秋までの間は、肌の露出度も高く転んで擦りむいたりすることもあるでしょう。日常的に料理をつくるときには切り傷の危険もありますよね。

そんなとき、オキシドールなどの消毒液で消毒を毎日して、傷を乾燥させ、大きめな傷はガーゼで覆ったり…といった対処をする方が多いのではないでしょうか。

ガーゼを剥がすときにかさぶたがくっついて傷が再度開放して連日痛い思いをした経験もあるかと思います。

今回は、擦り傷・切り傷の対処法として「湿潤療法(モイストヒーリング)」についてご紹介したいと思います。

目次

湿潤療法(モイストヒーリング)って何?

湿潤療法(モイストヒーリング)とは、傷口をしっかり覆って乾燥を防ぎ、体液を保つことで人間が本来持っている自然治癒力を引き出す治療法です。

この方法のほうが、従来の傷を乾かす方法よりも痛みが軽く、傷跡も残りにくいだけでなく、治りも早いといわれています。

傷ができると、やや澄んだ浸出液が出てきますよね。実はこの体液が傷を治そうとしていたのです。

傷が大きければたくさんの液が出てきて、ガーゼを当てて吸わせていくというのが従来の方法でした。しかし、今はこの方法は主流ではありません。

この体液には傷を早く綺麗に治そうとする力があるのです。

湿潤療法(モイストヒーリング)は、この体液を利用し、人間が本来備えている自然治癒力が発揮されるように手助けする治療法です。

詳しくは、「擦り傷・切り傷、正しい処置を知っていますか?」の記事もご覧ください。

モイストヒーリングのメリット

1.傷が早く治る

傷を密封して湿潤状態を作り出し、体液に含まれる細胞増殖因子をうまく利用することで、かさぶたを作らずに早く傷を治すことができます。

2.痛みが少ない

傷の部位を乾かないようにフタをして密封するため、乾燥による傷への刺激が小さく、痛みが少なくなります。

3.傷跡が残りにくい

傷の部位をドレッシング材(創傷被覆材、傷を覆う道具)でフタをして密封するため、湿気が保たれてかさぶたができずに体液が働きやすくなります。皮膚組織の再生がスムーズに行われ、傷跡が残りにくくなります。

4.感染の心配が少ない

絆創膏などの交換の回数が少なく済むので、傷口の閉鎖が保たれ、細菌が入るリスクを抑えることができます。

モイストヒーリングの3つの注意点

1.傷口を水道水でよく洗浄(消毒薬は使いません!)

まず傷口を水道水で洗浄します。傷口の異物(石や砂、ごみなど)をしっかりと洗い流しましょう。

傷口に異物や細菌が残っていると感染(膿んできたり)の原因となりますので、しっかりと丁寧に洗って下さい。この際、消毒薬や塗り薬は使いません

2.傷口の処理

洗浄後水気を拭き取り、出血しているような場合は、清潔なガーゼやハンカチなどで傷口を押さえて止血を行って下さい。

このとき、傷口に繊維が残らないようにご注意ください。

3.傷口の保護(傷を乾かさないようにする)

傷の乾燥を防ぐために、体液が乾かないうちに市販のドレッシング材である湿潤療法用絆創膏などを貼って傷を保護してください。

貼った部分を1分ほど手で押さえて温めることで患部を密着させなじませます。使いはじめは早めに貼りかえ、その後は2~3日貼ったままにします。

モイストヒーリングをしてはいけない5つのケース

1.すでに傷口が乾燥してかさぶたができている

かさぶたは皮膚の表面で体液(浸出液)が乾いてしまっている状態です。そのため、モイストヒーリングを行うことはできません。

2.化膿して膿が出ている

異物が残っていると、傷口が化膿してきます。それだけ最初の水での洗浄は大切です。化膿した状態でフタをするのは危険です。

病院(外科・形成外科・皮膚科など。※整形外科、美容整形外科ではありません)へ行って抗生物質による治療などを受けましょう。

3.糖尿病や血行障害の治療を受けている人

一般的に、糖尿病の人は感染症にかかりやすく傷が悪化しやすいといわれています。

糖尿病の人は皮膚に栄養障害が生じて乾燥してしまうため、細菌に対する免疫力・抵抗力や組織の再生力が低下してしまうのです。

また、高血糖状態では白血球が細菌に立ち向かいにくくなるためより感染しやすくなります。また、合併症の神経障害によって痛みを感じずに感染症に気づくのが遅れ、傷を悪化させてしまうこともあります。

