歳を重ねるにつれ、尿にまつわる悩みを抱える方も多いのではないでしょうか。なかでも60代~70代の高齢男性に多くみられるのは前立腺肥大症で、日中や夜間に何度もトイレに行くなど排尿に関するトラブルが代表的な症状です。放置して悪化してしまうと日常生活に支障をきたすこともあります。今回は前立腺肥大症の原因や症状、治療法について紹介していきます。

目次

前立腺肥大症とは

男性生殖器

尿は膀胱に溜まった後、尿道を通じて排出されます。尿道は膀胱の下にある前立腺という、クルミや栗のような形と大きさをした男性特有の臓器の中を通っています。

前立腺肥大症は文字通り前立腺が腫れて大きくなること(腫大)です。何らかの原因で大きくなると、膀胱や尿道が圧迫されてしまい、尿が出にくかったり、一度に尿が排出されないため頻尿がみられたりします(下部尿路症状)

前立腺肥大症は通常、前立腺腫大や下部尿路症状、膀胱出口閉塞がみられます。しかし、下部尿路症状や膀胱出口閉塞は前立腺腫大と関係なく起こることもあります。

原因

肥大化する原因として加齢が挙げられますが、その他にも男性ホルモン(テストステロン)や遺伝、肥満や高血圧などの関連も指摘されています。

前立腺肥大症の注意したい症状

最初は尿に勢いがなくなり、一度に出る尿の量が減るので必然的にトイレに行く回数が増える頻尿などがみられます。尿路の閉塞により膀胱の平滑筋の肥大を誘発し、過活動膀胱を併発するようになり、これも頻尿や尿意切迫感(急に尿意を催す)に繋がります。進行するとトイレにいってもすっきりしない残尿感や急な尿閉(尿が出なくなる)がみられ、さらに尿意を覚えなかったり、尿がダラダラ漏れてしまったりするようになります。

前立腺肥大症の診断には「I-PSS(国際前立腺症状スコア)」という質問表が用いられます。排尿に関して最近1カ月間の状況を尋ね、その回答を数値化して症状の重さを判断するというものです。I-PSSの質問項目には前立腺肥大症の決め手となる症状が記されており、注意すべき症状を知る上での参考になります。I-PSSの要点をまとめると次のようになります。

  • 排尿後に尿が残っている感じがある。
  • 排尿後2時間以内にもう一度トイレに行かねばならないことがある。
  • 排尿途中に尿が途切れることがある。
  • 排尿をがまんするのがつらいことがある。
  • 尿の勢いが弱いことがある。
  • 排尿開始時にいきむ必要がある
  • 床に就いてから朝起きるまでに排尿に起きる回数が多い

合併症

過活動膀胱は前立腺肥大症と合併することが珍しくありません。また前立腺肥大症が悪化した場合、血尿膀胱結石尿路感染症にも注意が必要です。さらに進行すると、腎臓で作られた尿が膀胱まで届かなくなり、水腎症をきたし、最終的には腎不全となり、血液透析まで必要になることもあります。

前立腺肥大症の検査・診断

前立腺肥大症は上記で紹介したI-PSSの他、尿の勢い・量・時間などを調べる尿流測定尿検査、前立腺に触れる直腸診残尿測定超音波検査血液検査(血清PSA検査)などがあります。

頻尿の症状が出ている患者さんは自身の排尿記録を取るケースもあります。理想は1週間ですが、1~3日ほどの場合もあります。

前立腺がんは進行すると前立腺肥大症と似たような症状が表れるので、鑑別するには血清PSA検査が重要です。

治療の基本は薬物療法

薬を飲む高齢者

前立腺肥大症の治療方法は、大きく分けると薬物療法・手術療法の2つあります。基本的に最初から手術は行わず、薬を使って改善を図ります。

排尿トラブルは、前立腺の筋肉が緊張・収縮し尿道を圧迫するために起きます。α1遮断薬を服用すると筋肉の緊張が和らぎ、尿を溜める膀胱の活動が抑制され、膀胱頸部を広がりやすくして尿の勢いを増やします。頻尿の軽減を期待できますが、副作用として立ちくらみ(起立性低血圧)やめまい、射精障害などが表れる場合があります。また白内障の手術をするときにも注意が必要です。射精障害の頻度はα1遮断薬の種類によって異なります。気になる方は医師にご相談ください。

