風邪をひくとついつい市販の総合感冒薬に手を伸ばして、何日間か飲み続ける方は多いと思いますが、実は風邪のひき始めには漢方を1、2回服用すればよくなることがあります。
漢方は市販ではあまりメジャーではなく、“長く飲まないと効かない”とか“副作用がない代わりに効き目が弱い”のでは…と思われがちですが、体質やその時の症状にピッタリな漢方を服用すれば早く治ることも多いのです。
そこで今回は風邪に使える漢方について詳しく見ていきたいと思います。
風邪と漢方
ではまず、なぜ風邪に漢方がよいのかについて見ていきましょう。
風邪というものは80~90%の割合でウイルスが原因となっています(出典:漢方処方のしくみと服薬指導p.28)。
病院でよくもらうクスリのうち抗生物質は細菌をやっつけるためのもので、実はウイルスには効かないため風邪の9割には効果がありません。西洋薬の場合は解熱剤や咳止め、鼻水止めなどの薬を服用して症状を抑えることで体力の消耗を防ぎ治癒を目指します。
また発熱は人間の防御反応のひとつで、ウイルスをやっつけるために必要であることがわかっています。そのためむやみに解熱しない方が風邪の治りが早くなるといわれています。しかし熱が出ることでかえって体力を消耗して弱ってしまう方や水分・食事が摂れなくなってしまう方には必要な分だけ適切に解熱剤を使う場合があります。
漢方は無理に熱を下げたりせず、むしろ身体を温めて発汗させるなど、人間がもともと持っている自然治癒力を高めて治癒を目指します。また風邪に使用する漢方薬に使われている生薬には自然治癒力だけでなく抗ウイルス作用を持つものもあります。そのため体に無理がなく早く治すことができるのです。
実際に風邪に解熱剤を与えたグループと漢方薬を与えたグループとを比較した研究では、漢方を与えたグループの方が早く治癒し、解熱剤を与えたグループでは熱が長引き治療期間も長引いたといった結果が出ています(漢方処方のしくみと服薬指導p.28より)。
眠気などの副作用も少ないのですが、体質に合ったものを選ばないとかえって症状を悪化させたり別の症状がでることもあります。
風邪に使える漢方はどんなものがあるのか?

風邪の漢方薬を選ぶ時大事なことは
- 自然に汗が出ているか、出ていないか
- 風邪のひき始めか、風邪をひいてから2~3日たっているか、風邪が長引いている状態か
について判断し、適切な漢方を選ぶことです。
漢方では体力のある方、体力のない方によって選ぶ種類が変わってきますが、風邪の場合は汗が出ている方・汗が出ていなくても冷え(悪寒ではありません)がある方が体力のない方、汗が出ていなくて冷えのない方が体力のある方とみなして判断します。
それでは具体的に風邪に使える漢方を見ていきましょう。
かぜのひき始め
葛根湯(かっこんとう)
一番メジャーな漢方薬で、汗の出ない体力のある方向けの漢方です。
かぜのひき始めによく使われており、ぞくぞくした悪寒や発熱、肩こりがあるときに用います。身体を温めて発汗させることで風邪を治します。
服用後はうどんやおかゆなど温かい食事をとり、布団をかぶって安静にしてください。
少し発汗して気分がよくなり、治ったかなと思うようなら葛根湯は以後服用しなくてもよいでしょう。
また葛根湯についてもっと詳しく知りたい方は「風邪に効く「葛根湯」ってどんな薬?その効き目や副作用」をご覧ください。
小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
汗が出ず、透明な鼻水が多量に出たり、うすい痰があったりするときに用います。余分な水分を代謝させて体を温めることで風邪を治します。
鼻炎や花粉症などにも使われており、眠くならない鼻水の漢方として市販でもよく売られています。
麻黄湯(まおうとう)
汗が出ず、ぞくぞくとした悪寒、全身の筋肉痛などがあるときに用います。体を温めて発汗させ、エネルギーや栄養の流れをよくして風邪を治します。
最近ではインフルエンザにも効果的とされており、注目されている漢方の一つです。
