がんは病気の進行度によってステージ分類され、そのステージごとに大まかな治療法が決められています。食道がんの場合はどのように分類され、どのような治療が行われるのでしょうか。

食道がんの治療法を、医師・川本 徹先生による監修記事で詳しく解説します。

目次

食道がんの進行度(ステージ)

身体の消化器官のひとつである食道に発生する食道がんは、初期は無症状です。しかし進行とともに食事の摂取が困難となり、肺や大動脈などの周辺臓器、さらにはリンパ節を経由して全身への転移を来す病気です。胃食道造影検査(X線検査)内視鏡検査(胃カメラ)などによって病気の進行度を診断します。

食道がんの症状や検査方法については、記事「食道がんってどんな病気?初期症状と検査方法とは」をご参照ください。

食道がんのステージは、がんの広がり(深達度)と転移の範囲によってステージ0期~Ⅳ期に分類されます。

食道がんのステージ

旭川医科大学 消化器・血液腫瘍制御内科 食道癌の進行度 を参考に
いしゃまち作成

ただし、がんが小さくてもリンパ節転移が1つでもあると、無い状態と比較して進行度が1ランク上がってしまいます。

*リンパ節転移:1〜4群リンパ節をがんのある場所からどのくらい離れているかによって分類し、近いものからN1・N2・N3・N4と呼びます。

 

0期

がんが粘膜にとどまり、ほかの臓器やリンパ節への転移がない状態です。早期がん、初期がんと呼ばれます。

Ⅰ期

がんが粘膜下層まで浸潤しているが、ほかの臓器やリンパ節転移がない状態です。または、近くのリンパ節転移はあるが、がんが粘膜にとどまっている状態をさします。

Ⅱ期

がんが固有筋層(食道の壁にある層)を超えて進行し、食道の外側にわずかに出ている状態です。または、食道付近のリンパ節への転移が認められる状態をさします。

Ⅲ期

がんが固有筋層を超えて進行し、食道の外側に明らかに出ている状態です。または、食道から少し離れたリンパ節への転移が認められる状態をさします。

Ⅳ期

食道周囲の臓器や、遠く離れたリンパ節まで転移が認められる状態です。または、胸膜や腹膜、別の臓器(肝臓や脳、骨など)への転移が認められる状態をさします。

食道がんのステージ別の治療方法とは

手術

0期の治療

 

内視鏡的粘膜切除術

食道がんが粘膜にとどまる0期では、内視鏡で病変部の切除を行います。

胃カメラの検査同様に、鎮静剤と喉の麻酔を使用し、口から内視鏡を挿入して治療を行います。麻酔が効いているので、痛みはほとんどありません。

がんの下に生理食塩水などを注入してがんを浮き上がらせ、ループ状のワイヤーをかけて切除する内視鏡的粘膜切除術(EMRと、高周波のメスでがんを少しずつ切り取る内視鏡的粘膜下層剥離術(ESDがあります。

治療後は、切除した部分からの出血や穿孔(穴が開いてしまうこと)の合併症のリスクがあるため、23間は絶食で点滴治療が行われます。病状や術後の経過によりますが、おおむね1週間~10日間の入院が必要です。

また、治療後に切除部が瘢痕化し食道が狭くなる可能性がある場合は、放射線治療が行われることがあります。

Ⅰ期の治療

 

外科的手術(開胸開腹手術)

食道がんが粘膜下層まで浸潤しているⅠ期では、開胸または開腹による外科的手術が行われます。がんができている部分と周辺のリンパ節も切除します。食道を取り去った後は、胃を引き上げ食べ物が通る道を再建します。

外科的手術の場合は、病状や術後の経過によりますが、およそ3週間~1か月の入院が必要です。

鏡視下手術

近年広く行われるようになった胸腔鏡や腹腔鏡による手術は、従来の開胸・開腹手術に対し創が小さく回復が早い順調に経過すれば術後1014日で退院可能)という利点があります。しかし、病変や病状によってはこの手術法がとれないこともあります。

食道がんの手術では、食道近くにある反回神経を損傷すると声が枯れたり、嚥下がしにくくなったりする場合があります。また、胃で食道を再建するため、本来ある食べ物の逆流を防止する働きが失われることから、むせや誤嚥をしやすくなります。このように、食道癌は術後呼吸器合併症のリスクが高いといえます。

術後は、これらの合併症に対するリハビリも行いながら社会復帰を目指します。

化学放射線療法(ケモラジ)

抗がん剤による化学療法と放射線療法を併用して行う治療法で、化学療法(ケモセラピー)放射線療法(ラジオセラピー)の頭部分をとり、通称「ケモラジ」と呼ばれています。

フルオロウラシル(5-FU)やシスプラチンなどの抗がん剤の投与と放射線治療(X線照射)*を同時に行うことで、単独の治療法よりも高い治療効果が得られます。

放射線化学療法の副作用には、食欲不振・口内炎・食道炎・白血球の減少による感染症などがあり、副作用もまた単独の治療法よりも強いとされています。

*高度先進医療として、より線量効率の高い陽子線照射もあります。

Ⅱ期Ⅲ期の治療

 

外科的手術+化学放射線療法

Ⅰ期のがんに比べ、食道がんが広がりリンパ節転移が認められるⅡ期・Ⅲ期のがんには開胸・開腹による外科的手術が治療の基本となります。また、転移や再発の防止のため、術前や術後に化学放射線療法が併用される場合があります。

病状や年齢、体力などによって手術に耐えられないと判断される場合は、化学放射線療法または化学療法・放射線療法それぞれ単独での治療が選択されることもあります。

Ⅳ期の治療

 

化学放射線療法

食道がんが食道周囲の臓器や肝臓、脳、骨などへ転移していたり、リンパ節転移が広がっていたりする場合には手術による治療は行われず、化学放射線療法またはどちらかの単独治療が行われます。

いずれの治療においても根治を目指すことは難しいため、症状の緩和や軽減を目的に行われる治療です。それでも食道狭窄が強い場合は、食道ステントというプラスチックあるいは金属製の筒を挿入し、唾液や食物の通過を確保する処置が行われることもあります。

緩和療法

食道がんの進行と他の臓器への転移により根治的な治療が不可能となった時期には、苦痛の緩和を目的とした緩和療法が行われます。

鎮痛剤や麻薬によるがん性疼痛の緩和、肺転移や胸膜播種(がんが胸膜に転移し胸水が溜まること)による心不全や呼吸不全の症状などの苦痛を緩和し、QOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)を向上させるための治療です。

食道がんに限らず、最期をどのように過ごすかは、人の一生において大きな課題です。

終末期における在宅医療という一つの選択肢については、「【在宅医療について考える】あなたとあなたの最愛の人の最期は病院?それとも自宅?」をご参照ください。

まとめ

食道がんの治療は、病気のステージによって異なります。治療法の選択には、医師の意見と患者さん自身の希望をふまえ、充分に納得することが必要です。

治療や治療後の生活に関する不安など、気になることがあれば必ず主治医に相談しましょう。