「人食いバクテリア」という、なんとも恐ろしい名前で呼ばれる病気があるのを知っていますか?その名も「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」。風邪によくにた病気ではありますが、死に至ることも少なくありません。さらにこの病気、実は近年増加しており、2016年も年間患者数の最多記録を更新しています。いったいどのような病気なのでしょうか?

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劇症型溶血性レンサ球菌感染症とは

考え込む医師-写真

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、レンサ球菌という風邪のウイルスとは異なる細菌による病気です。細菌とはウイルスと違って自己複製能力を持ち、抗生物質が有効なものを指します。通常はレンサ球菌に感染してものどの痛みや皮膚の感染症程度にとどまります。

ですが、ごく稀に通常は細菌が存在しない組織(血液、筋肉、肺など)にレンサ球菌が侵入し、急激に症状が進行する重篤な疾患となることがあります。これが「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」です。

発症すると数日以内に血管や神経などが壊死し、あちこちの臓器に障害を起こして、ショック症状になり死亡することが多い病気です。

1987年にアメリカで発見されて以降、日本でも毎年100-200人の患者が報告されています。このうち約30%が死亡しているので、きわめて致死率の高い感染症だといえるでしょう。

子供から大人まで広範囲の年齢層に発症し、特に30歳以上の大人に多いのが特徴の一つです。(国立感染症研究所より)

どういうメカニズムで発症するの?

劇症型溶血性レンサ球菌感染症の原因となるのは「A群溶血性レンサ球菌(溶連菌)」で、しばしばのどや皮膚にみられる細菌です。のどや皮膚にこの菌を持っていても、何の症状もない場合もあります。A群溶血性レンサ球菌感染による一般的な疾患は咽頭炎(いんとうえん:のどの炎症)や膿皮症(のうひしょう:皮膚の炎症。伝染性膿痂疹(とびひ)とも)で小児に多く見られます。

しかし、A群溶血性レンサ球菌が血液や筋肉、肺といった通常は存在しないところに入り込むと重度のレンサ球菌感染症を引き起こすことがあります。これが劇症型溶血性レンサ球菌感染症です。子どもの風邪の原因などとして知られている溶血性レンサ球菌がなぜ劇症化するのか、詳しい原因はわかっていません。

劇症型溶血性レンサ球菌感染症の症状は?

劇症型溶血性レンサ球菌感染症の初期症状としては

  • のどの痛み
  • 発熱
  • 悪寒
  • 消化管症状(食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢)
  • 全身の倦怠感
  • 低血圧
  • 筋肉痛

などがあります。

風邪ととてもよく似た症状のため、早期発見が非常に難しい病気です。症状は数時間~数日の間に急激かつ劇的に進みます。

その後進行すると、

  • 筋肉の壊死
  • 多機能不全
  • 急性心不全

などを招きます。発症した場合はペニシリン系の抗生物質の投与や壊死した部分の切除などを行いますが、発病後数十時間で死に至ることも少なくありません。

どうやって予防法したらいい?

感染経路は明らかになっていない部分も多くありますが、傷口から感染することが多いとされています。

そのため、

  • 傷口を清潔に保つ
  • 直接触れない

ようにしましょう。傷口の腫れや痛み、発熱など感染の兆候が見られた場合にはすぐに医療機関を受診してください。

飛沫感染の例もありますので、その予防には、

  • うがい
  • 手洗い
  • マスクの着用

などの一般的な感染症予防にもつとめましょう。

その他、体力をつけることも有効な予防法だと考えられています。体力アップには、

  • 規則正しい生活
  • バランスのとれた食事
  • 十分な休養と睡眠
  • ストレスをためない
  • 適度な運動

など健康的な生活を心がけることが重要です。

2015年は過去最多の患者数?!

日本における最初の感染は1992年に発見されました。それ以降、日本では毎年100~200件の劇症型溶血性レンサ球菌感染症が確認されています。2015年には434名、2016年は11月20日現在の患者数が442名と、過去最多の患者数を更新しました(札幌市より)。

また、劇症型溶血性レンサ球菌感染症は現在のところ有益な対処法がないため、予防法や治療法の確立が急がれています。

まとめ

わずか数日で死をもたらすこともある劇症型溶血性レンサ球菌感染症。決して治らない病気ではありませんが、危険性が高いのも事実です。症状も風邪と似ており発見が難しいため、日頃の生活でできる予防法に励むことが大切だといえます。