漢方薬は“穏やかに効く”、“苦くて飲みにくい”、“時代遅れ”、“漢字が多くてわかりにくい”などのイメージがあり、西洋薬に慣れてしまった現代人では飲むのを苦痛に感じる方も多いと思います。しかしクラシエ薬品の2012年の調査では漢方薬を服用した事がある人は約75%にものぼるというアンケート結果が出ています。また漢方薬を処方した事がある医師は約97%(日本漢方生薬製剤協会 漢方薬処方実態調査 2011)という報告もあります。

この科学技術が進んだ世界で“漢方(方は医術や医学の意味)”という古い医療がこうして脚光をあびるのは何故でしょうか?

“漢方薬”とそれを扱う”漢方”について解説いたします。

目次

そもそも漢方薬って何?

手に入りやすい食材(生薬)を美味しくなる(薬効が出る)ように組み合わせて、刻んで煮込んでスープ(薬)にする。このようなスープ(中国語で“湯「タン」”)を作る調理法から生まれたものとされています。そのため上湯や酸辣湯などの様に生薬の組み合わせにより○○湯や△△湯と名づけられています

揚子江の南側で急性感染症を治すために生薬を組合わせて様々な治療薬(湯)が作られていました。その治療薬と急性感染症を後漢の時代(西暦200年ごろ)にまとめたものが“傷寒雑病論(ショウカンザツビョウロン)”です。現在は傷寒論(ショウカンロン)と金匱要略(キンキヨウリャク)にわかれていますが、この書物に書かれている薬が現在使われている漢方薬の原点になります。

漢方とは

古代日本の和方(皇国医方)に韓国や中国から渡来してきた医学が千数百年の時間をかけて混ざり合い、日本の地日本人に合うように日本方として完成された独自の医学です。

明治時代に西洋化政策により医学教育現場から消えてしまいましたが、“よく効くことから民間の開業医たちにより伝えられ、昭和期に復興されました。

「漢方」というよび名は江戸末期に「蘭方」とよばれたオランダ医学と区別するために使われた言葉です。現在の中国系医学は「中医学」、韓国系医学は「韓方」と呼ばれ、「漢方」という呼称は実は日本にしか無いものなのです。

中医学の影響は強いのですが、“腹診など日本でのみ発達した診察方法や治療に対する考え方があり、日本人のニーズに合うように大幅に作り変えられたため、韓方・中医学とは似て異なる医学になります。

漢方の基礎知識

診察方法について

「漢方」の診察方法は四診といって、顔色や体格、皮膚や舌の状態、姿勢歩き方などを観察する“望診話し方や呼吸音等を聞く“聞診患者さんの訴えから必要な情報を得る“問診お腹や脈に触れて診察する“切診があります。

現代のようにCTやMRI等で身体の中身がわかるわけではありませんので、“患者さんの訴え”や“身体の表面から得られる情報”をまとめて判断します。得られた情報から身体全体の変化がどのような「証」になるか判断して、使用する薬を決定します。

似たような症状のカゼにかかっても、発症時期や患者さんの体力・体質、生活習慣等によって薬の内容が変わるのはそのためなのです。

「証」について

漢方は症状によってではなく、患者さんそれぞれの体質と病気による身体全体の変化(証)に合わせて処方するという特徴があります。

証を決める基準は幾つかありますが代表的なものは、病気の性質を示す「陰陽」、体質の強弱を示す「虚実」(中医学では病気の強弱も示します)、体を巡るものの状態を示す「気・血・水」、病気の時期を示す「六病位」などがあります。

他に中医学では陰陽五行説のもと五臓(肝・心・脾・肺・腎)、六腑(胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦)について証を決定する「臓腑弁証」等も利用して決定します。

養生法について

身体が病気を起こしやすい状態であれば、外からの弱い刺激でも病気になってしまいます。また病気になっている状態から回復するためには体力や免疫力を高める事が重要になります。

そのため漢方では身体のケアや病気を治すサポートとして生活習慣や食べ物等の調節を行う“養生法が重要とされます。

この”養生法”は傷寒論の時代から大正時代くらいまでの間に伝承として幾つも追加されて伝えられているため単なる経験談や迷信とされる事が多かったのですが、科学技術の発達や、西洋医学の進歩でようやく科学的根拠に基づいての説明が可能となってきました。

例えば、食べ方や食べる量、食べものの季節・食べる方法を改善することで食事から体の中に取り込むエネルギーやビタミン、ミネラルなどの栄養素の摂取効率を上げたり、消化管失調を改善させ腸管免疫を高めたりすること、眠りの状態を整えることなどが可能となります。

なま物・果物・甘いものなど陰性食(体を冷やし、血管を緩めるもの)を禁止し、陽性食(体を温め、血管を締めるもの)を勧めることや水分摂取に注意することで基礎代謝を調節し冷え症や疲労感などを改善させることが可能です。

もちろん全ての方に同じような養生法が通用するわけではないのですが、その人に合った養生法でサポートすることで漢方薬はより効果を発揮するのです。

漢方の歴史と基礎知識について、ここまでの内容を図にまとめました。
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次回の記事では、漢方の疑問や注意点について執筆していきます。