オキシトシンとは、「愛情ホルモン」「幸せホルモン」などと呼ばれ、近年急速に注目されている、体内で合成されるホルモンの一種です。

もともとは子宮収縮作用により陣痛を促したり、母乳の分泌を促す目的で使われていました。一方で男女を問わず脳内にも多くのオキシトシン受容体が分布していることが知られています。

近年では、愛情や信頼の形成に関与していることが分かり、自閉症スペクトラム障害(ASD)にも症状の安定をもたらす効果があるとして研究が進められています。今回は自閉症スペクトラム障害と、その新たな治療となる可能性のあるオキシトシンの特徴や効果について解説します。

目次

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自閉症スペクトラム障害(ASD)とは?


自閉症スペクトラム障害とは、発達障害の一つの分類で、社会性やコミュニケーションに困難を抱える障害です。 以前は自閉症アスペルガー症候群などと別々の障害とされていましたが、現在は一つの連続した症状として分類されています。

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自閉症スペクトラム障害の特徴

自閉症スペクトラム障害では、主に「対人関係の障害」「コミュニケーションの障害」と「興味・関心における症状」の3つがあります。

1.対人関係の障害

目線を合わせない同年代の子供と遊ばずに一人でいることを好む、などの症状が見られます。

2.コミュニケーションの障害

言葉の発達に遅れがある自分の好きな言葉を繰り返す、などの症状が現れます。

3.興味関心における症状

同じ行動を繰り返す、など行動に極端なこだわりが見られます。

 

自閉症スペクトラム障害は人口の100人に1人以上の確率で見られる代表的な発達障害です。

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自閉症スペクトラム障害の治療法は?

現在、自閉症に対する薬物療法は、基本的には対症療法となっています。つまり、自閉症そのものを治療するのではなく、パニックが起きたときや不安、不眠、抑うつ気分になったときの向精神薬、てんかん発作が起きたときの抗けいれん薬などが用いられています。

その中で自閉症スペクトラム障害に効く可能性があると、最近注目されているのがオキシトシンです。

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オキシトシンの働き

オキシトシンは人の体内、脳の視床下部で合成され、2つの働き方をするホルモンです。

1.ホルモンとしての働き

オキシトシンは血管を通して脳以外の全身に働きます。血液中に分泌され、分娩時に子宮を収縮させ分娩を促したり、授乳時に母乳の分泌を促進させる働きをします。

2.神経伝達物質としての働き

オキシトシンはホルモンの他に、脳内で神経伝達物質として働きます。この働きにより、対人関係や社会性に影響を与え、「他者への信頼」「共感性」「寛大さ」などが増加するといった研究報告がなされています。

このような作用から、オキシトシンの自閉症スペクトラム障害の患者への研究が進められています。

オキシトシンは本当に自閉症に効くの?


オキシトシンの効果は、近年の研究でも実証されています。

2015年、東京大学付属病院による発表で、オキシトシン点鼻剤により対人コミュニケーション障害の改善が世界で初めて認められました。

この研究では、自閉症スペクトラム障害の成人男性40名に対し、オキシトシン点鼻スプレーを1回投与したことで、表情や声色を活用して相手の有効性を判断する行動が増えるなど、症状の改善が見られたとされています。

この研究では、東京大学、金沢大学、名古屋大学、福井大学の共同研究チームにより現在も大規模な臨床試験が行われています。

期待の高まるオキシトシン、今後の展望は?

今回発表された研究などから、オキシトシンの自閉症スペクトラム障害に対する治療法の開発が進むことが期待されます。

また、自閉症スペクトラム障害だけではなく、うつ病や社会不安障害といった他の精神障害への効果も明らかにされていくのではないでしょうか。

しかし、現在はまだ不明確なことも多く、問題点もあります。

1.女性や子供に使える?

オキシトシンは既に陣痛促進剤などとして医療現場で使われているので、人体に対する安全性は確立されています。しかし子宮収縮作用があることから、東京大学付属病院の研究では、女性や子供に対しては行われませんでした。女性や子供に対しても安全性を確かめる必要があります。

2.投与方法は?

オキシトシンは体内での分解が早いため、錠剤ではなくスプレー式で鼻から吸い込むものが一般的です。しかし、この投与方法では脳内にはほとんど移行せず、効果が薄いといわれています。

まとめ

オキシトシンはこれまでの陣痛促進剤や母乳を促すといった目的だけでなく、脳に働きかけ愛情や信頼に関わることから、自閉症スペクトラム障害の治療薬になるのではと考えられています。

しかし、まだわかっていないことも多いので、これからの動向に注目していきましょう。