がんに対してネガティブなイメージを持つ方は多いのではないでしょうか。しかし、がんを理解し、予防対策を行うとがんの発症率を下げることができたり、早期発見と適切な治療によりがんを克服することができたりします。この記事では、がんはいったい何者なのかを解説していきます。

目次

がんとは?

がんは、私たちの体の中の正常な細胞が何らかの原因で「がん化」することで生じます。がん化した細胞は、自分勝手にどんどん増えていき、がん細胞の塊を作ります。このがん細胞の塊はさらに、血液やリンパ液に乗って、全身のあらゆる臓器に転移していきます。

がん遺伝子とがん抑制遺伝子

人間の体は多くの細胞によって組み立てられており、細胞の数を増やして体を成長させたり、新しく細胞を作って古い細胞と入れ替わったりしています。

本来、正常な細胞では遺伝子のコピーを繰り返すことである程度規則的に細胞の数を増やしています。そして正常な細胞の数は、細胞を増殖させるアクセルとして機能するがん遺伝子や細胞の増殖を止めるブレーキとして機能するがん抑制遺伝子によって、必要以上に増えないように調節されています。この2つの遺伝子は、細胞を正常に保つ上でなくてはならない存在です。

がんはどのように発生するのか

塩基配列の変化によってがん化を引き起こすメカニズム

がん遺伝子やがん抑制遺伝子に傷がつくと、塩基の配列が変化し、遺伝子の機能が変わってしまいます。そのため、これらの遺伝子が細胞の増殖を調節できなくなり、がん化が起こります。このように遺伝子に傷がつき、遺伝子の働きが低下したり、機能しなくなったりすることを遺伝子変異と呼ぶことがあります。

がん遺伝子に傷がついた場合、必要以上にアクセルが踏まれた状態となり、細胞が勝手にどんどん増え続けます。一方、がん抑制遺伝子に傷がついた場合、ブレーキが働かなくなり、細胞の増殖を止められなくなります。

がん化に関わる遺伝子に一つの傷がついただけでは、がんはできません。また、私たちの体にはがんの発生を防ぐための、遺伝子変異を修理できるシステムがあります。しかしこのシステムを免れた遺伝子の傷が何年間にもわたって蓄積すると、正常な細胞が徐々にがん細胞へと変化していきます。いくつかの遺伝子変異の積み重ねで起こるがんを、多段階発がんと言います。

多段階発がんには、大きく4つの過程があると言われています。

1.イニシエーション

発がん物質により遺伝子に傷がつきます。この段階では、遺伝子の傷は修復酵素によって速やかに修理されます。イニシエーションは日常生活の中でも起こっていることです。

発がん物質には、放射線、紫外線、タバコ、化学物質(タール、アスベストほか)などがあります

2.プロモーション

イニシエーションを受けた細胞が、発がんを助長する物質によって、増殖を促進されます。この段階では、このような物質に晒されなくなると、異常な増殖を止めることができると言われています。

発がん物質がプロモーションを行うことがあります。

3.プログレッション

イニシエーション、プロモーションを経て増殖している細胞にさらに複数の遺伝子に傷が生じると、細胞が増える速度はより一層速くなります。この段階では、増殖が調節できなくなり、細胞は自分勝手に増殖を始めます。これによりがん細胞が生じます。

4.浸潤・転移

がん細胞がさらに悪性化します。

浸潤では、がん化した細胞が増えて、周囲の正常な組織を壊しながら、周りにしみこむように広がっていきます。

転移では、原発巣(がんが最初にできた場所)から、血流やリンパの流れに乗って、別の臓器に移動し、そこでがん細胞が増えていきます。

これまで説明してきた多段階発がんにおける遺伝子の異常は、遺伝子配列に傷がついて変化が起こるジェネティックな変化と呼ばれています。

多段階発がんのしくみ

遺伝子配列を変化させずにがん化を引き起こすメカニズム

近年注目が集まっているがん化に関わるもう一つのメカニズムがあります。それは、遺伝子配列を変化させることなく、DNAやDNAを構成しているヒストンというタンパク質が修飾(物質を作っている素材が科学的な変化を起こし、機能が変わってしまうこと)されるエピジェネティックな変化です。このような変化の例として、DNAメチル化、ヒストンの化学修飾などがあります。

私たちの体を正常に保つため、遺伝子の機能はエピジェネティックな変化によって制御されています。エピジェネティックな変化による制御が効かなくなると、がんの発生を調節する遺伝子の働きを阻害するため、がんの発生や多段階発がんのステップに影響すると言われています。

がんの発生:エピジェネティックな変異の仕組み

まとめ

がんとは、ジェネティックな変化やエピジェネティックな変化によって発生します。がんの発生メカニズムを知ると、予防法、検査や治療をより理解しやすくなります。

がんの発生についてさらに知りたい方は、がん対策情報センターの下記ページもあわせてご覧ください。

国立がん研究センターがん対策情報センター|人のがんにかかわる要因
国立がん研究センターがん対策情報センター|知っておきたいがんの基礎知識
国立がん研究センターがん対策情報センター|細胞ががん化する仕組み