急激な視力障害が起こる眼の病気に網膜動脈閉塞症があります。早急な治療が必要な病気で、放置すると失明の危険性もある怖い病気です。また、高血圧や肥満など生活習慣との関わりが大きい病気でもあります。今回は網膜動脈閉塞症について詳しく紹介します。

目次

網膜動脈閉塞症とは?

眼球の奥には網膜という、光を感じる細胞(視細胞)などでできた組織があります。網膜に光が当たると、その光は電気信号に変換されて眼と脳をつなぐ視神経を通じて脳へと伝わり、ものが見えるようになります。

人の身体は心臓から送り出された酸素や栄養が含まれた血液を全身に運ぶ動脈と、二酸化炭素や不要となったものを心臓へと戻す静脈2つの血管が巡っていて、網膜にも張り巡らされています。網膜動脈閉塞症とは、その名の通り網膜の動脈(網膜動脈)が閉塞してしまう病気です。

網膜動脈が何らかの原因で閉塞してしまうと、閉塞した部分より先には血液が流れなくなります。そうすると、必要な酸素や栄養も途絶えて細胞はあっという間に死んでしまいます。細胞が死んでしまうと、網膜は光を感知することが出来なくなり、最悪の場合は失明をも引き起こします。

網膜動脈閉塞症の原因

網膜動脈閉塞症の原因として、最も考えられるのは動脈硬化の影響です。動脈硬化が起きると、血栓ができやすくなってしまうため動脈が閉塞しやすくなります。また、網膜動脈ではなく、心臓から網膜までの間にある血管で動脈硬化が起きても、できた血栓が網膜動脈まで流れてきて閉塞する場合もあります。そのほか血管に炎症が起きる疾患などによって閉塞するケースもみられます。

高血圧や糖尿病・脂質異常症・肥満などの生活習慣病は、動脈硬化を招く原因であり、互いに悪影響を及ぼしあいます。

網膜動脈閉塞症の種類

網膜動脈閉塞症は、どの部分で閉塞が起こったかによって次の二種類に分けられます。

網膜中心動脈閉塞症

網膜動脈は、視神経が束になっている視神経乳頭を通る大きな血管から枝分かれして、全体へと広がっています。この枝分かれする前の大きな血管(網膜中心動脈)で閉塞が起きることを、網膜中心動脈閉塞症といいます。

網膜中心動脈が閉塞してしまうと、その先の網膜全体に張り巡らされている動脈全ての血流が途絶えます。その結果細胞が死に、光を感知することができなくなり、急激に視力が低下します。

網膜動脈分枝閉塞症

視神経乳頭から枝分かれした網膜動脈部分に閉塞が起こるのが、網膜動脈分枝閉塞症です。閉塞した箇所から先の血流が途絶えるため、その範囲にのみ視野障害などが起こります。それ以外の場所は閉塞が起こっていなければ影響はありません。

ただし、閉塞した部分が視力に関係する黄斑に関わる血管であれば、急激な視力低下も起こり得ます。

網膜動脈閉塞症の症状

網膜動脈閉塞症では、次のような症状がみられます。なかでも特徴的な症状は急激な視力障害です。これらの症状が起こる場合、大半は何の前触れもなく突然起こります

  • 急激な視力障害
  • 目の前が真っ暗になる
  • 視野が欠けて見える

網膜中心動脈閉塞症の場合は、発症した側の眼で失明の危険があり、症状も重度の場合が多いです。網膜動脈分枝閉塞症では閉塞した部位に関わる視野のみが暗くなったり欠けて見えたりする程度で、視力には影響を及ぼさないケースもみられます。

網膜動脈閉塞症の治療

網膜への血流が途絶えて網膜細胞が死んでしまうと、血流が戻っても細胞が元の状態に戻ることはありません。網膜動脈の血流が途絶えた場合、それに耐えうる時間は1~2時間程度といわれています。発症から時間が長ければ長いほど、網膜機能の改善や視野・視力障害の改善の見込みも低くなります。

そのため網膜動脈閉塞症が起こったときは、網膜動脈の血流を早急に回復させる必要があります。特に網膜中心動脈閉塞症の場合、完全な視力回復が見込めるゴールデンタイムは、発症してから眼科で処置を受けるまで100分以内と考えてください。その後徐々に視力回復の可能性が低下し、24時間後だとほぼ視力を失うと思った方がよいでしょう。

具体的な処置として、眼を閉じた瞼の上から行う眼球マッサージ、血栓を溶かす血栓溶解剤網膜循環改善薬の使用、眼の中の水(房水)を抜いて眼圧を下げる方法などが選択されます。

網膜動脈閉塞症は視力低下などはみられても痛みはみられないことが多いため、緊急性はないと思われがちです。しかし、上記で紹介したように閉塞したタイプによって失明の危険性があり、視野の異常や視力の低下などが急激に起こった場合は早急に眼科を受診しましょう。いかに早く受診・治療を受けることができるかで、予後は大きく異なります。

また、動脈硬化や生活習慣病があれば、再発を防ぐためにもそれらの治療が必要になります。

まとめ

網膜動脈閉塞症は緊急を要する眼の病気の一つです。しかし、同じく動脈硬化が原因となる心筋梗塞などのような痛みを感じることはあまりないので、受診が遅れがちです。診断された頃には回復が見込めない場合も少なくありません。眼に急激な異常を感じたら、すぐ眼科を受診するようにしましょう。

発症を予防するために生活習慣を見直す機会も大切です。