皆さんは、お酒に酔うとどうなりますか?よく笑うようになる、涙もろくなる、やたらと喋るようになる、すぐに眠くなってしまう…様々な変化が見られる方もいれば、特に何も変わらないという方もいることでしょう。

酔い方は、人によって様々です。しかし、もし「お酒を飲むと暴力をふるう」「飲酒によって記憶をなくしたことがある」場合、それは異常な状態の可能性があります。本記事では、「酔い」とは医学的にどういう状態なのか、異常な酔い方とはどのようなものかを紐解きます。

目次

どうしてお酒を飲むと“酔う”の?

お酒に「酔う」ことを、医学用語では「酩酊(めいてい)」と呼びます。酩酊は、端的にいうと一種の急性アルコール中毒です。

体内に摂取されたアルコールは、胃および小腸上部で吸収され、主に肝臓で分解されます。しかし、多量に摂取すると分解が間に合わないため、大半のアルコールは血液で脳や全身をめぐります。このとき、脳に運ばれたアルコールが脳を麻痺させることで起こるのが、「酩酊」です。

酔い方の分類(ビンダーの分類)

ビンダー(Binder, H)によれば、酔い方(酩酊)には、「単純酩酊」「異常酩酊」があることが知られています。さらに、「異常酩酊」は、「複雑酩酊」と「病的酩酊」に分類されます。

単純酩酊

お酒の量(正確には、血中アルコール濃度の上昇)にほぼ比例してみられる、一般的な酔い方です。

摂取したお酒の量が増えるに従い、血中アルコール濃度も徐々に上昇し、爽快、上機嫌な気分で多弁になったり、気が大きくなったり(軽度の脱抑制)、顔面が紅潮、からだのふらつきといった症状がみられます。ときには、自我感情が亢進し、感傷的(いわゆる泣き上戸)になる人もいます。

さらに酒量が進むと、注意・思考・判断力が低下し、ひどいふらつき(運動失調)や呂律が回らない(構音障害)、悪心・嘔吐や傾眠(軽い意識障害)がみられるようになります。

個人差はありますが、血中アルコール濃度が400mg/dL以上になると、昏睡(重い意識障害)から呼吸抑制となり、命にかかわる場合もあります。

酔いの程度によっては「人柄が変わる」ということもありますが、単純酩酊では明らかに異常な行動・症状がみられることはありません。

酔い方には個人差が大きく、身体的・精神的な症状の両方がみられます。

異常酩酊

飲酒量と必ずしも比例しない、正常でない酔い方を「異常酩酊」といいます。

異常酩酊は、さらに「複雑酩酊」と「病的酩酊」の2つにわかれます。

複雑酩酊

いわゆる「酒乱」「酒癖が悪い」と呼ばれているものは、「複雑酩酊」に相当します。気の小さな人が、急速にアルコールを摂取し、突然たがが外れたように、自分の欲情にかられて、著しい興奮、粗暴な行為をきたします。

言いかえれば、アルコールによって判断力が鈍ったり、衝動性が高まったりした状態であり、単純酩酊と比較して、「複雑酩酊」では興奮の強度・持続性が「量的」に増加しているといえるかもしれません。

些細なことがきっかけで不機嫌になりやすくなり(易刺激性)、一連の著しい興奮、粗暴な行為(その人からは、想像もつかない怪力を出すこともあります)は、比較的長時間にわたり持続することがあり、激情犯罪と関連があるといわれるゆえんです。

複雑酩酊の状態ではその人のコンプレックスが現れやすく、短絡的・暴発的となる一方、「ここはどこ」「今は何月何日の何時」といった基本的な状況把握(見当識)は保たれていることが多く、興奮・行為の記憶も断片的には残るようです。

このように、複雑酩酊では、著しい興奮、粗暴行為が引き起こされ、暴行・傷害事件につながることもありますが、その行為は状況からみて一応は理解可能な範囲のものであるといわれています。

病的酩酊

単純酩酊と比べたとき、酔い方そのものに「質的」な違いが際立つのが、「病的酩酊」です。

飲酒中に突如、周囲から見て理解が及ばないほどの激しい興奮や粗暴な行為が起こり、翌日そのことを覚えていない「健忘」を残すのが特徴です。すなわち、無目的な激しい興奮とともに強い意識障害を呈するのが特徴であるといわれています。

「病的酩酊」は、精神鑑定の被告に対する飲酒試験の結果から、飲酒量がそれほど大量でなくても起こることが知られています。

飲酒中のある時期から血中アルコール濃度が急峻な上昇を示し(200mg/dLまたはそれ以上に達するという)、突如おこる興奮の際、異常脳波(脳波上高度な徐派化)を認めます。体質的な酩酊の異常といえるかもしれません。

記憶をなくしたり、「ここはどこ」「今はいつ」「自分は今何をしているのか」が分からなくなったり(失見当識)します。一方、身体には麻痺などは見られません。

「病的酩酊」では、周囲から見ると理解できないような、急激な興奮を呈し、殺人、傷害といった、無目的な暴力・犯罪行為がみられることがあります。

異常酩酊を疑ったら

酔っ払ったぬいぐるみ

以上のような所見だけで、異常酩酊が生じるメカニズムははっきりとは分かっていません。ただし、次のような要素が引き金になるのではないかと考えられています。

  • 遺伝的な素因
  • アルコール依存症
  • 脳挫傷・脳梗塞などの脳の病気(器質性障害)
  • 極度の疲れ・衰弱状態

異常酩酊は、繰り返すことが多いといわれています。衝動的になったり、強い不安に陥ったりすることもあり、前述のように犯罪や自殺につながる危険性も決して低くありません。そのため、一度でも症状がみられたら断酒を始める必要があります。

もっとも、アルコールには依存性があるため、日頃から多量の飲酒習慣がある方が一人で断酒を行うのはたやすいことではありません。精神科を受診し、医師と一緒に断酒に取り組むことをおすすめします。

まとめ:お酒で取り返しがつかなくなる前に

気心の知れた仲間たちとワイワイ飲むのは、とても楽しいことです。あるいは、仕事後に家で行う晩酌が一番の幸せ、という方もいると思います。でも、アルコールによって異常酩酊の症状がみられることがあれば、もうお酒を飲むのはやめた方がよいと考えてください。

万が一酩酊中に犯罪や自殺に及んでしまったとしたら、取り返しのつかないことになります。記憶は飛んだとしても、犯した罪は消えません。家族や友人、仕事、自分の命など、大切なものを失わないためにも、アルコールの付き合い方を今一度考えてみませんか。