漢方の疑問を徹底解明!

前回の記事に引き続き、漢方の基礎知識について書いていきます。

漢方というと名前は知られているのですが、一般の方だけでなく医師の中にも間違った知識を持っている方は大勢います。そこでより正しい知識を得るためにも漢方についての疑問をみていきましょう。

目次

漢方薬と西洋薬の違いは?

”薬”というと大抵の方が処方箋袋に入った錠剤やカプセル等の西洋薬を思い浮かべると思います。
では、西洋薬と漢方薬の違いは何でしょうか?

1つは薬の形と味です。

西洋薬は一つの有効成分を合成しているため錠剤やカプセルの形で数も量も少なく、味も人工的につけたり甘い糖衣錠にすることが可能です。

漢方薬はスープを作る(煎じ薬と言います)ため、生薬そのものの匂いや味が混ざった液体(200〜300ml)になります。近年ではエキス剤もできたのですが、それでも量が多く(一包1.5〜3.0g)一部錠剤もありますがほとんどは粉末で、そのままの自然の味です。

2つ目は薬の目的と種類です。

西洋医学は病気を身体のパーツの異常として捉えるため、西洋薬は○○に一つ、△△△に一つというように症状の分だけ薬の数が増えていきます。例えばカゼをひいたときにに咳止め、発熱や喉の痛みに抗炎症剤、鼻水に抗ヒスタミン剤、がからめば去痰薬などカゼという一つの病気に対してだけでも数種類も使用することになります。

漢方の場合は病気は身体全体の変化として捉えるため、その時の身体の状態に合わせて一つの漢方薬を処方する形になります。例えばカゼをひいて発熱し、さらに頭痛、鼻水、肩こり、下痢が併発している場合にも全部まとめて一つの処方になります。

3つ目は薬の性格です。

西洋薬は症状や起きている現象(高血圧、高脂血症など)を抑える事が目的ですので薬を飲んでいる間は効果が持続します。逆に言えば薬を飲んでいないと再発します。いわゆる降圧薬や糖尿病薬などがそれです。

漢方薬は身体全体としての変化を改善させるため、身体の変化が無くなれば症状も無くなる事になります。薬が無くなっても、身体全体の変化が無くなってしまっていれば再発しにくくなります

正しい飲み方はどうすればいいの?

煎じ薬の場合、1日分を作ったら朝夕食前の2回に分けて飲みます。飲む時に温めて飲むのがポイントです。黄連解毒湯のように特殊な処方だと逆に冷たくして飲むこともあります。

エキス剤の場合は、通常朝昼夕食前の3回です。インスタントコーヒーと同じようなものですので、お湯に溶かしてもらって飲んでいただくのが正しい方法です。溶かす時間も無い方は水よりもお湯で飲むのが良いと思われます。

食前というのは漢方の場合は空腹時という意味ですので、薬の効果を最大限に発揮するならお腹の中に何も入ってないほうが良いのです。

飲み忘れてしまった場合は?

できるだけ予定通りに飲んで頂きたいのですが、忘れてしまった場合は次の服用時に2回分飲んでもらったり、寝る前に飲んでもらったりしても大丈夫です。1日かけて1日量を飲んでいただければおおむね問題ありません

長く飲まないと効かないの?

薬を飲む-写真

“長く飲まないと効かない”とか”体質改善用だから何年もかけて”と思われがちな漢方ですが、現在使用されている漢方薬はもともとインフルエンザや腸チフスなどの急性感染症の治療薬として”傷寒論”に書かれており、それが原点になっています。そのため感染症ではなくても急性期の病気に対しては早く効きます。

例えばカゼ急性下痢急性腰痛出血などには早ければ1~2回の服用で、遅くとも2~3日くらいで効果が見られます

逆に冷え症や皮膚疾患など慢性病や時間が経った感染症の場合は弱った身体を建て直すことから始めますので、長めに時間がかかることになります。

漢方は副作用がないというのは本当?

