身体の消化器官のひとつである食道にできる悪性腫瘍が食道がんです。食道がんはどのような症状で発症し、検査や診断が行われるのでしょうか?また、食道がんになりやすい危険因子にはどのようなものがあるのでしょうか?食道がんについて、医師・川本 徹先生による監修記事で詳しく解説します。

目次

食道の働きと構造について

食道は咽頭と胃を繋ぐ25cm程度の筒状の臓器で、その壁は内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、外膜の4つの層に分かれています。食道は食べたものを胃へ送る働きをしており、食道の出口には胃液や胃内容物の逆流を防止する構造がとられています。

食道がんの初期症状

 

無症状

食道がんの多くは初期には自覚症状がありません

食道の辺りがしみるような感覚

食事をした際に熱いものがしみたりチクチクとする違和感があったりする場合があります。

食道のあたりがつかえるような感覚

少し病状が進行すると、固いものが飲み込みにくくなったり、つかえたりするような感じを覚えます。

また胸やけげっぷなど、逆流性食道炎の症状がみられることがあります。

食道がんの進行による症状

食道がんが進行すると周囲の臓器への浸潤が起こることから、血痰などの呼吸器症状や声のかすれ、胸部~背部にかけての痛みなどの症状が出てきます。

また、食事摂取が困難になることから体重の減少が見られます。

食道がんの種類

 

扁平上皮がん

食道の内腔の表面は扁平上皮(皮膚の細胞と同種)によって被われています。扁平上皮がんはその表面から発生するがんで、日本人の食道がんの多くは扁平上皮がんといわれています。

腺がん

腺上皮と呼ばれる組織から発生するがんを腺がんといい、食道では扁平上皮に紛れた腺上皮から発生します。欧米人にはこのタイプの食道がんが多いとされています。

食道がんの危険因子

タバコとお酒

扁平上皮がんの場合

扁平上皮がんの危険因子としては、煙草とアルコールが挙げられます。お酒を飲みながら煙草を吸うとそのリスクはさらに高くなるといわれています。

特に、アルコール度数の高いお酒(泡盛やウオッカなど)や熱いものを習慣的に摂取すると、食道粘膜が炎症をおこし、食道がんの発症のリスクが高くなります。

腺がんの場合

一方、腺がんでは、逆流性食道炎や肥満との関連が指摘されています。

逆流性食道炎については、こちらの記事「その胸焼け、逆流性食道炎かもしれません。逆流性食道炎とその予防、治療方法とは?」をご参照ください。

食道がんの検査

胃食道造影検査(X線検査)

胃食道造影検査は、消化器疾患の検査または健診でも広く行われている検査です。

バリウムなどの造影剤を使用し、食道にできた腫瘍の場所や大きさ、また腫瘍により食道の内腔がどの程度狭くなっているかを確認します。しかしながら、早期癌の診断は苦手としています。

内視鏡検査(胃カメラ)

内視鏡検査は細いファイバー状にしたカメラを口や鼻から食道~胃内に挿入し、内部を直接観察する検査です。

早期の食道がんは通常の肉眼観察では発見することが難しいため、色素法という検査を同時に行います。色素法とはヨード製剤(ルゴール液)を食道粘膜面に散布することで、ヨードが扁平上皮細胞に豊富に含まれているグリコーゲン顆粒と反応して茶褐色に染まる現象を利用したものです。上皮が病的変化を起こすと細胞内のグリコーゲン顆粒が減少し染色性が低下するため、病的上皮が白っぽくなります。がんや前がん病変ではより白くなり、「不染帯」として識別されます。不染帯から細胞を採取し、顕微鏡で最終的に診断します。

また、最近では血液中のヘモグロビンに吸収されやすい波長の光で粘膜面を照らし、毛細血管の集まっている場所を検出する内視鏡が実用化されています。がんの部分は血管増生が強いため、この光を照らすとがんの部分が浮き出てくるという仕組みです。ただし、現段階では毛細血管の増生の乏しい前がん病変などの検出感度が色素法と比較して弱いとされています。このように腫瘍の表面の状態(隆起や色調など)を確認することにより、どの程度がんが浸潤しているかをある程度推測することができます。

進行食道がんの疑いがある場合は、病巣の全体像の把握のため、先の造影検査が行われます。

また、がんの治療方針を決定するため、がんの進展度をみる目的で以下の精密検査が行われます。

超音波内視鏡検査(EUS)

超音波内視鏡検査は通常内視鏡検査と同じようにカメラを食道内に挿入し、カメラの先の超音波装置によって粘膜の内部の状態を詳しく確認する検査です。

通常の内視鏡検査よりはっきりとがんの浸潤度を確認することができます。

腫瘍マーカー

血液検査により腫瘍マーカーをチェックします。がんがあるとその種類に応じた腫瘍マーカーが異常値を示します。肺がんの場合はSCC(扁平上皮がん関連抗原)CEA(がん胎児性抗原)をチェックしますが、腫瘍マーカーはがんの早期には変化しないことが多く、がんが進行していても異常値を示さないこともあります。

CTMRI腹部超音波検査(腹部エコー)

食道がんが進行すると周辺のリンパ節や肺、大動脈、肝臓などへ浸潤や転移をおこします。

CTやMRI、腹部超音波検査は、こうした他臓器へのがんの進展状態を見るために行われる検査です。

食道がんはこれらの検査により診断され、進行度(病期/ステージ)に応じた治療が行われます。

食道がんの進行度

食道がんはがんの広がり(深達度)転移の範囲によってステージ0~Ⅳに分類され、Ⅳがもっとも進行した状態を表します。

食道がんの進行度

食道がんのステージ

※ただし、がんが小さくてもリンパ節転移が1つでもあると、無い状態と比較して進行度が1ランク上がってしまいます。

*リンパ節転移

1〜4群リンパ節をがんのある場所からどのくらい離れているかによって分類し、近いものからN1・N2・N3・N4と呼びます。

旭川医科大学 消化器・血液腫瘍制御内科 食道癌の進行度を参考にいしゃまち作成

まとめ

食道がんは初期には症状がないことが多く、自覚症状だけでは胃炎や胃潰瘍などの病気と区別できない場合があります。検査は一般的な造影検査や内視鏡検査から行われますので、気になる症状がある場合は、医療機関を受診しましょう。

また、食道がんと診断された場合は、その進行度によって治療が行われます。食道がんの進行度と治療に関しては、「ステージ別に見る、食道がんの治療法とは」をご参照ください。