立ち上がったり、お腹に力が入ったりしたとき、足の付け根が膨らむことはありませんか?それは鼠径(そけい)ヘルニアかも知れません。

皆さんは鼠径ヘルニアをご存じですか?
鼠径ヘルニア(別名「脱腸(だっちょう)」)は、足の付け根の部分が膨らむ状態で、子供だけではなく、中高年に多くみられる病気です。
初期には痛みなどの症状がないことも多く、また横になったらもとに戻るため、病院を受診しない人も多いようです。

しかし、大人の鼠径ヘルニアは自然に治ることはありません。また腸が挟まって緊急手術が必要となったり、最悪の場合、腸が腐ったり穴が開いて腹膜炎を起こすこともあるのです。
今回は、鼠径ヘルニアの症状と治療についてお話しします。

目次

鼠径ヘルニアとは?

サラリーマン-写真

鼠径ヘルニアとは、鼠径部(足の付け根)が膨らむ病気です。これは、お腹の壁を支えていた組織に隙間ができ、腹膜(ふくまく)を通して腸や脂肪の膜などのお腹の中のものが隙間から出てくるために起こります。膨らみの原因は腸のことが多いですが(このため「脱腸」と呼ばれていました)、腸以外(脂肪の膜など)のこともあります。

中年以降の男性に多く、加齢に伴って筋膜(きんまく)などお腹を支える組織が弱くなることが原因と考えられています。また、立ち仕事の人、をよくする人、喘息の人、便秘の人に多くみられます。肥満や喫煙も鼠径ヘルニアの危険因子と考えられています。

また、鼠径部より少し足の方にある大腿管(だいたいかん)というところから腸などが出てくる場合もあり、これを大腿ヘルニアといいます。

鼠径ヘルニアの症状

立ち上がったときや、お腹に力が入ったとき、鼠径部にやわらかい膨らみが出現します。膨らみは初期には小さく、また痛みもさほどありません。横になったり、手で押し込んだりすると元に戻り、膨らみはなくなります。しかし、放置しておくと徐々に大きくなり、痛みや下腹部の不快感を伴うようになります。

また、ヘルニアがはまり込んだまま元に戻らなくなることがあり、これを嵌頓(かんとん)といいます。腸が嵌頓した場合、腸閉塞(腸が詰まり、腸の内容物が先に進まない状態)や腸の壊死(血液が流れなくなって組織が腐ること)が起こることもあり、嘔吐腹痛が出現します。このような場合には緊急手術が必要となることもありますので早期の受診(外科)をお勧めします。

中年以降の女性によくみられる大腿ヘルニアは腸などが出っ張ったままになる嵌頓が多いため、注意が必要です。

鼠径ヘルニアの治療法

手術中の医師-写真

鼠径ヘルニアは自然に治ることはないため、痛みがあったり、膨らみが押さえてもなかなか戻らなかったりする場合には手術による治療が必要です。

従来の鼠径ヘルニアの手術では、弱くなった筋膜を縫い合わせる手術が行われていました。しかし術後に傷のところがつっぱって痛かったり、縫い合わせた筋膜が裂けて再発したりする恐れもありました。

現在では人工膜のメッシュを用いてヘルニアの穴をふさいだり、シートを被せて補強したりする手術(メッシュプラグ法ダイレクトクーゲル法クーゲル法など)が主流となっています。また、鼠径部を切開せずに、小さな穴を数カ所お腹に開けてカメラをみながらヘルニアを内側から補強する腹腔鏡(ふくくうきょう)手術も行われるようになりました。入院期間は通常3~4日で、日帰りで手術を行っている病院もあります。

 

鼠径ヘルニア手術の術後の合併症としては、出血血腫(傷の下に血の塊が溜まる状態)、漿液腫(しょうえきしゅ:手術した部位に液体たまり、固く腫れた状態)、感染(皮膚の真下の浅い部分の感染では抗生剤などで治療が可能ですが、メッシュが感染した場合には、一旦取り出さないといけなくなることがあります)、および疼痛(傷の部分の慢性的な痛み)などがあります。また術後に同じ部位が再度鼠径ヘルニアになることがあり、再発といいます。再発を防ぐためには、日常生活においてお腹に圧がかかることを避けるために、重たいものを持ち上げたり、立ちっぱなしだったりする状態を少なくするように心掛けることが大切です。

まとめ

鼠径ヘルニアは、弱くなった筋膜などの隙間から腹膜を通して腸などが飛び出した状態です。中年以降の男性に多く、立ち仕事の人、咳をする人、喘息の人、便秘の人によくみられます。

初期には症状も軽く、横になったり押さえたりすることで膨らみは戻りますが、痛みや違和感が強い場合や、ヘルニアがでたまま戻らない(嵌頓した)場合には手術による治療が必要です。特に、急な吐き気やお腹の痛みが出現した場合には、腸閉塞の可能性もありますのですぐに病院を受診しましょう。