だるい、力が入りにくい、疲れやすい…そんな症状に悩まされる重症筋無力症(メカニズムや症状は「異常な疲れやすさを感じる…重症筋無力症とは」の記事を参照してください)。どんな検査、治療があるのでしょうか。
どんな検査でわかるの?
血液検査
抗アセチルコリン受容体抗体(抗AchR抗体)
陽性であれば重症筋無力症である可能性が高くなる項目です。約85%の方ではこの値が高くなります(難病情報センターより)。正常値は0.2以下です。
抗筋特異的チロシンキナーゼ抗体(抗MuSK抗体)
抗アセチルコリン受容体抗体以外にも病気に関与している自己抗体が知られており、抗MuSK抗体もそのうちのひとつです。正常値は0.02未満で、この病気の約5~10%で検出されます(難病情報センターより)。
テンシロン試験
塩酸エドロホニウムという、一時的にアセチルコリン(神経と筋肉の間の命令の伝達に関わる物質)の濃度を上げるはたらきをする薬を使います。この薬剤を静脈注射で投与した際に、症状の改善が認められるか観察します。
電気生理学的検査
末梢神経に電気刺激を加えたり、筋肉に細い針電極を刺入したりして、神経から筋肉への命令の伝達障害があるかどうかを調べる生理学的検査です。
胸部の画像検査
息苦しさや呼吸困難など、肺や呼吸器の症状が無くても、胸部のCTやMRIを調べることがあります。重症筋無力症の原因として胸腺腫の関与があるかどうかを確認するためです。胸腺腫は胸腺という、免疫細胞を作っている器官に腫瘍ができてしまうもので、治療の一環としてこれを取り除く必要があります。胸腺はこどもの免疫獲得に活躍するもので、大人になると役目がなくなり、退化しているのが通常です。
どのような治療法があるの?
年齢や症状、重症度などを考慮し、いくつかの治療法を組み合わせていくことになります。主な4つの治療法を組み合わせていきます。
胸腺摘除手術
胸腺腫がある場合は、それを取り除く手術をするのが第一選択になります。胸腺腫がない場合でも、年齢が若い場合や症状によっては胸腺を摘出する手術の適応になります。
経口免疫療法
症状が軽症~中等症の場合に選択されることが多いです。
経口ステロイド
自己免疫反応を抑える目的で使用します。症状を観察しながら適切な量になるよう調整します。飲み始めてから症状が軽快するまでに時間がかかることもあります。近年ではステロイドの副作用を最小限に抑えられるように、症状が安定している場合はなるべく早期にステロイドを減量していく方針が主流です。
免疫抑制剤
自己免疫反応を抑える目的で使用します。ステロイドが効かない場合や、ステロイドをなるべく早期に減量するための手段として各種の免疫抑制剤が使用されます。
非経口免疫療法
飲み薬以外での治療で、中等症~重症例で選択されることが多いです。
ステロイドパルス療法
大量のステロイドを点滴で短期間に投与するものです。3~5日間を1クールとして、一定の期間をおいて数クール行うこともあります。症状が軽快していても、再燃を抑える目的やステロイドの内服期間を短縮する目的で使用される場合もあります。
血液浄化療法
透析治療をイメージするとわかりやすいかもしれません。血液中のアセチルコリン受容体抗体などの自己抗体を取り除く治療です。重症の場合や薬剤治療に抵抗性である場合に選択されることが多いです。
免疫グロブリン大量静注療法
中等症以上で選択されることが多い治療法です。輸血のようなイメージで、献血者の血しょうから抽出された免疫グロブリンを点滴で使用します。免疫を調整する様々な作用機序を有し、効果を発現します。5日間の連続した点滴が必要なので、基本的には入院で行われる治療です。
対症療法
抗コリンエステラーゼ阻害薬
アセチルコリンの分解をおさえて、神経と筋肉の伝達を一時的に改善する作用があります。対症療法なので、補助的手段として使用されます。症状が一時的にはよくなりますが、疾患そのものを治す薬ではありません。
この薬に注意!~重症筋無力症で使ってはいけない薬~

症状を悪化させるため、使ってはいけない薬を禁忌薬といいます。重症筋無力症には禁忌薬や使用に注意が必要な薬が沢山あります。特に神経筋の命令伝達を阻害する薬剤、筋肉を弛緩させる作用のある薬剤は避ける必要があります。それ以外の機序でも使用するべきではないと考えられている薬は多数あり、処方する側も、処方される側も添付文章に目を通し、内服する前に確認することが重要です。
かかりつけの病院以外を受診する際は
- お薬手帳を忘れないこと
- 重症筋無力症と診断されていることを医師に伝えること
- 市販薬を安易に使わないこと
- 薬局で薬剤師に確認すること
が大切です。
まとめ
近年では重症筋無力症に関与する抗体が新たに発見されるなど、病気のメカニズムに関しても徐々に解明されつつあります。病気の早期発見・早期治療を可能にし、病気が改善する可能性が高くなってきていると考えてもよいでしょう。今回の記事を参考にしていただき、新しい情報にもアンテナを張っていきたいですね。