糖尿病には細い血管が侵される、神経障害、網膜症、腎症の三つの合併症と太い血管が侵される狭心症・心筋梗塞、脳梗塞の二つの合併症があります。

今回は代表的な細い血管が侵される三つの合併症の一つである糖尿病腎症についてお話します。年間約10000人の糖尿病患者さんが糖尿病腎症のため、腎臓での血液浄化機能が低下し腎不全から人工透析になっています。糖尿病が原因で人工透析になった場合、5年後に生きていられる割合はおよそ1/2、2人に1人は亡くなってしまいます。

目次

糖尿病腎症とは

糖尿病腎症は、血糖コントロールが悪い状態(HbA1c:7.0%以上)で約10年が経過するとその兆候が表れてきます(それまでを腎症Iと言います)。診察時に行う尿検査で、通常の尿検査紙では分からない微量なタンパク質が現れ出します(腎症II)。これを微量アルブミンと言います。

微量アルブミンの量が多くなればなるほど腎臓の機能が悪化しています。ですがこの時点ではまだ血糖コントロールを改善(HbA1c:7.0%未満に)できれば尿中の微量アルブミンを減らすことができ、早期であれば出なくなるまでに戻すこと、すなわち腎機能の回復も不可能ではありません。

それでも血糖が悪いまま更に数年放置すると尿検査紙でも分かるぐらいの尿蛋白が出てきます(腎症III)。そしてさらに数年たち尿蛋白も増え、血液中のクレアチニン(腎臓機能の指標です)が正常値を超えて高くなり始めたら(腎症IV)、あと約5年で人工透析腎症V)になるといわれています。ですから血糖コントロールが不良な場合は糖尿病発症から約20~25年の経過で透析になると考えてよいでしょう。自分の腎臓の状態がどのあたりなのか主治医に確認し、進行しないよう手を打ってください。

腎症を悪化させないために

腎症も神経障害と同様、治療というより発症・悪化させないために、まず血糖コントロールを良くすること(HbA1c:7.0%未満)が必要です。また高血圧も腎症を悪化させるため、血圧のコントロール(血圧目標:130/80未満)も必要です。

血圧の薬の中には、腎臓を保護し微量アルブミンを減らす効果を持つARB(アンギオテンシンII受容体拮抗薬)やカルシウム拮抗薬があり、糖尿病の高血圧に良く使用されています。腎症に相当する方は、自分の出されている血圧の薬が何か確認してみてください。

 

食事での注意点は、1日6g未満の塩分制限と、尿検査紙でも分かる量の尿蛋白が出始めたら(顕性蛋白尿と言い腎症III期に相当します)食事で摂取する蛋白質(お肉やお魚など)の制限が勧められています。

蛋白制限は腎症III期で1日体重当たり0.8~1g、腎症IV期で0.6~0.8gです。とはいえ、イメージが湧きませんよね。必ず栄養指導を受けてください
人工透析を防ぐ対策 糖尿病腎症のメカニズムと病期分類-図解

※上図は、クリックまたはタップで拡大してご覧ください。

まとめ

糖尿病合併症は起らないようにするのが理想ですが、糖尿病腎症が起こってしまったら各ステージに合った食事制限を含めた治療に努め、進行を少しでも防止しましょう。血糖コントロールが第一でHbA1cを7.0%未満にすることで進行を防げます。血圧が高い方は血圧管理も忘れずに。繰り返しになりますが、何より薬に頼らず良い血糖コントロールを維持し合併症を予防しましょう。糖尿病合併症から自分の体を守れるのは自分しかいませんから。