がんに抗がん剤が徐々に効かなくなるという話は、耳にしたことがある方が多いのではないでしょうか。
抗がん剤が徐々に効かなくなる状態を、がんの抗がん剤耐性の獲得ということがあります。抗がん剤耐性については解明されていないことも非常に多く、現在幅広く活発に研究されています。
この記事では抗がん剤耐性獲得のメカニズムについて現在分かっていることについて解説していきます。
抗がん剤耐性とは
抗がん剤などの薬剤に対する耐性には、2つのパターンがあるといわれています。
一次耐性(自然耐性)
治療当初から薬剤が効きにくいことを指します。
二次耐性(獲得耐性)
初回の治療で使用した抗がん剤が有効であった場合であっても、その後に再び増殖したがんが薬に対する反応性を変えてしまうため、治療を重ねていくうちに徐々に効かなくなっていくことを指します。
ほとんどの治療では、がんが再び増殖し悪化してしまった場合、最初の治療とは異なる薬剤の種類や量などを決定して次の治療を行います。
がんが抗がん剤に耐性となるメカニズム
がんは、抗がん剤にさらされ続けるとこれまでと異なった性質を持つようになり、徐々に抗がん剤への耐性を獲得していきます。
抗がん剤への耐性を獲得するメカニズムには、大きく6つの種類があることが知られています。
がんが抗がん剤に耐性となるメカニズム
がんは、抗がん剤にさらされ続けるとこれまでと異なった性質を持つようになり、徐々に抗がん剤への耐性を獲得していきます。
抗がん剤への耐性を獲得するメカニズムには、大きく6つの種類のメカニズムが知られています。
1.薬が細胞の中へ入り込むことを抑制したり、薬の排出を促進したりする
抗がん剤の中には、細胞の中に入り込んでがんの増殖を抑えるものがあります。
このタイプの薬は細胞の中に入り込むときに、細胞膜にある物質を利用しています。がん細胞ではこの物質が減少していることがあり、細胞内の薬の濃度が下がります。
一方で薬の排出については、同じく細胞膜に薬物排出ポンプの役割を果たす物質があります。この物質に関わる遺伝子ががんによって異常に増えることで、調節が不十分となり、細胞内の薬の濃度が下がることになります。
これらの仕組みは結果として、細胞の中の薬の濃度が、がん細胞を攻撃するために最も有効な濃度を下回る環境を作ってしまいます。
2.薬の活性を邪魔する
抗がん剤の中には、活性(がんを攻撃する能力)のない状態で投与され、体内の酵素の働きによって活性を得る薬があります。
抗がん剤耐性のあるがんでは、この活性化に必要な酵素が働かず、薬を投与しても活性化した状態にならないことがあります。
また、がん細胞が薬の活性をなくすような酵素を出して、がん細胞に薬が効かなくなるようにすることもあります。
3.抗がん剤の標的となる分子が変化する
抗がん剤の中には、がんに特徴的な分子のみをターゲットにして作用する薬剤があります。
がん細胞はこの薬の攻撃を免れるために、ターゲットとなる分子の量を減らしたり分子の形を少し変えたりすることがあります。
4.がん細胞をとりまく環境が変化する
がん細胞の周りの環境は、通常の細胞をとりまく環境と大きく異なっています。このうち薬剤耐性に関わる特徴の一つとして、がん細胞の周囲には成熟した血管が少ない(未熟な血管が多くなる)ということが挙げられます。
抗がん剤は、血流を通してがん細胞へ辿り着きます。しかし成熟した血管が乏しいがんでは薬の到達が妨げられ、がん細胞へ十分な抗がん剤が行き届かなくなってしまいます。
5.抗がん剤によって変化したDNAを修復しようとする働きを利用して耐性を獲得する
抗がん剤の中には、がん細胞のDNAを傷つけ、がん細胞の分裂や増殖を防ぐものがあります。
この時、生体の通常の反応として、傷ついたDNAを直そうとするDNA修復が起こります。がん細胞のDNAは正常なものとは異なるため、このようなDNAに対する修復メカニズムが増強してしまうと、抗がん剤に対する反応性が変化してしまいます。
6.アポトーシスからがん細胞が守られるシステムが働く
アポトーシスとは細胞の死に方のうちの一つで、生体へ悪影響を及ぼすことない細胞の死に方です。アポトーシスは、細胞の均衡を保つために積極的に引き起こされます。
通常の生体内でがん化した細胞が発生すると、がん細胞が大きく成長する前にアポトーシスによって取り除かれています。また抗がん剤によってがん細胞がアポトーシスのように変化することが報告されています。
しかし、がんではがん細胞内のシグナル伝達(増殖などを促すための細胞内の指令)などが複雑に変化し、アポトーシスから逃れるようになります。
がんはこのようなメカニズムを利用して抗がん剤への耐性を獲得します。これらのメカニズムはそれぞれ単独で起こるのではなく、いくつかの変化が同時に起こっているといわれています。
これらに共通していることは、抗がん剤への反応性に関係するタンパク質のもととなる遺伝子の変化が原因となっていることです。これはがん細胞がもつ遺伝子が非常に不安定であることに由来しています。
まとめ
がんは体をむしばむものとはいえ一つの生き物であるため、生体内の攻撃から免れ生き残るためにあらゆる方法を駆使しています。
がんが抗がん剤への耐性を獲得するための変化のメカニズムは解明されつつあります。いくつもの変化が同時に発生し、抗がん剤が効果を発揮しにくい環境が作られてしまうのです。
これからはこのようながんの変化を打開する方法の検討が必要とされています。