急性膵炎とは、何らかの原因で膵臓からしみ出した消化酵素によって膵臓自体や周りの組織が消化されてしまうもので、重症の場合には全身の臓器障害によって死亡することもある怖い病気です。

その原因としては、ご存じのように飲酒(アルコール)が最も多く、いわゆる「アルコール性急性膵炎」が有名です。

しかし、急性膵炎の原因は他にもあり、実は身近な病気によって引き起こされることもあるのです。それは、胆石です。

今回は、意外に知られていない胆石性急性膵炎について解説します。

目次

急性膵炎について

急性膵炎は膵臓に急激に炎症が起こる病気で、一時的に膵臓が腫れるだけの軽症のものから、膵臓や周囲の組織が壊死(くさること)したり、出血したりする重症例まで様々です。

炎症が他の臓器にまで波及する重症例(重症急性膵炎)では多臓器不全(たぞうきふぜん)を合併することがあり、死亡率は約10%とされています。

 

急性膵炎は男性が女性の約2倍で、男性に多い病気です。

発症時の平均年齢は約60歳であり、男性では50代、女性では70代が最も多くなっています。また加齢とともに死亡率が増加するといわれています。

 

急性膵炎の原因として最も多いのが飲酒(アルコール性)で37%、次に多いのが胆石で24%です。ちなみに、男性ではアルコール性が46%と最も多く、胆石(20%)の2倍以上であるのに対し、女性ではアルコール性(10%)は低く、逆に胆石(40%)の頻度が最も高くなっています(37%)。

高齢者では胆石が多いことより、今後胆石性膵炎の頻度が高まることが予想されます。

胆石性急性膵炎とは?

急性膵炎のうち、胆石が原因のものを胆石性急性膵炎と呼びます。

胆石は胆のうだけではなく、胆管(肝臓から腸へ繋がる胆汁の流れる管)の中にもできます。また、胆のうでできた胆石が胆管へ移動することもあります。

 

胆石がどうやって急性膵炎を引き起こすかについて詳しくは分っていませんが、胆管の結石(多くは小さな結石)が胆汁と膵液の出口である十二指腸乳頭(じゅうにしちょうにゅうとう)にはまり込んだり(嵌頓:かんとん)、ひっかかったりすることで膵炎を発症すると考えられています。

胆石性急性膵炎の症状

他の急性膵炎と同様、最も多い症状は上腹部痛(みぞおちの痛み)で、しばしば背中にも広がります。痛みの程度は軽い痛みから、じっとしていられないほどの激痛までさまざまです。痛みは食事の後(とくに脂っこいものを食べた後)に起こることや、前ぶれなく突然起こることもあります。

そのほかの症状としては、吐き気、嘔吐、腹部膨満感(ふくぶぼうまんかん)、食欲不振、発熱などがあります。また胆石が胆管をふさいでいる場合には黄疸(おうだん)が出ることもあります。

 

胆石性急性膵炎では、突然痛みがとれたり、症状がなくなったりすることもあります。これは、十二指腸乳頭にはまっていた胆管結石がはずれ、腸の中に落ちてしまったためと考えられます。この場合、落下した結石は便として排出されるので心配要りませんが、胆管に結石が残っている場合には、同様の症状がくり返し起こる可能性もあります。

 

また、次第に症状が悪化して、意識障害ショック状態(顔面蒼白、血圧低下など)を起こすこともあります(重症化)。

胆石性急性膵炎の診断

医師と女性患者-写真

血液検査

血液検査で膵酵素である血清アミラーゼ値が上昇していることが多く、また胆石性急性膵炎の場合、肝機能障害や胆汁うっ滞(胆汁の流れがよどむこと)によってAST、ALT、ALPg-GTPや、ビリルビン値などが上昇することがあります。 

CT

急性膵炎の診断に役に立ち、合併症や重症度判定には必須の検査です。ただ、胆石が原因かどうかの鑑別は難しいことも多いです。

MRCP(MR胆管膵管撮影)

MRIによって胆管と膵管(膵液の流れる管)を同時に描出できる検査です。胆管内の結石の診断に有用なことがありますが、小さな結石の場合、描出率が低いと報告されています。

ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)

内視鏡を十二指腸乳頭部まで進め、胆管や膵管を直接造影する検査で、胆管結石の診断に役立ちます。

十二指腸乳頭部を直接観察できるため、乳頭部にはまり込んだ結石を確認できる場合もあります。さらに、診断から引き続き治療へ移行することができるため、胆石性急性膵炎が疑われる場合には緊急で行われます。

胆石性急性膵炎の治療

保存的治療

膵炎が軽症の場合、絶食や点滴だけで保存的に治療することがあります。胆石性膵炎では、原因となる胆石が十二指腸乳頭部を通過してしまえば自然に治まることがあり、この場合には内視鏡などの治療が必要ないこともあります。

薬物治療

急性膵炎や感染症の治療として、たんぱく分解酵素阻害薬抗生剤の投与を行います。

内視鏡的治療

胆石性急性膵炎の場合、内視鏡にて十二指腸乳頭部を切開し、胆石を腸に出やすくしたり、はまった胆管結石を除去したりします。また、胆汁や膵液の流れをよくするために、ステントというチューブを胆管や膵管に挿入することもあります。

外科的治療

急性膵炎によって膵臓や周りの組織が壊死に陥り、化膿した場合、手術によって壊死物質を取りのぞいたり、チューブによってお腹の外に膿を誘導する手術(ドレナージ術)を行ったりすることがあります。

また、胆のうに結石が残っている場合には膵炎をくり返す可能性もあるため、膵炎が落ち着いてから胆のう摘出を行うことが望ましいとされています。

まとめ

胆石性膵炎とは、胆石が原因となって急性膵炎を引き起こす病気であり、急性膵炎の約4分の1にみられます。おもな症状は急激な上腹部痛および背部痛で、自然に軽快することもあります。血液検査、CT、ERCP検査などで診断します。治療には保存的治療、薬物治療、内視鏡的治療と外科的治療があります。高齢化社会に伴い、今後は胆石性膵炎の頻度が高まることが予想されます。