厚生労働省の難病指定にもなっているパーキンソン病は、進行性の神経疾患です。筋固縮(きんこしゅく:筋肉が固まって動かそうとすると抵抗を感じる)や動作緩慢、姿勢反射障害(体がバランスを崩したときに、体制を立て直す反射の機能が働かなくなる)、振戦(しんせん:ふるえ)が起こり、日常生活動作がだんだん行いにくくなり、ついには寝たきりとなります。パーキンソン病のリハビリはどのようなことを行うのかを説明していきます。

目次

パーキンソン病のリハビリの目的とは

1.パーキンソン病でみられる症状

初めは「歩行時の体の傾き」や「歩き始めの一歩が出ない」、「手足の震え」、「筋肉が固まって着替えなどの動作が行いにくい」などの症状が現れます。だんだんと症状が進行すると、バランスが悪くなって転倒を繰り返し、自分一人では動作が行なえなくなって介助量が増し、やがては寝たきりの状態となります。症状の出方や進み具合は個人によって様々です。

パーキンソン病の方は症状の日内変動や日によっての動きの差が非常に大きく、さっき行えていたことでも、しばらくたつと体が固まって動けなくなってしまうことが良くみられます。周囲の人から見れば、「さっきは行えていたのだから、ちゃんとやればできるのに何で動かないのか」、「さっきと同じように動けばいいのにさぼっている」などと勘違いされがちです。

一生懸命行なっているのに思うように体が動かないパーキンソン病の本人自身も周囲に理解されないことで気持ちが落ち込みやすく、動くことが億劫になります。そうして、動かない時間がだんだん長くなってくると、ますます筋肉が硬くなり、廃用性の筋力低下や関節の可動域制限を起こして日常生活が行いにくくなっていきます

なお、症状について詳しくは「手や体の震えが特徴、パーキンソン病の症状や原因は?」の記事をご覧ください。

2.パーキンソン病のリハビリの目的

パーキンソン病の治療は、パーキンソン病で障害されるドパミン神経細胞の働きを補う薬を服用します。薬が効いて体が動かしやすくなっている時にリハビリを行い、しっかり体を動かして筋肉の柔軟性の改善、筋力低下の予防、関節可動域の維持・改善、バランス練習などを行います。

身体の機能維持と機能低下の予防を図り、日常生活動作が安全に行いやすくなるようにリハビリが行われます。時間によっても日によっても症状の出方が変わるパーキンソン病の症状は、介助者となる家族や周囲の理解も必要です。介助者への指導やアドバイス、症状の進行度に合わせて、日常生活が行いやすくなるような福祉用具の導入や環境調整なども行います

パーキンソン病で行うリハビリとは

1.運動療法

病気の進行に伴い、動作に支障が生じるようになります。例えば、次のようなものが挙げられます。

  • 筋固縮がみられ、関節が伸びきらないまま姿勢をとりがちとなるので、関節可動域制限がみられたり、動きが少なくなることで筋力低下がみられたりします。
  • 姿勢のバランスをとりにくくなり、立ち直り反応が起こりにくく(傾きや姿勢が崩れたときに姿勢を戻すことが難しく)なります。
  • 歩行も小刻みとなりがちで、大きく一歩を踏み出すことや、姿勢を変えること、向きを変えることも行いにくくなります。
  • 体幹や顔、首の筋肉も固くなり、顔の筋肉のこわばり飲み込み発声なども行いにくくなります。

これらの症状を改善するために、運動療法では必要な筋力をつけたり、関節を動きやすくするためのトレーニングをしたり、姿勢を保ったままバランスを取る練習、姿勢が崩れた時にも立ち直れるようにするための練習、発声などをします。具体的には、以下のようなことを行います。

  • 体の筋肉の柔軟性の改善
  • 手足の関節可動域の拡大
  • 手足、体幹の筋力増強訓練
  • しっかりと背中やお尻、膝を伸ばして立つ練習
  • 体を大きくねじる体操
  • 真っすぐ座る、立つなど姿勢を保持する練習
  • 四つ這いや膝立ちなどでバランスを保つ練習
  • 姿勢の立ち直り(姿勢が崩れた時に元に戻す)の練習
  • 首や肩の体操
  • 顔の筋肉を動かす練習
  • 口を大きく開けて発声練習
  • 舌の動きや唾を飲み込む練習

