はじめに

潰瘍性大腸炎という病気を知っていますか?安倍晋三首相も抱えている病気です。厚生労働省の定める特定難治性疾患、いわゆる難病の中でも最も多くの発病率の病気です。日本では急増しています。20代と若いうちに発症する人が多く、生涯にわたり悪くなったり良くなったり(再燃寛解)を繰り返す病気でもあります。まだ根本的な治療法は存在しませんが、正しい知識を持つことで通常の生活を送れる病気でもあります。

目次

疫学

先進国に多く、日本でも急増する病気です。現在17万人の方がこの疾患を持っているとされています。欧米ではもっと多く、日本の10倍程度の発症率で、一般的によくみる疾患になっています。

原因

明確な原因は分かっていません。しかし、世界中の多くの研究から自分自身を攻撃してしまう自己免疫疾患でもあり、発症には免疫機能の不調、過剰な免疫反応が関係していることは証明されています。食生活の欧米化、きれいになりすぎている環境などといった環境因子、遺伝や人種などの遺伝的要因などが複合的に影響して発症すると考えられています。

肉体的、精神的ストレスにより悪化することも知られています。

注目されていること

潰瘍性大腸炎の患者数の推移グラフ-図解

潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患の発症率はファーストフード店の数と同じ傾向を示していることが知られています。このことは、潰瘍性大腸炎が食生活の欧米化と関係が深いことを示している可能性があります。また、上下水道の完備された先進国に多い疾患でもあります。最近は除菌がブームになっていますが、学会などでは多少汚く生活した方がよいのではないかという意見も出てきています。

特に最近では腸内細菌叢:腸内フローラとの関連が考えられ、世界中で研究がなされています。健康な人の便を移植する便移植という方法が世界で試されており、日本でも慶應義塾大学病院で検討されました。しかし現在までのところ効果のあった方と効果のなかった方とがいて、有効性についてはまだ結論が得られていません。

症状

典型的な症状は下痢血便です。粘液のようなものが出ることもあります。

症状が強くなってくると腹痛発熱を起こすこともあります。

関節の痛みが出たり、皮膚に発疹が出たりすることもあります。

治療

初期治療が何よりも重要です。また、治療方法は日々進歩しており、多くの治療方法が存在します。主に免疫に作用する薬剤が使用されますが、効果と共に副作用も存在します。このため特に初期においては専門知識を持った医師の診察を受けることが重要であると言えます。ここでは一般的な治療法をご紹介します。

5-アミノサリチル酸製剤

軽症から中等症の場合にまず使用される薬剤です。日本ではサラゾピリン、ペンタサ、アサコールが使用できます。主に飲み薬が使われますが、座薬や注腸(腸の中に液体の薬剤を入れる治療方法)などがあります。効果が出るメカニズムはまだ詳しくは分かっていませんが、腸に直接効きます。

ステロイド

プレドニゾロンといったステロイド製剤は強力に免疫を抑制します。飲み薬や点滴により投与されます。

ステロイドは強い炎症を抑える効果はありますが、その後使用し続けても再燃を予防する効果は無いことが分かりました。骨粗鬆症や糖尿病など、長期に使用していると発症する副作用もあることから、使用はできる限り短期間にして、他の薬剤により病気のコントロールを図ることが重要であると考えられています。

免疫調節薬

いわゆる免疫抑制剤です。過剰な免疫を抑えるので、調節薬といわれるようになりました。人によって効果の程度が異なり、経験のある医師による治療が望ましいと言えます。

生物学的製剤(抗TNF-α抗体)

炎症を起こすTNF-αという物質に対して作用する抗体を使用した治療方法です。同じ炎症性腸疾患クローン病に劇的に効果があり、治療方法を変えたと言われる薬です。潰瘍性大腸炎にも使用されることがありますが、クローン病と異なり一部の方にのみ効果がみられます。

白血球除去療法

透析のようなイメージです。写真の様に点滴の針を両腕に刺します。片方から血液を取りだし特殊なビーズやフィルターを通すことで血液中の白血球を取り除き、残りの血液を反対の腕から戻すという治療方法です。

一定の効果があることが知られていますが、どの患者さんに効果があるか、なぜ効果が得られるのか明確には分かりません。日本で開発された治療方法で、費用が高いこともあり、主に日本で行われています。大規模な検討では効果が無いとする結果が出ましたが、一度効果のあった患者さんにはその後も効果が得られることが分かっています。自身の血液をとって戻すため副作用が少ないこともメリットとしてとらえられています。

白血球除去療法-写真

手術

内科的治療で病気の勢いをコントロールできない場合(大量の出血や腸に穴が開いてしまうなど)には手術で大腸を切除します。炎症に伴う癌がみられた場合にも、手術が必要となります。

治療費

難病に指定されているので一定額以上はかかりません。認定を受けるには一定の基準が設けられていますので、専門の医師に相談しましょう。

長期経過

寿命が変わらないとする報告があるように、適切な治療を受ければ長期経過は良好です。これまでは症状を抑えることや内視鏡検査で肉眼的に腸の炎症を抑えることを治療の目標としてきましたが、近年では腸の炎症を顕微鏡レベルまで抑える治療方法ができてきており、またその重要性も証明されてきています。炎症が持続すると炎症に伴う癌を発症することもあり、治療の継続が重要です。

妊娠と出産

適切な治療を行っていれば妊娠出産は可能です。治療薬の中には胎児に影響を与えるものもあるので、専門的な知識をもった医師の治療を受けること、妊娠の予定があればそのことを医師と相談することが重要です。

おわりに

潰瘍性大腸炎はまだ原因不明の難病ですが、寿命が縮むことはないとされています。適切な治療を行うことで再燃を抑えることも可能です。世界中で研究がなされており、ここでは紹介できていない治療方法もあります。治療方法は日々変わっており、以前は当たり前のように行われ効果も高いステロイド治療も、現在は必要な時にできるだけ短期間使用し、ほかの薬剤に変更していくことが推奨されています。使用する薬剤にも副作用が存在します。ありふれた病気となってきていますが、特に最初の診断治療がその後にも影響してきます。もし出血があった場合には自己判断で放置せず、専門の消化器内科を受診してみてください。