一種類の成分だけを使用する西洋薬よりはるかに安全ですが、漢方薬にも副作用があります。

最近の報告では薬局で買える漢方薬だと西洋薬の14.6%、医師が処方する漢方薬だと西洋薬の0.42%の割合で副作用が認められます。

一番有名なのが小柴胡湯による”間質性肺炎”ですが10万人に対し2.5人(0.0025%)と言われています。また痩せ薬として処方されることのある防風通聖散による”肝機能障害”やこむら返りで使われる芍薬甘草湯による”低カリウム血症”なども比較的有名です。

それ以外に薬疹やアレルギー・腎機能障害・消化管障害もみられる事があり悪化すれば入院が必要になるほど重症になる事もあります。

例えば薬局等で気軽に購入できる”葛根湯”でも飲む人の体調・体質によっては強い反応を起こして、初期のカゼに対しても急激に冷や汗をかいてショックを起こしたようになり倒れてしまうことがあります。

副作用が出るときは身体に合わない漢方薬を飲んでいる場合が多いため、漢方的な診察法で”より体質に合った処方”をすることで少なくすることが可能であると考えられます。しかし全ての副作用を100%防ぐことは難しいため、漢方薬による治療中は定期的に胸部レントゲンや採血をして副作用の早期発見を行った方が良いと思われます。

現代は漢方を処方した事がある医師は90%以上とされていますが医師全てが漢方薬を適切に使用できるわけではないので、ご心配な場合は漢方専門医にご相談ください。

妊婦さんでも大丈夫?

つわりや流産予防・不妊症でも漢方を使うことがありますので、多くは問題ありません。

ただし、妊娠中には使うのは控えた方が良いと言われている生薬もありますし、逆に妊娠中には使用を禁止するとされていた漢方薬でも出産まで使用していて問題無いことがあったりしますので、良い悪いはひとくくりには言えないようです。

大切なお子さんに副作用がでるのを防ぐのためにも漢方を使う場合は専門医にご相談ください。

漢方って保険はきくの?

診察券-写真

現在、漢方薬は一部を除いて健康保険の適応になっていますので、病院で取り扱っているエキス剤であれば基本的には保険適応になります。また生薬を使った煎じ薬でも何種類かの特殊な生薬以外は保険適応となります。

エキス剤でも煎じ薬でも保険適応のためには医師の処方が必要ですので、薬局で処方箋無しで買う場合は自費となります。

医療機関によっては自費診療のみのところもありますので、事前に確認されると良いと思います。

漢方薬を保険適応から除外しようとする動きが財務省などから見られており、その度に漢方を専門に扱う学会やクリニック・患者さんから署名を集め保険適応から外されないように運動が行われています。

保険適応外になった場合、薬を買うのも飲むのも患者さんの自己責任になります。そうなると安全面についても自己責任ですから、西洋薬のように単純に症状で薬を選べるわけではありませんので、間違えると効かないだけでなく副作用がでて、場合によっては入院や死亡事故が起きる事が予測されます。

患者さんの健康リスクと国の財政を天秤にかけるような愚かな方策は無くして、今後も継続して健康保険が使えるようにして頂きたいものです。

どこの医療機関でも取り扱っているの?

現在多くの医療機関で”漢方薬”を取り扱っておりますが、上記の「漢方の基礎知識」でお話ししたような漢方的診察を行い、”証”を判断して漢方薬を処方できる医師はまだ限られております。

近年ようやく医学部でも漢方が必須科目となり教育カリキュラムも組まれているようですが、明治から約100年間”漢方”が医学部教育の中からほぼ完全に排除されていたため、漢方を臨床現場で使える医師を教育する現場もまだまだ少ないようです。

医師であれば漢方薬の処方は可能ですが、適切な漢方治療を行うためには専門医のいる医療機関が良いと思われます。

まとめ

漢方・漢方薬の基礎知識は如何でしたか?

現在、医療機関や漢方専門薬局だけでなくコンビニやドラッグストアでも市販の漢方薬は比較的簡単に手に入れることができます。

セルフメディケーションという言葉がありますが、“カゼに○○湯”とか”肥満症に△△湯””腰痛に□□湯”と言った宣伝文句を鵜呑みにしてしまうと、いくら効果がある漢方薬でも体質・病気にあったものを選ばないと手痛いしっぺ返しを受けることになるかも知れません。

手軽さだけでなく効果的に漢方薬を使用するために、信用できる薬局や医師に相談されてみては如何でしょうか?