など

2.動作訓練

実際に起き上がる、立ち上がる、座る、歩くなどの動作訓練や、着替え、ボタンをはめる、字を書く、箸を使う、湯船に入る、料理を行う、掃除をする、洗濯をするなどの日常生活動作家事動作を実際に行い、動作の修正や行いやすくするためのアドバイス、練習を行います。

パーキンソン病では立っているとだんだん前かがみになってきてしまう、歩いていると前へ突進してしまう、歩幅が小さくなり前へ進みづらくなる、歩いているときに急に止まってしまう、立ち上がる際にお尻が上がらない、体が伸びない、字を書くと小さくなってしまうなどの症状がみられます。

運動療法で動作に必要な筋力や関節の動き、バランスのとり方、姿勢の立ち直りなどの基礎となる部分を練習するとともに、動作訓練により、声掛け目印の活用、直接的に身体を修正することを行い、動作が安全にスムーズに行えるように練習していきます。

3.環境調整

パーキンソン病は徐々に進行していきます。症状に合わせて、杖や歩行器、車椅子、ポータブルトイレ、トイレやお風呂・玄関の手すり、玄関の上がりかまちの段差解消、浴槽内の滑り止め、扱いやすい食器やスプーン、介助箸、電動ベッドなど、福祉用具の選定・導入と家屋環境の整備を行います。本人が安全に動作を行いやすいもの、介助者が介助を行いやすいものを選択し、使い方の指導やアドバイスなども行います。

4.介助指導

パーキンソン病は一人一人、症状が異なり、介助の仕方も異なります。マニュアル通りの介助方法では上手く行かないことも多々あります。一人一人に合わせた方法で介助者の負担も少ない介助方法を介助者に指導します。発症すれば長く付き合うことになる病気ですので、日内変動や日によって差があることへの理解も促し、なるべく本人が行なえることは見守り、難しいことを介助するようにアドバイスを行います。

パーキンソン病のリハビリを受けられる場所

パーキンソン病のリハビリは医師の診察を受け、リハビリの指示があれば、理学療法、作業療法、言語療法などのリハビリを病院、デイケア、高齢者施設、市の福祉センター、訪問リハビリなどで受けることができます。

医療費制度について

パーキンソン病の重症度(ホーン&ヤールの重症度)と生活機能障害度によって難病医療費助成制度の対象となる方は、申請手続きを行うことによって医療費(リハビリを含む)の助成や自己負担額なしで介護保険のサービス(訪問リハビリなど)を受けることができます。

パーキンソン病の方と家族の方に向けた体操教室の開催や家族支援なども行っている市町村もあり、パーキンソン病の方同士での情報交換や交流が図れる場もあります。お住いの地域の保健所等がこのような情報を提供したり、連絡先となっているところもあります。

ホーン&ヤールの重症度

0:障害なし
1度:身体の片側だけに障害がみられるが、日常生活への影響はほとんどない
2度:身体の両側に障害がみられるが、日常生活は自立している
3度:歩行障害や姿勢反射障害がみられ転倒することがあるが日常生活はなんとか自立している
4度:立つ、歩くことはできるが日常生活動作に介助が必要
5度:日常生活のほとんどに介助が必要で移動は車椅子が必要

 出典:難病情報センターを元にいしゃまち編集部作成

生活機能障害度

1度:日常生活、通院にほとんど介助を要しない
2度:日常生活、通院に部分的介助を要する
3度:日常生活に全面的介助を要し、独立では歩行起立不能

  出典:難病情報センターを元にいしゃまち編集部作成

パーキンソン病のリハビリ期間

パーキンソン病は発症すれば一生付き合っていかなければならない病気です。早期から身体の機能維持や機能低下の予防を行うためにリハビリを開始して、症状に合わせた適切なリハビリを受けることで日常生活が行いやすくなり、自分らしい生活を続けることができます。主治医からリハビリの指示が出れば、理学療法、作業療法、言語療法などのリハビリは継続して受けることができるので、まずは主治医とリハビリの進め方について相談してみましょう。

まとめ

パーキンソン病は指定難病であり、徐々に体を動かしにくくなっていく進行性の病気です。現在では薬の開発も進んでおり、薬物療法とリハビリによって病気の進行を緩やかにすることが可能です。日常生活を活動的に過ごすことが生活の質の低下や身体の機能低下を予防することにつながります。生活環境を整えながらできるだけ今の生活を続けられるようにして、症状に合わせた必要なリハビリを行っていきましょう。