「疲れやすい」というのが特徴のひとつである「重症筋無力症」は、病気なのか本当に疲れているのか判断が難しいこともあります。診断を受けたあとでさえ、周りにもなかなか病気を理解してもらえず、辛い気持ちになることもあります。
重症筋無力症とはどのような病気なのでしょうか。「疲れやすさ」という症状が起こるメカニズムや、その他特徴的な症状について解説します。
筋が無力になる病気?重症筋無力症のメカニズム
筋が無力になる、とはどういうことでしょう。筋肉は、脳から出た「動け!」という命令が末梢神経を伝わり筋肉に届くことで動きます。このとき出される物質をアセチルコリンといいます。筋肉は伝達を受け取る部分(アセチルコリン受容体)で、そのアセチルコリンを受け取って動きます。
重症筋無力症では、受容体を壊してしまう物質(抗アセチルコリン受容体抗体)が自分の体の中で作られてしまい、受容体が少なくなってしまうのです。その結果、上手に筋肉を動かすことができなくなります。
このように、正常な働きを妨げる抗体を自分で作ってしまう病気は、自己免疫疾患(本来、攻撃対象ではない自己に対して免疫応答が起きてしまう疾患)に分類されています。どうして自分で自分を攻撃するような抗体を作ってしまうのかは分かっていません。厚生労働省の難病に指定されている病気です。
女性のほうがなりやすい?
重症筋無力症は1:1.7の割合で女性に多くみられます(難病情報センターより)。20~40代の女性に発症が多くみられますが、子供から高齢者までどの年齢にも患者さんのいる病気です。日本全国で推定2万人以上の患者さんがいて、年々増加傾向にあります。
自己免疫性の重症筋無力症は、遺伝性の病気ではありません。難病に指定されてはいますが、治療法の確立されている病気です。長期間の治療は必要で「完治」するものではなく、治療の必要がない状態になる患者さんは全体の6%程度ですが(難病情報センターより)、この病気が原因で亡くなるということはほとんどなくなっています(日本MGレジストリ―多施設研究より)。
日常生活は問題なく送れるの?
亡くなることはほとんどありませんが、完治するものではないため治療は長期にわたります。中でもステロイドでは長期の副作用が分かっており、下記のようなものがあります。これらにも適切に対処していく必要があります。
治療の中では主治医が自覚症状をたずねたり、定期的な血液検査で異常がないかどうか確認しながら内服を続けていきます。副作用予防のために、胃薬や骨粗しょう症の薬を処方されることもあります。
重症筋無力症の症状は?その1:目の症状
この病気の約3分の1は眼筋型といい、目の症状だけが出るタイプです。最初は眼筋型でも、全身型になる場合があるので、注意が必要です。
眼瞼下垂
眼瞼下垂(がんけんかすい)とは、「瞼が重くなる」「瞼が下がってくる」状態です。瞼を支える筋肉が疲れてしまうことで起こります。
複視
眼球を動かすためには沢山の細かい筋肉が働いています。それらの筋肉が疲れてしまうため、「ものが二重に見える(複視)」という症状が出ます。
重症筋無力症の症状は?その2:筋肉の症状(全身の症状)
眼の筋肉だけではなく、全身の筋肉にも症状が起こるものを全身型といいます。
易疲労性
疲れやすい、という症状で、何回も繰り返して運動すると筋肉に力が入らなくなります。これは、筋肉の受容体が、繰り返しの運動を苦手とするせいです。破壊されて少なくなった受容体でがんばっていると、頑張り切れなくなります。その結果、疲れやすい、だるい、という症状がでてくるのです。
飲み込みづらい、呼吸がしづらい
喉のまわりの筋肉の症状です。症状の中では特に注意が必要で、自分で呼吸ができなくなってしまい人工呼吸器が必要になることもあります(クリーゼと呼ばれる状態です)。口から喉のまわりの筋肉の疲労でこのような症状が出てきます。
すべての症状に共通して、日内変動(1日の中で症状が良かったり悪化したりすること)があります。筋肉の疲労が原因なので、1日活動していると、夕方に悪化することが多いのが特徴です。
まとめ
疲れやすい、というだけでは、自分でも気付きにくいかもしれません。長く続くようなだるさや疲れを、特に夕方以降に強く感じるようであれば、一度受診してみてください。重症筋無力症はほとんどが検査ではっきりさせることができるので、あれ?と思ったら神経内科に相談してみましょう。