読者の皆さまの中にも、疲れや疲労感を常に感じている方は多いのではないでしょうか。
単なる疲れであれば一晩休むと回復しますが、なかなか回復しない疲れは病気が原因となっていることも少なくありません。

疲労感の原因となる病気は多くありますが、最近では、いろいろな検査をしても原因となる病気が分からない原因不明の疲労感が存在することが指摘されています。
これは慢性疲労症候群と呼ばれています。

慢性疲労症候群は、どういった病気なのでしょうか?

慢性疲労症候群の症状や考えられている原因、社会的に注目を集める背景について解説します。

目次

慢性疲労症候群とは?

慢性疲労症候群とは、強い疲労感とともに微熱頭痛脱力感思考力の障害抑うつなどの精神神経症状などが続き、健全な社会生活が送れなくなる病気です。

なんらかのストレスをきっかけに、ある日突然原因不明の激しい全身倦怠感に襲われたあと、このような症状が継続します。

アメリカでは1984年にネバダ州のある村で、村の人口の約1%にあたる200名の集団的発生が報告されています。
当時、アメリカではEBウイルス感染症との関連や、その他様々な病原体との関連について調査が行われましたが、原因となる病原体は明らかになりませんでした。

その後、慢性疲労症候群CFS:chronic fatigue syndrom)として、世界中で病気の原因解明が進められています。

日本でも1991年に厚生労働省の研究活動が始まり、ある疫学調査においては疲労感を感じている人のうちの0.3%に慢性疲労症候群が存在しているという結果が出ました。(「慢性疲労症候群の実態調査と客観的診断法の検証と普及」研究班より)

「疲労」の診断は難しい?慢性疲労症候群の症状と診断基準

何かの原因によって疲労感がある場合、多くはその原因を除去すると疲労感は回復します。
休息しても回復しない疲労感は、何らかの病気を疑って検査が行われます。

しかし、慢性疲労症候群では原因となる病気がなく、休息しても回復しないという特徴があります。

さらに、精神的な原因がある可能性を指摘されたり、あるいは、「怠けでは?」と思われて見過ごされたりしてしまうことがあります。

慢性疲労症候群は、身体的・精神的原因が不明な疲労感なので、症状を裏付ける身体の異常反応を示す指標客観的に計測できるものがなく、病気か否かという判断が難しいといわれてきました。
現在日本では、米国疾病対策センター(CDC)によって1988年に作成された診断基準をもとに、1991年に厚生労働省(旧厚生省)が作成した診断基準が用いられています。

この診断基準を要約すると、慢性疲労症候群と診断するためには次の3つの条件を満たす必要があるといえます。

  1. 長期間の断続的な疲労で、疾患・病気と一切因果関係が認められないこと
  2. 発症の時期が明確で、休養不足や生活習慣が原因ではなく、月に数日は会社・学校を休まなければならない程度の疲労であること
  3. 一定の自覚症状がいくつか認められること(自覚症状には、筋肉痛、多発性関節痛、頭痛、睡眠障害、微熱、筋力低下などがある)

慢性疲労症候群の解明されつつある原因とは?

これまでの研究でウイルス感染症説内分泌異常説免疫異常説代謝異常説自律神経失調説などさまざまな学説が報告されてきました。
最近の研究では、こうした異常が独立して存在関与しているものではなく、複合的に重なり合って関連していることが明らかになってきました。

原因として考えられていることとして、ストレス、遺伝、感染症の関与が有力です。

生活環境ストレスの関与

慢性疲労症候群には生活環境ストレスが関与していることが明らかになっています。
生活環境ストレスには次の5つが挙げられます。

これら生活環境のストレスは、複数が組み合わさって身体の免疫系内分泌系、神経系のバランスに影響し、慢性疲労を引き起こす原因となっていると考えられています。

  • 人間関係や仕事上の精神的なストレス
  • 過重労働など身体的ストレス
  • 紫外線や騒音などの物理的ストレス
  • 化学物質や残留農薬などの化学的ストレス
  • ウイルスや細菌感染などの生物学的ストレス

遺伝的背景の関与

ストレスに関連した病気には、ストレスそのものの多さや強さだけでなく、ストレスに対する感受性抵抗性が影響しています。

些細なことが気になる性格や、全てを自分で行わないと気が済まない完璧主義の気質は、同じ環境にあってもより強くストレスを感じてしまう傾向があるとされています。

また、ストレスに対するセロトニン(精神の安定をもたらす働きを持つ神経伝達物質)の代謝には遺伝子の働きが関与しており、セロトニンの分泌量によってストレスの感じ方に違いが出てくると考えられています。

感染症の関与

慢性疲労症候群の中には、ウイルスやその他の病原体からの感染症をきっかけに発症したものも少なからず存在しており、これらは感染後CFSとして区別されています。

他方で、はっきりとしたきっかけはなくても、ストレスが引き起こす免疫力の低下がヘルペスウイルスの再活性化などの慢性的な感染症に関与していることが明らかになっており、慢性疲労症候群との関連が示唆されています。

慢性疲労症候群に陥るメカニズムとは?

寝起きの猫-写真

わたしたちの体はストレスを感じると、免疫系、内分泌系、神経系に変調をきたします。

神経、内分泌、免疫の3つの系はそれぞれに重要な役割を果たし、1つの系は他の2つの系の働きにも影響を及ぼしています。

そのため、慢性疲労症候群では1つの系に変調が生じるとつられて他の系にも変調が生じ、疲労感」という症状となって現れると考えられています。
免疫は、体を外的から守ってくれる仕組みですが、3つの系の中で最もストレスの影響を受けやすい特徴があります。
疲れが溜まると口唇ヘルペスができるのもその一例です。

特に、慢性疲労症候群ではアレルギー歴のある人が多く、抗核抗体(自分の細胞を異物と思い攻撃してしまう自己抗体の総称)の出現や免疫機構の異常などがみられます。

内分泌系の異常

内分泌系はホルモンによって体のあらゆる機能のバランスを保つ役割を果たします。

ところが慢性疲労症候群では、身体のあらゆる代謝に関与しているホルモンが過剰に分泌されたり、足りなかったりすることが分かっています。

なお、慢性疲労症候群にみられる抑うつ症状はうつ病との鑑別を必要としますが、うつ病患者では血液中のコルチゾールが上昇していることが多いのに対して、慢性疲労症候群の場合は減少していることが多いなど、内分泌の異常に違いがあることが明らかになっています。

脳・神経機能異常

神経系は、体の機能のバランスを保つため、からだの各部位に命令を出します。

この点、慢性疲労労症候群の脳機能異常に関しては、脳画像解析により様々なことが分かってきました。
脳血流を見る検査では、前頭葉、側頭葉、後頭葉、基底核、脳幹部など様々な部位の脳神経細胞の活動性が低下していることが確認されています。

疲労感だけでなく、動悸や発汗異常、立ちくらみなどの自律神経失調症状や、感情の調節障害(泣き続ける、すぐ怒る)、短期の記憶障害などの症状がこうした脳機能の異常によって起こっていると考えられています。

まとめ

慢性疲労症候群は、少しずつ発症のメカニズムが明らかにされつつある状況です。
しかし、診断が困難で時間がかかることや、あまり知られていない病気であるために周囲の理解がなかなか得られないことなど、多くの課題が残されています。