病院(可能ならば主治医のいる病院の外科・形成外科)へ行って適切な処置を受ける方がよいでしょう。

4.傷口に入った異物を取り除くのが困難

異物は創部が化膿する原因になります。早急に処置してもらえるように病院(外科・形成外科)へ行きましょう。

5.咬み傷や、出血が止まらない時

かまれた傷の場合は、予期せぬ細菌に汚染されている可能性があります。そのため、洗って綺麗に見えたとしても後で思わぬ事態になりかねません。

また、2~3分止血しても出血が止まらない場合は、縫合も必要な場合があり、失血量が増えると危険なため、病院(外科・形成外科)へ行きましょう。

化膿の4つサイン!すぐ中止して病院へ

男性と犬

最低2~3日に一回は傷を観察し、感染を示す症状がないか確認すると共に貼り替えをしましょう。滲出液が多く、体液が漏れて剥がれてくるようであれば、その都度交換します。

モイストヒーリングによる滲出液のジクジクか、感染して化膿(炎症)しているかは傷の状態を見るとわかります。

  1. 傷の周りが赤く腫れている
  2. 熱を持っている
  3. 痛みがある
  4. 膿が出ている

これらが、化膿を示す4つのサインです。上記の症状が見られた場合は傷が化膿しているため、抗生物質による治療が必要です。感染の症状がある場合にはモイストヒーリングを中止して、病院に行きましょう。

家庭でモイストヒーリングできる傷って?

上に挙げたモイストヒーリングができない場合を除いて、傷のタイプで分類すると以下のようになります。

家庭でできる

  • 軽いすり傷やきり傷、かき傷(ひっかき傷)
  • あかぎれ・さかむけ
  • 靴擦れ
  • 軽度のやけど(ただし、やけどの深さを判断するのは難しいため、分かりにくければ医師に相談するのが望ましい)

今すぐ病院へ

  • 大きな傷・深い傷(縫合の必要がある)
  • かみ傷、刺し傷、裂け傷、汚染された場所で怪我をした(破傷風の危険もある)
  • 範囲が広いやけど、深いやけど(早急な対応が必要)
  • 低温やけど(見た目以上に進行している場合がある)
  • にきび・湿疹・発赤・虫さされ・皮膚炎など皮膚の疾患
  • 目の周囲・粘膜の傷

市販のモイストヒーリングができる商品

以上の注意事項に気を配れば、市販のモイストヒーリングができる商品で傷を治すことができます。

救急絆創膏の中で、体液を保持する素材の絆創膏がそれに当たります。

具体的な商品名として、キズパワーパッドケアリーヴ 治す力といったものがあります。

ドラッグストアやコンビニで手に入るので気軽に購入できますね。

まとめ

傷の処置方法もどんどん新しい方法へと変わっています。昔は、擦りむいたりしたらともかく速く乾かすための薬が使われました。

筆者はよく転んで擦りむいて両手両足に瘢痕があります。傷薬を薄く塗られすぎたまま、傷に直接ガーゼを当てられ、連日病院に通ったものの、ガーゼを剥がすときの激痛に加えて傷の開放と消毒による激痛とのダブル。

やっとかさぶたになったと思ったら、大きなしみになってしまいました。今もケロイド状の瘢痕がいくつも残っています。

この新しい治療法が普及してきたのは、まだほんの10年位のものです。ご自身の怪我、お子様の怪我、お孫さんの怪我などに正しく対処して、綺麗に早く治しましょう。