最近「大人の発達障害」という言葉が聞かれるようになりました。成人してから発達障害であると診断されるもので、子どもの発達障害に比べて専門の医療機関も少なく、未開拓の分野といえます。自覚症状があまりなく、見過ごされてしまうケースも少なくありませんが、できるだけ早く気づくことが大切です。ここでは大人の発達障害について解説します。

目次

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大人の発達障害とその症状

大人の発達障害とは?

発達障害は、生まれき脳の機能の一部に障害があるために生じます。いくつかのタイプがあり、自閉症、アスペルガー症候群、注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害などが代表的です。なかでも成人が発達障害と診断される場合を、「大人の発達障害」といいます。

これまで発達障害の研究や治療は、幼児や小中学生に重点が置かれていました。しかし、近年では、大人の発達障害も増加する傾向にあります。

大人になるまで発達障害が見過ごされる理由としては、学業においてむしろ優秀であったり、問題が表面化しないように自ら努力するなどして、本人も周囲も発達障害であると気付かないことが挙げられます。

大人の発達障害の症状とは?

大人の発達障害_仕事のミス

発達障害を持つ人は、コミュニケーションをとったり、良好な人間関係を築くことが苦手です。また、思いつきで行動しやすく、うっかりミスが多い場合もあります。そのため、就職してから対人関係がうまくいかなくなったり、仕事のミスが続いたりすることに悩み、問題が表面化するケースが多く見られます。不安症状やうつ症状を合併することもあります。

代表的な症状として、以下のものが挙げられます。

  • 周囲とのコミュニケーションがうまくいかない
  • その場の雰囲気が読めない
  • 忘れ物やミスが多い
  • 仕事や家事の段取りが悪い
  • 衝動的に行動してしまう
  • 書類や机の整理ができない
  • 時間や期限が守れない
  • 約束や用事をよく忘れてしまう
  • 落ち着きがなくそわそわしている

発達障害の場合、「ときどき」ではなく「いつも」こうした問題が起きており、そのために日常生活に支障が出ています。発達障害は生まれながらの特徴ですので、こうした問題が、大人になってからではなく、幼少期からずっと続いていることが特徴です。

発達障害の種類を知ろう

発達障害は「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」(発達障害者支援法における定義 第二条より)と定義されています。

症状が低年齢に発現していたにも関わらず、何らかの理由で診断されずに青年期を迎えた場合、大人の発達障害となります。

発達障害では、症状がいくつかのタイプにまたがって現れる場合が多く、障害の程度や年齢、環境などによっても症状が異なります。同じ発達障害でも、一人ひとりの症状は多様であることを理解しておきましょう。

自閉症

自閉症は、「言葉の発達の遅れ」「コミュニケーションの障害」「対人関係・社会性の障害」「パターン化した行動、こだわり」などが特徴で、3歳までには何らかの症状が見られます。自閉症と同じような障害があっても症状が軽い場合は、自閉症スペクトラムと呼ばれることがあります。

自閉症の人々の半数以上は知的障害を伴います。約3割は知能には遅れがない高機能自閉症と呼ばれる人々で、学業成績が良い場合もありますが、人との会話は苦手です。

アスペルガー症候群

アスペルガー症候群は広い意味での「自閉症」に含まれる一つのタイプで、「対人関係・社会性の障害」「パターン化した行動、興味・関心のかたより」「コミュニケーションの障害」が特徴です(診断基準によっては、コミュニケーションの障害を含めない場合もあります)。自閉症のように、幼児期に言葉の発達の遅れがないため、障害があることが分かりにくく、大人になってから診断されるケースが多く見られます。

ちなみに、自閉症とアスペルガー症候群は、広汎性発達障害に含まれます。広汎性発達障害とは、社会性やコミュニケーション能力にまつわる発達障害のことです。
※現在、アメリカの精神医学会が提唱するDSMという診断分類では、「自閉症」と「アスペルガー障害」の2つを合わせて「自閉スペクトラム障害」という診断名になっています。
しかし、WHOの診断分類であるICD、及び発達障害者支援法では「アスペルガー症候群」の名前が残っています。
従って、ここでは「自閉症」「アスペルガー症候群」に分けて説明しました。

注意欠陥多動性障害

注意欠陥・多動性障害(ADHD:Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)は、「集中できない(不注意)」「じっとしていられない(多動・多弁)」「考えるよりも先に動く(衝動的な行動)」などが特徴です。症状はたいてい7歳以前に現われます。多動や不注意といった様子が目立つのは小中学生ごろですが、思春期以降はこういった症状が目立たなくなる場合もあります。

学習障害

学習障害(LD:Learning DisordersまたはLearning Disabilities)とは、知的発達に関して全般的には遅れはないものの、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するなどの特定の能力を学んだり、行ったりすることに著しい困難を示す状態をいいます。

上記のほかにも、突然起こる素早い運動や発声を特徴とするチック障害や、言葉を円滑に話せない吃音なども、発達障害に含まれます。

もしかしたら、大人の発達障害かも?

大人の発達障害の人々は、幼い頃に支援やサポートを受ける機会がなく、様々な困難や生きづらさのなかで成長しています。それでも、発達障害であるとの自覚がなかったり、多少の自覚はあっても、「今さら何をしても変わらない」と諦めてしまいがちです。しかし、発達障害の症状は改善することができます。発達障害を克服するためには、以下の3つが重要になります。

  1. 本人が発達障害であることに気づいて、受け入れる
  2. 適切な治療を受ける
  3. 周囲が適切な支援やサポートを行う

この3つが揃うことで、本人も周囲も安心して症状の改善に取り組むことができます。なかでも、本人が発達障害を受け入れるということが、困難な場合も多いと思います。その場合は、家族や周りの友人が発達障害についての理解を深め、本人が気付けるように働きかける関わりが必要になります。

大人の発達障害を専門に扱う医療機関はまだ少数ですが、大人の発達障害外来を設置している病院もあります。また、精神科・心療内科などに問い合わせて、大人の発達障害について受診が可能かどうか聞いてみるとよいでしょう。

まとめ

大人の発達障害と一口にいっても様々なタイプがあり、一人ひとり症状が多様であることが分かりましたね。今まであなたが感じてきた生きづらさや、周囲とうまくやっていけない悩みは、単に性格上の問題ではなく、発達障害によるものかもしれません。これを機会に、適切なサポートが受けらるよう、勇気を出してみてはいかがでしょうか。