神奈川県(2010年)・兵庫県(2012年)をはじめ、全国の都道府県で「受動喫煙防止条例」が施行されています。東京都でも2018年に、東京都受動喫煙防止条例が制定されました(全面施行は2020年の予定)。

このように日本各地で、自治体や医師会などから受動喫煙対策への取り組みが開始され、その関心が高まっています。ここでは、受動喫煙による有害物質の曝露で生じる健康被害の影響、禁煙への取り組みに関して解説します。

目次

受動喫煙とは

受動喫煙とは、自分の意思ではなく、近くの他人が吸うタバコの煙を吸ってしまうことを示します。

タバコは独特の刺激臭があるため、この臭いを嫌がる方は多いです。しかしそれ以上にタバコで問題となるのは、約200種類の有害物質(発がん性物質も含みます)が煙の中に含まれることで、これらの物質による身体の症状が懸念されます。

とくに、喫煙者が吸い込む「主流煙」よりも、タバコの先端から立ち上り吸い込む「副流煙」の方が、有害物質の濃度が5倍以上と高いために、受動喫煙の方が体の症状が起きやすいです。

タバコの煙に含まれる有害物質

タバコの3大有害物質は、ニコチン、タール、一酸化炭素です。前述の主流煙に含まれる濃度を1とすると、副流煙には、ニコチンは3倍程度、タールが3.4倍、一酸化炭素は4.7倍もの量が含まれているというデータがあります(厚生労働省『喫煙と健康』第2版より)。

ニコチンは末梢の血管を収縮させて、とくに収縮期血圧(いわゆる「上の血圧」)を上昇させる作用があります。また、しびれなどの神経毒性をもつ物質でもあります。ニコチンは依存性が高く、一度タバコを吸ってから時間が経過するといらだちや興奮などの神経症状(離脱症状)が出現する傾向があります。この依存性があるために、なかなか禁煙が実行できない現状があります。

タールには、肺がんなどを起こさせる「ベンゼン」などの発がん物質が多く含まれています。

一酸化炭素は、赤血球に含まれるヘモグロビンと酸素より優先的に結合するために、慢性的な酸素低下を引き起こします。すると、活動性が低下したり、疲労感が増加したりしていきます。このほか、血液中のコレステロールを酸化させて、脳卒中や心筋梗塞などの原因となる動脈硬化を悪化させる作用もあります。

タバコの副流煙には、粒子の大きさが2.5マイクロメートル以下であるPM2.5と呼ばれる粒子が大量に含まれています。PM2.5は中国大陸から飛来する大気汚染物質としても知られていますが、身近なところではタバコの煙にも含まれているのです。PM2.5は非常に細かな粒子であるため、肺の奥深くまで入り込んで喘息などの呼吸器症状を中心に健康被害を及ぼします。

この大気汚染物質の濃度は、環境省の基準では1日平均35ug/m3以下とされております。全面禁煙の建物内では22μg/m3程度ですが、喫煙可能である建物ではその3倍以上に上昇し、基準値を超えてしまうため、健康被害が懸念されます。

タバコの副流煙による子供への影響

赤ちゃんの寝顔

子供が受動喫煙によって受ける健康被害は、成人よりも深刻です。

まず、妊娠中の女性が喫煙した場合には、胎児がタバコの影響を受けます。出生体重は140g程度低くなり、子宮内での胎児発育遅延が起きる確率も2倍という報告があります。同時に、流産のリスク・早産のリスクも1.5倍から2倍に上昇します。

出生後の受動喫煙による健康被害としては、乳幼児突然死症候群(SIDS)があります。喫煙はこの乳幼児突然死症候群のリスクであり、両親が喫煙する場合はそのリスクを約10倍に上げるとされています。

このほかにも気管支喘息の発症原因となるほか、胎児の受動喫煙が成人での肥満・糖尿病やメタボリックシンドロームに関連することが指摘されております。近年では、計算障害・書字障害などの学力への懸念もあります。

タバコの副流煙による成人への影響

タバコを吸っている人は、慢性閉塞性呼吸器疾患(COPD)肺がんのリスクが高まることはご存じと思います。その一方で、タバコを吸わない同居者も肺がんのリスクが上昇することが指摘されています。タバコを吸わない女性の「腺がん」というタイプの肺がんは、同居者の喫煙による受動喫煙を避ければ37%程度抑制されるという報告もあります。

タバコの副流煙の影響で、早く症状が出やすいのは呼吸器疾患です。気管支炎・肺炎、気管支喘息などが肺がんよりも早期に発症する可能性があります。

また、前述のPM2.5と不整脈・心筋梗塞・狭心症などの疾患発症の関係も指摘されています。このため、子供のみならず、成人でも受動喫煙はできるだけ避けることが推奨されています。

 3次喫煙とは

以前に喫煙していた空間では、カーテンやソファなどにタバコの臭いが付着していると感じた方も多いと思います。この臭いは有害物資を含むタバコの煙の成分であり、受動喫煙と同じメカニズムで有害物質を吸い込むことがあります。

この状況のことを「三次喫煙」といい、受動喫煙と同じで周囲の方にも悪影響が懸念されます。

 受動喫煙による自覚症状とその予防

受動喫煙は、見た目や臭いがなければわかりにくい点が多いです。ただ、自分自身がある程度以上の濃度の喫煙による被害を受けている場合には、自覚症状がみられる場合があります。

症状としてみられるのはのどが痛い・咳が出る・頭痛・目のしみるような感覚などです。こうした初期の軽い症状を感じたら、その場所は避けることが重要です。

まとめ

受動喫煙は、子供では低体重児出産・乳幼児突然死症候群(SIDS)との関連が示唆されています。また、年齢を問わず気管支炎・肺炎、気管支喘息、肺がんや心筋梗塞などの疾患のリスクも上昇します。

受動喫煙による健康被害を予防する風潮は、近年強くなってきています。家族がなかなか禁煙できない場合には、病院の禁煙外来を訪ね、医師と一緒に禁煙に取り組むと良いでしょう。

胎児・子供はもちろん、周囲の方に「望まない受動喫煙」による健康被害を及ぼさないような配慮を行っていきましょう。