糖尿病には細い血管が侵される、神経障害、網膜症、腎症の三つの合併症と太い血管が侵される狭心症・心筋梗塞脳梗塞の二つの合併症があります。

今回は代表的な細い血管が侵される三つの合併症の一つである網膜症についてお話します。糖尿病網膜症は成人後の失明原因の第一位であり、年間約3000もの糖尿病患者さんが視力を失っています。

目次

糖尿病網膜症には自覚症状は無い!

糖尿病網膜症は、血糖コントロールが悪い状態(HbA1c≧7.0%)で約10年が経過するとその兆候が現れてきます。視力が落ちるなどの自覚できる症状は全くなく、眼底のみに高血糖による変化が現れます。眼底の「点状出血」です(単純網膜症)。

この段階なら血糖コントロールを良くすることで回復できます。しかし、血糖が悪いまま放置した場合、点状の出血は大きな斑状の出血となります(増殖前網膜症)。この段階では血糖コントロールだけではもはや回復できず、出血が広がり網膜が剥がれないようにレーザーで焼き付ける光凝固治療が必要になります。光凝固治療を受けた患者さんに話を聞くと、痛い…そうです。

 

また困ったことに、「光凝固治療をしたから治った」と勘違いして安心していらっしゃる方も多いです。光凝固治療は現時点での眼底出血は抑えられますが、根本の血糖コントロールを良くしなければまた別のところに眼底出血が起こってしまいます。ですから、それでも血糖コントロールが良くならず網膜症が更に悪化すると、眼球内を満たしている透明なゼリー状の硝子体に出血がひろがったり網膜が広範囲に剥がれたりして視力が低下します(増殖網膜症)。この段階になると入院して(硝子体)手術が必要な場合が多く、治療の甲斐なく失明に至ることもあります。

定期的に眼科検診を受けましょう

眼鏡とランドルト環-写真

糖尿病と診断されたなら定期的な眼科受診が欠かせません。血糖コントロールの良し悪しにかかわらず、異常がなくても年に1回の眼科受診を、残念ながら眼底に網膜症の変化があるようでしたら眼科主治医の指示に従って定期的な診察を受けてください。

私が以前治療した患者さんに、左目が急に見えなくなったと言って眼科を受診し、眼科から糖尿病内科に紹介されてきた方がいらっしゃいました。7年間も毎年健診でHbA1c8.4%以上の糖尿病を指摘されていたにもかかわらず放置していたため、すでに進行した増殖網膜症の段階で左眼は眼底出血→網膜剥離→失明に至り、当然右眼にも糖尿病網膜症の変化がみられ光凝固治療とインスリン注射での血糖コントロールにより失明は免れました。

最後に

日常生活に支障をきたす視力低下や失明の種となる眼底出血を防ぎ悪化させないためにも血糖コントロールを良くすることが必要です。HbA1c<7.0%であれば発症と進行を防止できます。口うるさいようですが、何より薬に頼らず良い血糖コントロールを維持し合併症を予防しましょう。糖尿病合併症から自分の体を守れるのは自分しかいません!