春は歓送迎会にお花見、夏は納涼、秋はハロウィン、冬はクリスマスや忘年会、新年会と日本は一年中飲み会のネタに事欠きません。上手に酔っぱらって楽しめると良いのですが、急性アルコール中毒で病院に搬送される人は東京消防庁管内だけでも毎年一万人以上います。しかも平成27年は15,474人であり、年々増加傾向にあります(東京消防庁より)。

最終的な飲酒量が同じでも、なぜ飲み方次第で急性アルコール中毒になってしまうのか、急性アルコールの怖さを医学的な視点で解説するとともに、混同しやすいアルコール依存症(慢性アルコール中毒)との違いも説明します。最後の方には飲ませた相手が急性アルコール中毒になってしまった場合の罰則にも触れていますので、飲む側、飲ませる側ともに参考にしてください。

目次

アルコール摂取から発症するメカニズム

通常摂取したアルコールは肝臓のアルコール脱水素酵素(ADH)によってアセトアルデヒトになります。しかし、一度に摂取するアルコール量が多すぎると肝臓で処理しきれず、アルコールがそのまま体内をめぐり脳に達します。

アルコールは脳の延髄を刺激し、脳に入ってくる情報を混乱させます。延髄は生命維持、運動機能など全ての神経をコントロールしている大事な神経で、麻痺すると自分の意思で体を動かすことができず、自力で立てなくなります。

さらに酔いが進み延髄が麻痺すると、心臓の拍動が弱まり血圧が低下し、また呼吸数が減り酸欠の原因になります。このような理由で、一度に大量のアルコールを摂取すると生命に危険が及ぶのです。

なぜイッキ飲みが危険といわれるのか

酔いの度合いは以下の1~4の基準があります。

  1. 微酔期:気分の高揚、手元が狂ってグラスを倒す
  2. 酩酊期:まっすぐに歩けない
  3. 泥酔期:立てない
  4. 昏睡期:意識の喪失、昏睡

飲酒して血中のアルコール濃度が上昇すると人は「酔っぱらった」という自覚が持てます。そのため、多くの人は2の酩酊期で飲酒量が減ります。

しかし、血中アルコール濃度が上昇するのは飲酒開始から30~60分後と時間がかかります。血中アルコール濃度が上昇する前に大量のアルコールが体内に入ると微酔期や酩酊期を飛ばして一気に泥酔期や昏睡期に進んでしまいます。これは「お酒に強い、弱い」は関係なく、誰にでも起こりうる可能性があります

急性アルコール中毒の症状

軽い場合は吐気、嘔吐、呼吸数の増加、歩行困難、意識の混濁が見られます。重くなると昏睡、失禁、呼吸困難、心停止になります。重い場合はもちろんですが、軽い場合でも中毒者を放置すると以下のように死亡する事例が多数発生しています。

  1. アルコールの摂取によって呼吸が弱くなり、酸欠を起こす
  2. 嘔吐したものが喉につまって窒息
  3. 判断能力欠如による事故…階段から転落、飲酒運転による交通事故、駅のホームから転落、野外で寝てしまい凍死、飲酒後入浴による溺死

酩酊期、泥酔期の人には、家まで送り届けたり、酔いが覚めるまで付き添ったりと周囲が必ず介助しましょう。

アルコール依存症との違い

飲酒-写真

自分の意思で飲酒をコントロールできなくなり、脅迫的に飲酒してしまう精神疾患をアルコール依存症と言います。放置もしくは治療による効果が現れず飲酒を続けてしまうと、いずれ肝硬変、肝がん、アルコール性心筋症、食道静脈瘤破裂となり徐々に死が近づいてきますが、根気強い治療で完治が可能です。以前は慢性アルコール中毒ともいわれていましたが、手の施しようがなく急死の危険がある急性アルコール中毒とは全く別物です。

お酒を飲ませる側には罰則規定があります

会社での歓送迎会、大学のサークルや部活での打ち上げで見かける「イッキ」コールですが、コールした人にも、それを見て手拍子した人にも罰則はあります。もちろんコールではなくても強要した時点で同罪です。

  1. お酒を無理やり飲ませる…強要罪で3年以下の懲役
  2. 無理やり飲ませた相手が急性アルコール中毒になる…傷害罪で10年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料
  3. 無理やり飲ませた相手が死亡…傷害致死罪で2年以上の有期懲役
  4. 無理やり飲ませる勢いや雰囲気を助けた人…傷害現場助勢罪で1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料
  5. 未成年者にお酒を飲ませる…未成年者の中毒症状有無に関わらず、未成年者飲酒禁止法違反で飲ませた周囲の大人及び提供した店は50万円以下の罰金

5番の未成年者飲酒禁止法については平成13年に罰則が科料(千円以上一万円以下)から50万円以下の罰金へと変更されました。未成年は体の臓器が未熟でアルコール分解能力が低いばかりでなく、アルコールによる脳細胞の破壊が進み、脳の発達が遅れてしまいます久里浜医療センターより)。未成年者の飲酒、特にイッキ飲みはとても危険なのです。

まとめ

飲み会の席で、緊張を取り除くためにお酒は十分な効果を発揮しますが、飲む側、飲ませる側も節度をもちましょう。イッキ飲みは死を招く危険行為であるという情報をお酒の同席者と共有し、絶対に止めましょう。