がん治療において大切なのは、がんそのものの治療だけではありません。療養中に痛みがある場合は、がんの痛みの治療も重要です。痛みにより受けるべき検査ができなくなったり、治療に集中できなかったり、体力が奪われてしまってはいけません。ここでは、がんの痛みに対してどのような治療が可能なのか見ていきます。

がんによる痛みの種類や原因って?」という記事も合わせてお読みください。

目次

がんの痛みを和らげる治療法

痛みの程度は、本人にしか分かりません。まず大切なのは、医療スタッフに痛みについてきちんと伝えることです。医療者はその人に合った痛みの治療を考え、状況を見ながら徐々に痛みを和らげていきます。

痛みを和らげていく際の目標として下記の3段階があり、これらを達成していくよう痛みの治療が行われます。

第1目標:就寝時に痛みで眠りが妨げられない
第2目標:日中に安静にしていれば痛まない
第3目標:身体を動かしても痛みが強まらない

治療の開始時期は、特に定められていません。大切なのは、がんそのものの治療と並行して必要に応じてがんの痛みの治療も行っていくことです。では、具体的な治療方法を見ていきましょう。

痛み止めの薬

痛みが軽い場合は一般的な鎮痛薬(アスピリン、アセトアミノフェンなど)が、痛みが強い場合は医療用麻薬(モルヒネなど)が使われます。

痛み止めの薬には、飲み薬のほかに坐剤や注射、貼り薬があり、薬が飲めない状態の患者さんの痛みをコントロールすることも可能です。「WHO方式がん疼痛治療法」(1986年発表)による基本方針では、飲み薬を第一にすることや、弱いものから徐々に強くしていくことや、時間を決めて規則正しく使用することなどが勧められています。しかし最近は薬剤の選択肢も広がり、その方に見合った方法を用いて痛みをとることが大切だと考えられるようになってきました。

神経ブロック

注射で局所的に薬を入れ、痛みがある辺りの神経を麻痺させます。これにより痛みが感じにくくなります。

また、神経破壊剤を使う方法もあります。この場合は、一時的にではなく長期的に神経の働きを止めることになります。運動神経など、大切な神経を結果として破壊することもあるので、習熟した専門医によく相談しましょう。

放射線治療

放射線の緩和照射と呼ばれ、痛みの原因へ放射線をあてて痛みを抑えていく治療です。がんを治療するための照射よりも少ない線量をあてます。

骨にがんが転移した場合、とても強い痛みが長い間発生することがあります。放射線治療は、このような骨転移による痛みに対して最も良く使われる方法です。

筋肉を緩める方法

同じ姿勢をとるなど(ベッドに長く寝ているなど)で、筋肉がこわばってくることにより痛みが強くなることがあります。マッサージをはじめ、鍼や灸で筋肉のほぐし、痛みを和らげていきます。病院によってどのような方法があるのか確認してみるのがいいでしょう。

医療用麻薬(オピオイド鎮痛薬)とは

がん性疼痛4

医療用麻薬とは、脳や脊髄といった神経系に作用して痛みを抑えていく鎮痛薬です。代表的なものがモルヒネで、そのほか日本ではコデイン、トラマドール、オキシコドン、フェンタニル、メサドンが使われています。

一般的な副作用として、便秘、吐き気、眠気などの症状が出る場合があります。便秘の場合は下剤(緩下剤)を定期 的に飲む、吐き気の場合は吐き気止めを一緒に服用する、眠気は痛みが和らいだことで安心して眠れている証拠でもあるので様子をみる、など対処しながら服用していけば問題ありません。そのほか、喉の渇きや手のかゆみなど身体的な症状が出た場合は、そのつど担当医に相談をしましょう。

医療用麻薬に対する誤解

麻薬と聞くと、闇市場で取引されているような違法麻薬を思い浮かべる人もいるかもしれません。また中毒になるのではないか、命が縮まるのではないか、と不安に感じるかもしれません。それらは「麻薬」という言葉から連想する誤解です。医療用麻薬は、法律で医療用の使用が許可されていて、医師により処方される安全な鎮痛薬です。

また、医療用麻薬を使うことが、がんの末期症状で安らかに死期を迎えるための最後の手段というイメージも誤解です。医療用麻薬は痛みの程度に合わせて、診断の段階から積極的に使われることが多くなってきています。

医療用麻薬の使用も含めたがんの痛みの治療法については、WHO方式がん疼痛治療法に沿って、世界中で同じように効果的で安全な治療が実践されています。医療用麻薬を誤解せず、正しい知識を持って安心して治療を受けることが、療養中の生活の質を上げることに繋がります。

まとめ

世界的にみると、日本で行われているがんによる痛みへの治療は、まだまだ十分なものではありません。それは痛みを我慢してしまっている患者さんが多いということもありますが、がんそのものの治療に比べて痛みの治療に注目がいっていなかったことも原因です。今後は医療用麻薬への理解も高まり、痛みとうまく付き合いながら療養生活を送れる患者さんが増えていくことでしょう。