色覚異常(色覚多様性)の中には後天性のものもありますが、ほとんどは先天性(生まれつき)です。他人からするとその見え方に驚くかも知れませんが、本人にとってはその見え方が当たり前なので指摘されるまで気付かない場合も多くあります。程度は様々で、多くは日常生活に支障はきたしませんが、一方で、見え方が他の人と違うことで子供のときにトラブルに巻き込まれたり、困った状況に遭遇したりする場合もあります。この色覚多様性は治療できるのでしょうか?日常生活で気をつけたいことなども含めて紹介していきます。
色覚異常(多様性)の細かい種類などに関しては、「決して珍しくない色覚異常。なぜ起こる?どう見える?」をご覧ください。
※2017年9月、日本遺伝学会と日本人類遺伝学会は色覚異常を「色覚多様性」に改訂する提案をしました。

目次

色覚検査の現状

小学生のころに色覚検査を行ったことがある人も多いのではないでしょうか。以前は行うように義務付けられていましたが、「色盲」という言葉から差別やいじめの対象となったり、「色覚異常はおかしいことだ」という誤解や偏見が生じたりしました。そういった問題から2002年の学校保健安全法改訂に伴い、色覚検査は必須項目から削除され任意検査となりました。

しかし学校での色覚検査がなくなったことで、程度の軽い色覚多様性ではそのまま気付かずに成長し、大きくなって就職する時に初めて気付いたなどという問題も出てきました。警察官や調理師など一部の仕事によっては色覚検査を必要とする職種もあり、色覚検査で自分の色覚を把握することが必要なケースはあります。

また、色の識別が異なることで学校の先生から「ふざけている」と勘違いされるなどのトラブルが起こることもありました。様々な事情を踏まえ、プライバシーに配慮した上で積極的に学校側が保護者に色覚検査について周知するよう、学校保健安全法は改正されました。この改正は2016年に施行されています。

紹介してきたように、色覚検査を巡ってはこれまでに様々な意見、また動きがありました。

色覚異常(色覚多様性)は治るの?!

淡いパステルカラーを背景にした花

目の病気などが原因の後天性色覚多様性の場合、その原因となった病気の治療を行うことで症状が改善する場合があります。しかし、先天性色覚多様性の場合は遺伝子の問題となるので現在の医療では治療して改善させることはできません

検査をして色覚多様性だと分かっても治療ができないので基本的には放置するしかありません。ただ、日常生活で注意し、周りの理解を得ることで普通の人と同じ生活を送ることはできます。

日常生活での注意点

色覚多様性は色が分からず白黒の世界を生きているわけではありません。一人ひとりが自分の色覚を持っており、色覚多様性のない人よりも色の識別が少し苦手なだけです。どの色が見えにくいのかなど、自分の色覚多様性がどの程度なのかを自分でしっかりと理解しておくことは、日常生活を送る上で助けとなります。また、周囲の人が色覚多様性について理解することも大切です。

以下のような状況などは、色の識別を誤らせる要因となり得ます。

  • 対象物が小さい
  • 鮮やかでない色
  • 暗い場所
  • 短時間での識別

これらを避けるために学校では黒板に赤、緑、青の濃いチョークを使うことは避ける、グラフには淡い色は使わない、色以外に模様を変えることによって識別させやすくする、線は太く書くことなどが行われています。

また、「決して珍しくない色覚異常。なぜ起こる?どう見える?」にも挙げてある、間違えやすい組み合わせなども配慮して、カラーユニバーサルデザインが行われ、教科書のグラフや公共施設、会社のディスプレーが変更され、色覚多様性の方にも情報が伝わりやすくなりつつあります。

しかし、日常生活ではこれらが、全てに配慮されているわけではありません。信号機の点灯や自動車の運転時には夜の信号の点滅、前の車のブレーキランプが点灯しているのが分かりにくい、熟したトマトとまだ緑のトマトが区別できないといったことが起こることがあります(京都府眼科医会より)。周囲の人はこれらを理解する必要がありますが、次の項で述べる通り、色彩を必要とする職種では不利になることがあります。また自動車免許は取得できますが、特に夜の運転時には注意が必要になることがあります。

色覚異常(色覚多様性)と就職

色覚多様性があってもほとんど就職に問題はありません。厚生労働省は企業に対し、就職時に根拠のない採用制限などを行わないよう指導しています。

しかし、一方では微妙な色の違いや色彩感覚を必要とする職種では就職できない場合もあります。また一部学校などでも色覚検査の結果によっては入学を制限される所もあります。就職や進学時に色覚多様性が問題となったり、不利になることが考えられたりするものをいくつか挙げます。

  • 自衛隊
  • 警察関係
  • 航空
  • 鉄道
  • 消防
  • 調理師
  • デザイナー

近年の色覚多様性の社会認知の広がりによって、以前と比べて職業選択もだいぶ緩和されるようになりました。しかしながらまだまだ制限されるものもあるので、色覚多様性の人は就職・進学時などの際に募集要項などをしっかりと把握して、大丈夫か調べておく必要があるでしょう。

まとめ

人それぞれ様々な長所、短所があるように、色覚多様性は確かに短所の一つですが、頻度は男性の20人に1人と、しばしばみられるものであり、特別なものではありません。日常生活で支障をきたすことは多くはありません。色覚多様性の方は自分自身の弱点を知ることによって、支障を回避し、周囲の人も色覚多様性について理解して、もし、色覚多様性の方が困っている状況になった時は、本人は躊躇せずに周囲に聞き、周囲は当たり前にサポートすることが望まれます。