健康な時は多くの人が自分の尿量のことなんて気にしてないと思いますが、何かのきっかけで尿が出ない、尿の量が少ないと思ったら不安になるのではないでしょうか。

尿が出ないと一言で言ってもその原因となる病気は様々で、中には命に関わるものもあります。今回は、尿が出ない時に起こっている体の変化と病気について、医師・吉田 啓先生による監修記事でまとめたいと思います。

目次

尿が出ないとは?

私たちが飲んだ水分は、必要なものは体内に吸収され、それ以外は尿、皮膚や口腔内からの蒸散(蒸発)便となって体の外に出ていきます。水分を摂りすぎるとトイレに行く回数が増えて尿量が多いと感じ、逆に暑い夏には飲んでいる割には尿があまり出ないと感じるのではないでしょうか。

このように人間は、自然に尿量を調節して体の恒常性を保とうとしています。これに関与している重要な臓器が腎臓です。

尿が出ない原因として考えられるのは、この腎臓の機能が悪くなっているか、腎臓で作られた尿が出にくくなっているかのどちらかです。

医学的には、尿が出ないことを乏尿と呼び、その原因を腎臓の手前にあるか、腎臓自体にあるか、腎臓の後に続く臓器にあるかで腎前性、腎性、腎後性と大きく分けています。

では、腎臓はどのような働きをしているのでしょうか。

尿を作る腎臓ってどんな働きをしているの?

尿を作るのに重要な腎臓は、私たちの腰の辺りに左右に2個ついています。炎症や出血などがない限り、普段は痛みなども感じない静かな臓器です。

しかし、その働きはとても重要なものばかりです。尿を作るだけでなく、体に不要な老廃物を排出したり、カリウムやリンなどの体に必要な電解質の出入りも調整しています。他にも体の中の他の臓器が正常に動くためにpHを中性に保つようにしたり、貧血にならないようにエリスロポエチンというホルモンを分泌したり、骨を強くするために必要なビタミンDの活性化にも一役買っています。

尿が出なくなるという症状を感じた時には、これらの他の働きも落ちている可能性があるので体にとっては非常に危険です。

では、どのような病気で尿が出にくくなるか見ていきましょう。

尿が出なくなる病気とは?

診察中の猫

最初に説明したように、尿が出なくなる原因は腎臓の手前か腎臓自体か、腎臓の後に続く臓器にあるかで腎前性、腎性、腎後性と大きく3つに分けています。

1.腎前性(腎臓の手前に原因がある)の病気

腎臓の前には太い血管がつながっており、私たちが飲んだ水分や食べ物を食べた後の老廃物(尿毒素)が腎臓に流れ込みます。もし何らかの理由でこの血管の流れが悪くなると、水分が腎臓に流れにくくなり尿が出なくなります。

原因としては、例えば脱水、出血、感染症などが挙げられます。脱水は夏に汗をかきすぎたり、胃腸炎で嘔吐や下痢を繰り返したりした後に十分な水分を摂っていないと起こり、体の中の水分が減り血液の流れが悪くなります。

また、体の中の血管を大きく損傷する病気(交通事故や大動脈破裂など)により大出血を起こすと、同じように腎臓への血流が十分に流れなくなります。

さらに、感染症で全身状態が悪くなると全身に細菌が回り血圧が下がってしまうことがあり(敗血症ショック)、この時にも尿が出づらくなります。

心不全肝不全などの他臓器の病気の時も腎臓に流れる血液の量が減ってしまい、尿が出にくくなります。

2.腎性(腎臓自体に原因がある)の病気

腎臓自体が、腎炎膠原病、長期にわたる高血圧糖尿病により傷んでしまうと、尿を作ることができなくなるので尿が出づらくなります。

腎臓が長期に痛めつけられると末期腎不全という状態になり、腎臓がほとんど機能しなくなります。腎臓がほとんど機能しなくなる少し手前だと、逆に薄い尿がたくさん出ることがあります。これは腎臓の尿を濃縮できる能力が低下していることを意味しておりますが、尿が出なくなっている時はその時期も越えた末期的な状態と考えられています。

また、腎臓に悪影響を与える可能性がある造影剤や解熱鎮痛剤、抗菌薬などの薬剤の使用も腎臓を傷つけてしまい尿が出づらくなる原因になります。これらの副作用は全員に出るわけではないですが、使用前に注意しておきましょう。

3.腎後性(腎臓の下にある臓器に原因がある)の病気

腎臓の下に続いている臓器とは、尿管、膀胱、尿道、男性の場合は前立腺です。

これらの臓器に結石や腫瘍など、何か尿が出る通り道を塞ぐものがあると尿が出づらくなります。尿が出ないだけでなく、膀胱に尿が溜まってしまい下腹部の張りを感じることがあります。尿管結石、膀胱腫瘍、前立腺肥大症などが、これらの原因になります。

まとめ

尿が出ない原因は、腎前性、腎性、腎後性と分けられ様々な病気が考えられます。尿が出ないという症状は、医師にとっても緊急性のある病気があると捉えられているようです。尿が出ないと自分で感じる時には、早めにお医者さんに行ってみてもらうようにしましょう。