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胆石症(胆嚢結石)に対する治療には内科的治療と外科的治療があり、外科的治療では胆嚢を袋ごと切除する胆嚢摘出術を行います。

以前は、開腹(お腹を開ける手術)で胆嚢摘出術を行っていました。しかし、1990年頃より腹腔鏡(カメラ)を使った小さな傷の胆嚢摘出術が行われるようになりました。この腹腔鏡下胆嚢摘出術は、開腹手術と比べると傷が小さいために痛みが少なく、また入院期間も短くなり早く社会復帰できるという利点があり、現在では標準術式となっています。

通常の腹腔鏡下胆嚢摘出術では、お腹の4ヶ所に小さな穴を開けて手術を行います。しかし最近では、体への負担をさらに軽くすることを目的とした穴を1つしか開けない「単孔式(たんこうしき)腹腔鏡下胆嚢摘出術」を行う医療機関が増えてきました

いったいどんな手術なのでしょうか?

今回、単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術について解説します。

単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術とは?

1997年、イタリアの医師により、傷が1か所の胆嚢摘出術が世界で初めて報告されました。以後、単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術(別名、SILS(シルス)あるいはTANKO(タンコー))は徐々に広まり、日本でも2009年頃より急速に普及していきました。

単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術では、通常おへそに1~2cm程度の切開をし、ここから腹腔鏡(カメラ)や細い手術器機を挿入し、胆嚢を剥離・切除します。安全のために手術中に胆管造影検査を行う施設もあります。摘出した胆嚢は、おへその穴から体外に取り出します。通常、皮膚は抜糸の必要がない吸収される糸で閉じます(皮下埋没縫合)。

単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術の最大の利点は、従来の手術に比べて傷が少なく、美容面で優れていることです。おへその傷は、数ヶ月もするとほとんど目立たなくなります。別名、「傷のない胆嚢摘出術(scarless cholecystectomy)」とも呼ばれているほどです。
腹腔鏡下胆嚢摘出術の傷の比較-図解
術後の経過についてですが、翌日(あるいは当日)から歩いたり、食事を再開したりすることが可能で、(施設によって異なりますが)通常2~3日後には退院できます。日帰り手術を行っている施設もあります。

退院後の生活についてですが、術後はしばらく(1ヶ月程度)重い荷物などをかかえることや、激しい運動は控えていただきますが、基本的には普段通りの生活が可能です。食事についても特に注意することはありません。定期通院も必要ありません。

単孔式腹腔鏡下胆嚢提出術は安全か?

術中・術後の合併症としては、主に以下のものがあります。

  • 出血
  • 胆管損傷(胆管に傷がつくこと)、胆汁ろう(胆汁が漏れること)
  • 傷の出血感染(ばい菌によって化膿すること)
  • 腹腔内膿瘍(膿が溜まる)
  • 胆嚢摘出後症候群(胆嚢を切除することで痛みが悪化すること)
  • 腹壁瘢痕(ふくへきはんこん)ヘルニア(傷のところの腹壁が弱くなり、外側へ膨らむ合併症)

これまで、単孔式手術は一つの穴からするためとても難しく、合併症が増えるのではないかと心配する声がありました。

しかし、これまでに報告されている多くのランダム化比較試験(患者を2つの治療グループに無作為(ランダム)に分ける信頼度の高い臨床試験)では、通常の腹腔鏡下胆嚢提出術と単孔式腹腔鏡下胆嚢提出術のあいだで合併症の発生率に有意な差は認めていません

また、360例の単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術の合併症について平均1年以上追跡調査した結果、全体の合併症率は5%以下(重大な合併症である胆管損傷は0.56%)と比較的少ないことが分りました(*1)。

したがって、しっかりとトレーニングを受けた内視鏡手術専門の外科医が行う施設では、安全な手術であると考えられます

ただし、術後しばらく経ってから発生する腹壁瘢痕ヘルニアが多いとの報告もあり、今後も長期にわたる検討が必要と考えられています。

どんな人が適応になるのか?

現在のところ、以下の胆嚢良性疾患が単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術の適応となると考えられます。

  • 胆石症(炎症のないもの、または炎症が軽度のもの)
  • 胆嚢ポリープ胆嚢腺筋症(せんきんしょう)

ただし、高度の肥満の人、過去に手術(特に胃など上腹部の手術)を受けた人では単孔式での手術が難しいことが予想されるため、施設によっては適応外としているところもあります。

また、手術が難しいとされる急性胆嚢炎(胆石によって胆嚢に急性の炎症が起こった状態)に対しても単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術が可能な場合もありますが、多くの施設では通常の腹腔鏡下胆嚢摘出術または開腹による手術が選択されています。

最後に

産業医科大学においては、急性胆嚢炎に対してまずは単孔式手術にてアプローチし、必要に応じて小さな穴(5mm程度)を追加する方針としております。多くの症例で1つ(単孔)または2つの穴で安全に手術ができました(*2)。

以上、傷が一つの単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術は、美容面で優れた手術であり、今後ますます普及していくことが予想されます。