下部尿路症状にはPDE5阻害薬が選択される場合もあります。勃起障害の治療薬と同成分のため、勃起障害を有する患者さんにはこちらにも有効となることもあります。ただ、この薬は狭心症などで内服している患者さんは内服できないこともあります。

また男性ホルモンのうちテストステロンから変換されるジヒドロテストステロンが前立腺肥大症の進行に関与することがわかっています。ジヒドロテストステロンは前立腺内の5α還元酵素と呼ばれる酵素でテストステロンから作られます。そのためジヒドロテストステロンを消すために5α還元酵素阻害薬を内服することがあります。この薬は長期間飲む必要があります。ジヒドロテストステロンは陰茎の海綿体でも必要なものなので、この薬剤の長期内服で勃起障害が起こることがあります。

サプリメントの効果は?

前立腺肥大症の症状緩和を謳うサプリメントについてですが、成分によって有効性を示すデータはあります。しかし、効果は一定しておらず、どのくらい飲めば良いのかはっきり分かっていません。量を誤るとかえって症状が悪化するケースもあるので、自己判断で服用することはおすすめできません。

手術療法を検討すべきケースは?

以下の場合は手術療法が行われます。その中で尿閉が起きている場合は、まず尿道からカテーテルを入れて人工的に排尿させる処置が行われます。

  • 薬で改善しない場合
  • 膀胱に溜まった尿閉がみられる場合
  • 膀胱に尿が溜まることで感染症が生じていたり、腎機能障害の危険があったりする場合

主な手術療法

手術には前立腺を切除・蒸散させる方法と、熱によって組織を固めたり性質を変えたりする方法などがありますが、前立腺の切除・蒸散の方が主流となっています。手術方法をいくつか紹介します。どの手術療法ができるかは医療機関によって異なるため、事前にどのような方法で行われるのか確認しておくと良いでしょう。

経尿道的前立腺切除術(TURP

手術を行う場合、最も一般的な方法です。前立腺の体積が30~80mlだった場合に適しています。

腹部を切開することなく、内視鏡を尿道の出口から挿入し、膀胱の手前にある前立腺の突出した箇所を電気メスで切除します。これによって尿道が圧迫から解放されるので前立腺肥大症の症状が改善します。

手術中に使う灌流液と電極の違いによって、Monopolar(モノポーラ)TURPとBipolar(バイポーラ)TURPに分けられます。Monopolar TURPは低ナトリウム血症が起こるリスクはありますが、Bipolar TURPは合併症を防ぐために生理食塩水を灌流液として使っています。術後は尿道にカテーテルを1~3日留置しますが、手術翌日から自由に行動でき、入院期間は6~10日程度です。

前立腺の体積が30mlより少ない場合は経尿道的前立腺切開術(TUIP)という手術法が採用されることもあります。

被膜下前立腺腺腫核出術(開放手術)

その名の通り、下腹部を切り開いて大きくなった前立腺を切り取ります。手術中の合併症(出血や敗血症など)にかかるリスクはありますが、前立腺の体積が80mlより大きい場合や膀胱結石を合併している場合などに有効です。

尿道カテーテルを6~10日ほど留置する必要があります。

ホルミウムレーザー前立腺核出術(HoLEP

尿道内に内視鏡を入れ、遠赤外線のレーザー(ホルミウムレーザー)で突出した箇所を完全にくりぬきます。前立腺の体積が大きくても対応できます。低侵襲で出血は少ないことが特徴です。カテーテルは1.5~4日ほど留置し、入院期間は2.7~5日ほどです。

医師の技術が求められる方法です。

532nmレーザー光選択的前立腺蒸散術(PVP

尿道内に入れた内視鏡の下から高い出力のレーザーを照射し、大きくなった前立腺を蒸散させます。低侵襲で出血量が少なく、体積が大きな前立腺にも対応できます。カテーテルの留置期間は1.8日ほど、入院期間は5.5日ほどと報告されています。

まとめ

前立腺肥大症は、ほとんどの高齢男性にみられるありふれた病気です。基本的には薬物療法で治療していきますが、排尿障害が重く、感染症や腎機能障害、尿が出なくなる尿閉などリスクが高いときは手術を選択します。現在では、内視鏡下でレーザーを使った体への負担が少ない治療が行われています。治療を受ける際は、どのような治療が受けられるかを医療機関に確認し、十分に納得してから進めましょう。