えになったのは、同じく闘病中の友人たちの存在だったといいます。ピアサポート(体験談)の大切さを知り、同じように思いや悩みを共有できる人が増えたらという思いから立ち上げた若年性がん患者団体「STAND UP!!」は、フリーペーパーの発行やイベント会、チャット会など、若年性がん患者さんのための場を作っています。

「がんと共に生きる」ということ

「AYA世代のがんと生きる」と題したPink Ring代表の御舩美絵さんのお話では、AYA世代ならではの問題として「ライフイベントと闘病が重なる」ことが挙がっていました。がんになったことで失ったものは多くても「その中で折り合いをつけ、自分の人生の目標をどう設定し直して生きていくかが大事」と話した御舩さんは、がん種を越えた繋がりを改めて呼びかけました。

続く聖路加国際病院 乳腺外科部長・ブレストセンターセンター長 山内英子先生の講演の中でも、就労・妊孕性・お金のことなど、多様な問題点が挙がりました。

その中では身近になりつつある遺伝カウンセリングの話題を含め、「健康情報を見極める力」についても触れられましたが、大切なのは「い・な・か・も・ち」だと言います。

  • 「い」:いつの情報か
  • 「な」:なんのために書かれたか
  • 「か」:書いた人は誰か
  • 「も」:元ネタは何か
  • 「ち」:違う情報と比べたか

山内先生は講演の後半、「患者らしくではなく、あなたらしく」と繰り返し、自分らしく歩もうとしている患者さんたちにエールを送りました。

“自分らしく”輝くAYA世代

AYA CANサバイバーファッションショー
AYA CANサバイバーファッションショー

この日のイベントでは講演の他にも、Pink Ringフラチームによるフラダンスショーやファッションショーが行われました。

Ayamiさん(歌手/乳がんサバイバー)をゲストに迎えたフラダンスショーでは、Ayamiさんの伸びやかな声に乗せて、ピンク色の衣装で踊るダンサーたちの活き活きとした表情が印象的でした。また最後に行われた「AYA CANサバイバーファッションショー」では、自らの趣味を表す衣装や、50年代を思わせるポップな衣装などに身を包んだモデルさんたちの姿に目を奪われました。スペシャルゲストにはフットサル選手の久光重貴さん(肺がんサバイバー)やモデルのMAIKOさん(乳がんサバイバー)も登場し、喝采を浴びていました。

編集後記

若くしてがんになった多くの患者さんが集まっていたAYA Cancer Summitですが、登壇者をはじめ、とても明るい雰囲気だったことが印象に残っています。一人ひとりが病気を受け入れ、自分らしく歩んでいる姿に感銘を受けました。

日本人の2人に1人はがんになる現代、がんは誰にとっても、「他人事」ではありません。がんを体験した方々が生きやすい社会を作るためにも、こういったイベントが行われているということを多くの方々に知ってほしいと思います。

※登壇者の肩書・記事内容は2017年11月10日時点の情報です。