銀翹散(ぎんぎょうさん)
漢方薬ではなく中医学に分類される薬です。発熱やのどの痛み・口の渇き、頭痛、咳などがあるときに用いられます。
のどなどの炎症や熱を冷やして風邪をなおすため、のどの痛みから風邪が始まる方にお勧めの中医薬です。
麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)
疲れたり無理をしたりした後に身体を冷やして、チクチクしたのどの痛みが出てくる場合や微熱・くしゃみ・鼻水などがあるときに用います。高齢者のかぜによく用いられています。
桂枝湯(けいしとう)
自然にジワジワ汗が出て、寒気がして風にあたってもぞくぞくして微熱があるときに用います。
妊婦が飲んではいけない成分が含まれていないため、妊婦や授乳婦などのかぜ薬としてよく用いられています。
香蘇散(こうそさん)
気分不快・だるさなどがあり、胃腸が弱っている方に用いられます。桂枝湯で胃もたれする方にも使用できます。
かぜをひいて2~3日たっている状態
柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)
熱があがったり下がったりして、吐き気や下痢・胃痛などの症状や頭痛を伴う胃腸風邪によく用いられます。身体の中の炎症や熱を鎮めて、胃腸を元気にすることで風邪を治します。
真武湯(しんぶとう)
下痢やめまいなどがあり、体が冷えて疲れているときに用いられます。また高熱が出ているのに手足が冷えてぐったりしている場合に著効することがあります。
参蘇飲(じんそいん)
汗が出て、胃腸の弱い人で咳がひどい場合に用いられます。
かぜが長引いている状態
竹茹温胆湯(ちくじょうんたんとう)
熱が長引いたり、咳の為に眠れないときに用いられます。
麦門冬湯(ばくもんどうとう)
痰が絡みきれにくく、激しい咳や乾いた咳、のぼせを伴うときに用いられます。口の中やのどを潤して咳を改善させながらかぜを治します。
まとめ
たくさん漢方薬が出てきましたが読み方からよくわからなかったものも多いのではないでしょうか。以下の表を参考にして、そのときの状態・症状を照らし合わせて選ぶとよいでしょう。ただし、風邪については実は20種類以上の漢方薬があり、今回ご紹介した以上に細かく分類された漢方薬があります。今回ご紹介した症状と違う場合やよくわからない場合は漢方専門の医師・薬剤師に相談してください。
●かぜのひき始め● | ||
体力あり (汗が出ない場合) |
葛根湯 | ぞくぞくする悪寒、発熱・肩こり |
小青竜湯 | 鼻かぜ | |
麻黄湯 | ふしぶしの痛み、インフルエンザ | |
– | 銀翹散 | のどの痛み |
体力なし (汗が出るもしくは冷えが強い場合) |
麻黄附子細辛湯 | 悪寒、冷え、微熱、「高齢者のかぜ薬」 |
桂枝湯 | 汗がジトジトでる | |
香蘇散 | だるさ、気分不快 | |
●かぜをひいて2~3日たった状態● | ||
体力あり | 柴胡桂枝湯 | 胃腸かぜ |
体力なし | 真武湯 | 下痢、めまい |
参蘇飲 | 胃が弱い人のかぜ、咳 | |
●かぜが長引いている状態● | ||
体力あり | 竹茹温胆湯 | 咳で夜眠れない |
中間 | 麦門冬湯 | 乾いたせき、痰がきれにくい |
出典:漢方処方のしくみと服薬指導p.30を元にいしゃまち編集部作成
風邪は抵抗力が落ちているときにかかりやすいため、普段から睡眠や栄養をしっかりと取ることで防げることが多いです。しかしどうしても休めないときも多いかと思います。疲れなどがたまって風邪を予防したい場合などには体を元気にする漢方薬「補中益気湯」などを用いてもよいでしょう。
このように漢方と上手に付き合うことで、体力を補って病気の予防をすることもできます(これを“未病を治す“といいます)。苦かったり、粉が飲みにくかったりと少しとっつきにくい薬ですが思っている以上に効果的で、最近では飲みやすいように錠剤になっているものもありますので一度挑戦されてみてはいかがでしょうか?